9話 ベラの子育て奮闘記
ベラは、双子の男の子たちを産んだ。
彼女は前の結婚で、子供を育てることを諦めていただけに、
一度に二人も赤子を抱くことができて喜びもひとしおだった。
そして、良い母親になろうと心に誓う。
ところが、双子は、次第にラーウス人の特質を表すようになり、
自分の思っていたような良い母親になるのは難しいと気付く。
双子は、おっぱいの取り合いから戦いを始めていた。
そして、歩き出す幼子たちを工事中のエルナトで世話しきれず、
復興で忙しいイベリスにも、そうそう頼ることは出来ない。
それで、セイリンの妹のメルルが手伝ってくれることになった。
当時、セイリンは、リオンの元におり、ラーウスにはいなかったのだ。
そうしてベラは、一生懸命に息子たちを躾ようと奮闘する。
反対にイベリスは、そんなことなど心配していない様子だった。
むしろ彼は、ラーウス人が四分の一の双子たちに、血が薄くなるとこうも大人しくなるのかと驚き、
ラーウス人の回復は、混血が最短距離の道ではないかと豪語する。
ベラにしてみれば、混血と純潔の違いはどこにあるのかと疑問だった。
第一、ラーウス人と異国人の結婚は、離婚に終わる確立が高く、評判が悪いので、
誰が好き好んでラーウス人と結婚するのかとも思う。
双子は、イベリスが一声かけると、大人しくなってしまうのも不可解だった。
それは、権威に従っているからで、
もちろん、権威がしっかりしていなければ、すぐに覆されるので油断は出来ない。
自然の摂理と言えばそうなのであり、母親が口やかましく言っても息子たちは従う様子もなく、
一生懸命にがんばっているベラは、
「わたしは、いったい何なの!?」と、がっかりしてしまう。
「君は考えすぎだよ」とイベリスは言った。
「ラーウス人は、帝国の貴族とは違うんだ。
どうせあの二人は、ロセウスの王宮へ上がるんだからほっとけばいい」
双子は、七歳になればロセウスの王宮に送られ、
父親と同じように、賢者としての教育を受けることになっている。
ベラは、息子たちが、王宮で皆に迷惑をかけるのではないかと心配しているのだけれど、
イベリスは、「王宮は、自分で慣れているから大丈夫だ」と言う。
彼女は、そんなものなのかと思うが、やはり母親だから心配だ。
イベリスの時とは違い、息子たちはかなり大きくなってロセウスに行くのであり、しかも二人一緒にだ。
ベラは、かなり後になって知ったのだけれど、イベリスの時も大変だったらしく、
今度は双子なので、王宮の庭に檻でも作ろうかという話まで持ち上がっていた。
ベラは、ロセウスに双子を送り届ける時、
ウィリディス王国が、専用機を準備してくれたのに感謝した。
そうでなければ、本当に、子供たちを檻に入れて運ぶことになったかもしれない。
イベリスは、子供たちの喧嘩を見ても、ほとんど無視する。
ベラは、良く我慢できるなと関心していた。
ところがイベリスの我慢は、全く別の意味があり、
自分も喧嘩に加わりたいという欲求を我慢していたのであって、
自分が入ると、子供たちに怪我を負わせてしまうのは分かりきっているから、
出来るだけ見ないようにしていたのだと言う。
唖然としたベラは、
混血によるラーウス人の回復への道は、完全に絶たれたと思った。
実際、この双子は、ラーウス人の血が四分の一であったとしても
お互いに刺激し合い、ラーウス人全開のスイッチを押してしまっていたらしい。
そういう意味では、子育てを楽しみしていたベラだけに、
ラーウス人の血が混じっていたのは気の毒なことだった。
さらに、もう四分の一は、イベリスの母親のダカンギデオン族で、
勇猛果敢な騎馬族らしく、ラーウス人にも引けを取らないと言われていたそうだ。
子供を馬の背中で育てたりする民族だったとも聞いている。
ベラは、「唯一、無難なのは自分だけだ」とため息を付くのだけれど、
イベリスは、「『無難だ』とは違うのではないか」と言う。
彼は、自分の妻が、ラーウスの女に劣らずたくましいと思っている。
しかもベラは、皆から、「この双子は、父親より母親似だ」と言われ、
母親として、喜んだらいいのか悲しんだらいいのか分からず、複雑な気持ちだ。
とにかくベラは、王宮に上げるまで、双子を育てるのに必死だった。
一つ良いことは、この双子は喧嘩をしていない時は仲がいいことだ。
それもラーウス人の性格で、セイリンとミユも仲良しだった。
さてアリアが、ベラことフロースの弟であるカイと結婚することになり、
彼らの新婚旅行は、ウィリディスに決まった。
アリアは、ウィリディス王国専用機で、密かにラーウスへ行くことを計画していて、ベラに会えるを楽しみにするのだけれど、
事情を知らないカイは、
「何で、そんな辺境の地まで行かなければならないんだ!」
と文句を言った。
このころアリアは、貧困救済活動で有名になっており、
その一環としてラーウスに行きたいのだろう、ぐらいにしか思っていなかったのだ。
ベラは、この二人が婚約したことを聞いた時、再び妊娠しており、
その子は、彼らが来る頃には生まれているので、赤子を見てもらえると楽しみにする。
ただ、上の双子は、あまりにも活発なので、
カイに、姉の子供のしつけ方が悪いと言われそうだった。
ロセウスでは、アクィラがステファナを王妃に迎えており、
第一子の出産予定日は、ベラと同じ頃だと聞いてお互いに喜んだ。
しかも生まれたのは両方とも女の子で、
姫の誕生を、側近たちは喜んだのだが、
アクィラには四人もの姉たちがいたので「またか」とも思い、
「次こそは王子を」と祈願する。
彼らの苦労は続いていた。
さて、この第一姫であるが、美しい乙女に成長すると、
イベリスの息子たちが、姫の取り合いをするようになっていく。
結局、兄の方が姫を獲得し、
敗れた弟は、意気消沈してラーウスへ戻っていき、ラーウス人女性と結婚した。
この双子は、父のイベリスとは違い、かなり大きくなってからラーウスを離れたので、故郷への愛着が強く、
ロセウスに残った兄は、夫婦仲は良いのだが、王宮の窮屈な生活に嫌気がさすとラーウスへ逃げてくる。
イベリスは、「母親似だから、仕方が無い」と諦め顔だ。
兄は、ラーウスに戻った弟の方が、伸び伸びとして幸せそうだと羨ましく思っていた。
このように、人生には「負けるが勝ち」ということもあるのだ。
もちろん、そんなことなど言わない兄だが、弟の方は、頻繁にやってくる兄に大喜びだ。
そして、「独身時代、再び!」と、この二人が森に入ると、
そこにいた動物たちは、毒蛇に至るまで、そそくさと逃げるのであった。
とにかく、ラーウスがウィリディスの兄のような役目を負っているのは、
彼の時代も変わりはなく、
父のイベリスが果たせなかった仕事を、この息子が行ない、
アクィラの次の王を助けることになる。
とはいえ、それはまだ先の話だ。
アクィラに生まれた第二子は、王子だったので、アクィラの側近たちは、肩の荷を下ろしていた。
一般のラーウス人は、ある程度の年になると自分を抑制できるようになる。
もちろんそれは、ラーウス社会と親たちの努力の賜物で、
社会全体が、子供たちの成長を見守っている。
それで、ラーウス人は、他所に住みたがらないのだ。
ラーウスでは、よほどのことが無い限り、夫婦や家族も争ったりしない。
彼らの先祖の失敗もあるので、意見や考えの違いによる衝突はあっても、
「争いにまで発展するのは非生産的」と見なす習慣がある。
男たちは、争っても仕方が無いし、体力がありあまっているので、その分、仕事に励み、時には男同士で山に入り、気分を発散する。
彼らの間では、休戦状態が生涯続いているという感じだ。
だから密猟者を見つけると、一揆にその箍が外れて騒ぎになってしまい、
精神を落ち着ける間、仕事が出来なくなる、というツケを払わねばならなくなる。
ということで、ラーウスでは、男も女も争うのは子供の内だけなのだ。
イベリスは、そのことをベラに説明するのだけれど、母親の心配は尽きることがない。
双子が七歳でロセウスへ行った時、別の子供たちが生まれていた。
ベラは、その子供たちの争いにも翻弄されながら、
イベリスが言った通り、
彼らが成人するのを心待ちにするのであった。




