↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
PR
87/101

          8話 心の葛藤

 その夜、アン・ルーは、岩のテラスにテーブルをセットし、

イベリスと兄のケネスをプライベート・ディナーに誘った。


 テーブルには、真っ白のテーブルクロスが二重にかけられており、

花を飾り、細い蝋燭に火を灯し、横に置かれた焚き火の光が辺りを照らしている。

それは、美しいエルナトの夜の、素敵なレストランだった。



 ベラが空いた皿を下げに行くと、ケネスが彼女を誘う。

「ベラも一緒にどうだい?」

アン・ルーも

「それがいいわ。

わたしが作ったデザートを一緒に食べましょうよ」と言った。

イベリスもにこやかに笑ってベラを見ている。

三人とも正装していて、特にアン・ルーは素敵だった。


 彼女は、黒の絹のふわりとした膝丈のドレスを着ており、

マスタードカラーの軽いショールが周囲の目を引く。

小さくまとめた黒髪に差したキラキラ光る髪留めと、

それにマッチしたピアスが彼女のフェイスラインをエレガントに演出していて、

胸は大きく開き、白く輝いていた。


 作業着に前掛け姿のベラは、とてもアン・ルーと一緒のテーブルに着く気持ちにはなれない。

それで、

「お誘いは嬉しいですけれど、キッチンが忙しいので」と断った。


 彼女が一度だけ着たあのドレスは、こんな雰囲気の場所で着るものだったと思い起こさせる。

そして、イベリスとアン・ルーのことが気になって皿を下げに来たのに、

誰か他の者にやらせれば良かったと後悔した。



 ベラが皿を取り、そこを去ろうとすると、アン・ルーが思い出したように言った。

「そうそう。あなたは、車が苦手なんですってね」

ベラはびっくりして彼女を見る。


 「ここにヘリの発着所があったら、ウィリディスにも簡単に来れるようになるでしょう?

ベラ、あなたも是非、わたしたちの家へいらしてくださいね」

ケネスが、「アン・ルー、発着所はまだ打診中なのに」と言うと、彼女は、

「あら、ほぼ決まりじゃない。そうでしょう?」とイベリスを見る。

イベリスは、しっかりした声で答えた。

「ああ、これは、必ず議会に承認させる」


 ベラは、それが気になっていたのに、イベリスに聞く機会を見つけられないでいた。

というか、アン・ルーがイベリスにべったりなので、近付くことも出来なかったのだ。

今、せっかくその話題になったのだけれど、この雰囲気では何も言えないと諦め、

そのまま下がることにする。

三人の会話は更にはずみ、イベリスは、ベラが去ったのすら気付かなかった。



 ベラは、イベリスが真剣に考えているのに驚いたのだけれど、

アン・ルーの「車が苦手」と言う言い方が、

「車に乗ったこともない田舎者」と聞こえてしまい、落胆していた。

自分の格好を見ても、反論できないのは分かっている。

そして、「ここでは、車に乗らない人の方が多いのに」と涙が出てくる思いだった。


 アン・ルーの言わんとすることは分かっている。

彼女は、自分がイベリスの相手として競うには、あまりにも力不足なので、その差をはっきりさせ、

徹底的に打ちのめすつもりなのだ。




 次の日の朝早く、イベリスはアン・ルーをサライに送っていくことになっていた。

ベラは、彼女との別れの挨拶を軽くしただけで済んだので、ほっとする。

彼女が去り、朝食の後片付けも終わったので、

ベラはスピルに発着所のことについて聞いてみた。


 「ああ、あれは、この前の決壊騒ぎで持ち上がった話です。

もし対応が遅れていたら、大惨事になったかもしれません」

ベラは、こんな大事なことを、自分は何も知らされていなかったのだと思った。


 そして屋敷のことにしても、自分よりアン・ルーの方がエルナトの事情を良く知っているようで、

「イベリスは、わたしに話しても仕方がないと思ったんだわ」

と、ため息をつく。


 ベラは、イベリスのレベルで話せない自分に自身を失っていた。

そこにアン・ルーが現われ、無能さを思い知らされる。


 そして彼女は、文明の利器を入れようとしなかったラーウスの方針を、イベリスが替えようとしているのだと知って心配していた。


 そんな大事なことを、イベリスは相談してくれない。

「自分はラーウス人ではないのだし、関係ない」と言うことなのだろうか。

すると、「何で自分は、エルナトにいるのだろう」と思う。

そうして、自分がエルナトに属していないようにも感じる。




 午後にはイベリスが戻ってきた。

ベラは、何事も無かったかのように振舞いながら、アン・ルーの言ったことを思い起こす。


 「あなたが彼のことを愛しているのなら、彼がウィリディスに戻るよう勧めるべきよ」


 以前だったら、それでも良かった。

「イベリスをエルナトから追い出して、自分がここを守る」と思っていたのだ。

それなのに、今は、彼のいないエルナトを考えられなくなっている。


 「彼がいなくなってしまう」

そう思えば思うほど苦しくなっていき、彼を見れば見るほど切なくなっていく。


 「イベリス、わたしは、あなたを愛している」

彼女は心の内でそう言った。




 数日後、別の客がエルナトへやって来た。

砂埃を上げてやって来た一台のジープは、サライから来たのだ。

それが大きな音を立てて、資材置き場に止まると、中からひょいと一人の男性が飛び下りた。


 ベラが、こんな派手な車の運転をするのは誰だろうと思って見ると、

砂埃の中でゴーグルを外すその男性を見て、自分の目を疑い、

信じられないという風に叫んだ。


 「バーディ!?」


 彼女は走っていくと彼に飛びつき、しがみ付く。

彼は、彼女を抱き上げたままにっこりと笑って言った。


 「これは従妹殿。嬉しい歓迎だな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。