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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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     4章 開放 1話 地震

 明け方、地震があった。


 アリアは驚いて目を覚ます。

隣を見ると、そこに寝ていたはずのベラがいない。

その時、ドアをノックする音と共にイベリスの声がした。

「姫様、大丈夫ですか?」

アリアは、すべての事が一度に起こっているので混乱しているが、しっかりしなければと思う。


 「ええ、大丈夫です」

そう答えながら寝衣の上に上着をはおり、入り口へ行ってドアを開ける。


 イベリスは、身なりを整えており、昨日の彼からは想像できないほど平静だ。

あれほど明るかった月は消え、雨が降っており、全てが変わってしまっている。

アリアは、フロースを見つけたのは夢だったのではと思ってしまった。


 とはいえ、彼が、誰もが寝ているはずの時間に起きていたのは明らかで、髪も濡れている。

湯に浸かったのかもしれないし、雨に濡れたのかもしれない。

ベラが言ったように、彼は、夜の森にいたのだ。

そして、王の助言者のイベリスに戻ってしまっている。


 「皆は無事ですか?」

「今、調べているところですが、この村には被害はないようです。

出て来ていただけますか」

「分かりました」


 アリアは、イベリスとの会話が、正規のものに戻っているのに気が付いた。

そして、ベラは、なぜいなくなったのかと気になる。

彼女は、どこに行ったのだろう、地震が起こることを知っていたのだろうかとも思ったりする。



 「ベラは?」

皆が集まっている広場に行っても、ベラはいなかった。

アリアは、心配で仕方が無い。

ふっと、彼女が誘拐された時を思い出す。


 焚き火が勢い良く燃えており、雨は、丁度、止むところだった。


 「ベラは、被害がないか調べに行きました」

「イベリス、あなたは? 何故あなたは一緒に行かなかったのですか?」

「自分の務めは、姫様を守ることです」

「大丈夫かしら・・・」

アリアは涙目になり、唇が震える。


 イべリスは、アリアの緊張を解くかのように微笑して言った。

「大丈夫です。ベラは、この地形を良く知っています」

アリアは、彼の言い方に不思議な気がした。

優しいのに、何か違う。

その笑顔は、ベラを思ってのことではなく、彼女を安心させるためのもので、壁を感じる。



 辺りが明るくなる頃、ベラが戻って来て、地震は大したことは無いと言った。

住民も、ラーウスの火山性地震を慣れているようで、自分の家へ戻って行く。


 アリアは、ベラが旅の身支度を済ませていたので、

夜明け前に、別れの言葉も言わずに、去るつもりだったのだと思う。

この地震が、彼女を引き止めてくれたのだ。



 「わたしに、『さようなら』も言わないで行くつもりだったんでしょう?」

とアリアはベラに言った。

ベラは、すまなさそうに微笑む。


 「あなたを見れば、別れが辛くなるじゃない」

「それでもわたしは、『さようなら』を言いたかったのよ」

ベラは、悲しそうな笑顔を見せ、出かけるための自分の荷物をまとめ始める。



 その時キラルが言った。

「ベラ、まだだよ」

「もう、用事は終わったんでしょう?」

ベラが振り返って言うと、キラルは滑稽だとでも言うような顔をする。


 「あんたとイベリスのためだけに、ここに呼んだんじゃないさ。

イベリス、あんたにも会うつもりはなかったけどね」

そう言って、イベリスを見る。


 「ちょっと厄介なことになったんだ。

そんな時に、あんたが来ることになって、なんて都合がいいんだとは思ったけどね。

地震まで起こってしまったし」

ベラは、何のことだろうと思い不思議そうな顔をする。


 イベリスは、キラルに会えたのが、彼女の方に事情があったからだと聞いても、おかしく無いと思った。

それは、こっちにとっても都合が良かったのだし。

いや、油断は出来ない。

彼女が「厄介なことと」言うからには、自分にも厄介なことなのかもしれない。



 キラルは、ベラに説明するように言う。

「エルナトの湖は、堰止湖だって知ってるよね。

それが決壊するかもしれないんだ」

「なんですって!?」


 「エルナトまで見に行って、破損している所は見つけたんだけどね。

緊急でもないと思ったんだが、良くは分からなくてね。

アルには知らせたんだけど、収穫期が終わってから調べようということになってたのさ。

ただ、この地震で、何の影響も無いといいんだけど・・・」


 「じゃあ、どうすればいいの?」

心配するベラを他所に、キラルは、

「さて」と言ってイベリスを見る。

「イベリス、あんた、どうするかい?」


 彼は、そんなことは、自分の問題ではないと思った。

「エルナトの問題は、議会と叔父たちにまかせてあります」


 それを聞くと、ベラは、自分の荷物の中から幾つかのものを小さな袋に詰め替える。

「わたしがエルナトへ行く!」


 イベリスは、ベラを見下すような調子で言った。

「行って何をするんだ? 何も出来やしないよ。

君の出る幕ではない」


 ベラはそれを聞いて彼を睨んだけれど、

彼のことなんかどうでもいいと言うように頭を振ると、袋を取り背を向ける。

イベリスは、ベラの腕を掴んだ。

「止めろと言っただろう?」


 キラルは、そんな二人にため息をつく

「とにかく、今は、連絡を待とう。それからだ」

そして、片手に乗るほどの大きさの通信機を出した。


 それを見たイベリスは、顔色を変える。

「それは、エルナトの?」

キラルは笑った。

「あたしは、これを、あんたが生まれる前から使ってるんだ。

それにあんたは、エルナトには関係しないんじゃなかったのかい?」


 イベリスは、その皮肉を腹立たしく思うが、キラルの情報収集が早かった理由を理解した。

その通信機は、高性能の機器で、エルナトの要塞に封印してあるはずの物だったのだ。



 アリアは、彼らの会話を聞きながら、事は複雑になっていると思った。


 「まあ、イベリスがベラを行かせたくないのも分かるけど」

ミユが、アリアの横で言った。

アリアは、彼女がそこにいるとは思わなかったので、びっくりして振り向く。


 「もし決壊したら、土石流で流されてしまうかもしれないんですもの。

情報が何もないのに、出かけるのは危険だわ。

自分の愛する彼女を、そんな危険に遭わせたくないものね」

アリアは十五歳の女の子だし、今までのミユの態度からしたら、かなり大人びた口調だ。



 ベラが、「とにかく、わたしは行くわ」と言ったその時、連絡が入った。

それはスピルからで、

いずれは決壊するものの、はっきりせず、爆弾をかかえているようなものだと言う。

アルたちにも連絡したのだけれど、エルナトへは、早くても一日かかると言うことだった。


 「ここからの方が早いね。半日だもの。

イベリス、あんたは、要塞の鍵を持って来てるんだろう?」とキラルが言った。


 彼が黙っているので、

「あんたは、自分のしなきゃいけないことを忘れてしまっている。

それを思い出させてやりたいんだけれど、

そうだね」と言って、アリアを見る。

「彼女をここに留めることくらい、あたしには何でもないんだよ」


 アリアは、「え? わたし?」と思った。

「キラルは、わたしを人質にしようと言っているの?」

ベラも驚いてキラルを見る。


 イベリスは、キラルが、自分のしたいことを必ず通すと知っているので、仕方が無いと言う風に、

「行きましょう」と答えた。


 「じゃあ、わたしは、川沿いの村人たちに知らせる!」とベラが言った。

「だめだ!」

イベリスが怒鳴ったので、ベラは、「またか」と思って彼を見る。


 「君は、エルナトまで行く道を案内してくれ。

その破損を確かめるのが先だ。

ここの土地を良く知ってるんだろう?」


 キラルは、

「それがいいね。

川沿いの村人に知らせるのは、こっちで何とかするから。

それから、これをあんたに渡しとくよ」

と言って、通信機をベラに手渡した。


 そして、イベリスを見て、ニヤリと笑う。

「持ち出したのはこれだけだよ。

とにかく、二人で仲良くエルナトへ行って、頭でも冷やしておいで」



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