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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          11話 達成感

 朝になり、バーディの出発の時は迫っていた。

イベリスは、まだ戻らない。


 とにかくバーディは、ベラことフロースが無事だったことに胸を撫で下ろしていた。

とはいえ主要な目的、ベラの恋を助けることは、達成するどころか反対の方へ向かっている。


 それで、「たった二日で何が出来るんだ? 何もできやしない!」

と開き直ったバーディは、彼女に会えただけでも良かったと思うことにした。



 さてバーディは、自分が運転してきた車に手を置いて、

「これを君にやるよ」と言った。


 ベラは素っ気なく答える。

「車の運転は出来ないから、いらないわ」

「これから練習すればいいじゃないか。

こんな田舎に住むんなら、車は必要だよ」

「いいの、わたしは歩くから」


 バーディがどんなに勧めても、彼女は車はいらないし運転もしたくないと言う。



 そうしている内にイベリスが戻ってきて、

「どうしたんだ?」と聞いた。


 バーディは、「やっと戻って来た。アン・ルーのことを聞かなくては」と思ったら、

その前にベラとイベリスの会話が始まってしまった。


 「バーディが、わたしに車をくれるって」

「運転もできないのに?」

「練習すれば、運転できるようになるって」

「それは無理だろう」

「どう言う意味?」

「君が運転するとしたら、真っ直ぐに走ることくらいだ。

エンジンをかけられるだけでもえらいと思うよ」


 ベラはむっとする。


 「わたしが馬鹿だってこと?」

「そんなことは言ってない。

君は、車に乗るのを怖がるじゃないか」

「それは、エルナトとサライの間だけでしょう。

エスペビオスでは、ちゃんと車に乗ってました。

運転は、したことなかったけど」

「どっちにしても、ここで乗れなきゃ意味ないよ。

君の運転だなんて、考えるだけでも危ない。

無理だ」


 イベリスは、「乗ろうが運転しようが、怖けりゃ同じだ」と思っている。

ベラは、アン・ルーのことがあったので、「運転も出来ない無能の女」と言われたような気がする。

そして、反論した。


 「無理じゃないわ。

わたしは、運転したくないって言ってるだけなの」



 その押し問答を聞いていたバーディは、

「とにかく僕の車は、」と言いかけると、

二人は同時に、「いらない!」と言った。



 バーディの横にはスピルが立っており、二人を黙って見ていて、

それはまるで、ラーウスの子供たちの喧嘩を見ているようなものだった。



 「スピル、君にあの車をやるよ。

一緒にサライまで行ってくれないか。

どうせ、空港に置いていくんだし。

ここはレンタカーがないから、車を買うしかなかったんだ」


 スピルはバーディを見た。

「それはありがたいです。

わたしと家族はエルナトへ引っ越して来るので、車がもう一台あると、サイシア村の者が助かります」


 そしてバーディが、

「この二人は、いつもこうなのか?」と聞くので、

スピルは、やれやれとでも言うように答える。

「最近はなかったんですけどね」


 スピルは、バーディが来たことで、以前のベラが戻ってきたような気がしていた。

喧嘩は困るのだけれど、やはりベラには元気でいて欲しい。



 バーディは、この二人を見て、なぜか妙に息の合った様子から、

自分が心配したのは、取りこし苦労だと思い、アン・ルーのことを確かめるのをやめた。



 ところでバーディは、表向きの目的であるラーウス撮影については、あっさりと断られていた。

元々、期待もしていなかったのだけれど、ベラから聞いた密林に興味を持ち初め、

その後、何度も足を運び、許可を得ることに成功する。


 ということで、今回のローケーション・ハンティングは不成功に終わった。

そして、アリアに頼まれていた本来の目的も果たせなかったのだけれど、

バーディは達成感を味わっていた。

彼はラーウスの密林に思いを馳せ、

ベラとイベリスが、「喧嘩するほど仲がいい」と安心して、ラーウスを去っていったのだ。




 さて、イベリスが、ヘリの発着所のことをベラに相談しなかったのは、

彼女を驚かせ、喜ばせようとしていたからだった。


 彼は、ベラを捜しにサライへ行ったのに、見つけられないでいた

ヘリだったら十分でサライにいけるので、彼女を捕まえるのは簡単だったはずだ。

それにこれから先、サライに行くことも多いし、緊急時に備えられるとも思ったのだ。


 さらに、エルナトの周辺に、昔に使われていたらしい発着所があるのを見つけ、

「そう長くも隠しておけないな」と思っていた所に、

ケネスとの会話を、アン・ルーに聞かれてしまったのだった。

そして、アン・ルーがベラに言ってしまったと聞き、しょうがないと思っていた。



 そもそも、フロースを諦めたのは、彼女がエルナトには住めないと思ったからだ。

「サライとエルナトを、ヘリでつなげは簡単だったのに」

と思うと、ずいぶん遠回りをしたものだと思う。


 アルスランは、「変化は始まっている」と言っていた。


 イベリスは、これから自分が行おうとしている事の重大さを考えると身震いがする。

もし間違えば、ラーウスの破滅に繋がるからだ。

それを自分がやるのだという興奮もある。

その勇気をくれたのがベラだった。

そのことを彼女に伝えたかったのだけれど、考えるばかりで言えずにいた。



 そのように、イベリスが何を考えているのか知らないベラは、

エルナトを去ろうとする。



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