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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          2話 山道

 霧の立ち込める山の中、イベリスとベラはエルナトへと急いでいた。

聞こえてくるのは、二人の足音と荒い息遣いだけだ。

イベリスは止まると、後ろにいるベラを振り返った。


 「君の方が、山に慣れてたと思うけど」


 ベラは道端の木に寄りかかり、息を弾ませながら答える。

「認めるわよ。あなたの方が体力があるって」

「鍛え方が違うんだ。

にわか仕込みに勝てるわけがない」

イべリスが、冷ややかに笑う。


 「ええ、そうね。

どうせわたしは、お嬢様として育てられたんですものね」

「お嬢様育ちにしては体力があるって褒めてやるよ」

「それは嬉しいわ」

と、ベラは忌まわしそうに答える。

それでも彼女は、負けるつもりはない。


 「夕べは寝てないんでしょう?

誰かさんのことを思って。

山の中を走り回ってたんだから、体力の配分をした方がいいんじゃない?

エルナトへ着いたころには、へたばってしまうわよ」

ベラの嫌味な言い方に、イベリスはむっとする。


 「一晩、寝ないくらいでへたばるもんか。

君が現れるまでが長すぎて、退屈していたから、丁度良い気分転換だったよ」

今度は、ベラがむっとする。


 イベリスは、ニヤッと笑うと、彼女を残して先に行く。

「歩けなくなったら言ってくれ、負ぶってやるから」

「それだけは御免こうむるわ」

ベラは再び歩き出した。



 霧が晴れ始めたころ、先を歩いていたイベリスは、二股の道を右へ行った。

「そっちじゃないわ、左よ」とベラが声を上げる。

イベリスは振り返った。

「こっちの方が近道だよ」


 「わたしは、いつもこの道を通ってるから間違いないわ」

「時間が無いんだ。

そっちへ行きたければ行けばいいだろ。

エルナトで会おう」

イベリスは、ベラを残してそのまま先へ行く。


 ベラは、仕方が無いという風にイベリスの後を追い、

「迷子になられても困るのよね」と彼に言った。



 しばらくすると、彼らの道は、さっきの道に合流する。

ベラは煙に撒かれたような気がした。

イベリスの選んだ道の方が早かったのだ。


 「ベラは風のようと聞いていたが、それも危ないものだ」

イベリスは、これ見よがしに言った。

彼女は何も言い返せない。

何故そうなるのかは分からないのだけれど、彼が正しかった理由は、はっきりしている。


 「地図を見たのね。

わたしの道案内なんかいらないじゃないの」

「いや、道は変わることもあるし、地図が古くては迷ってしまう。

用心に越したことは無い」

イベリスは、そのまま先へ行った。



 ベラは、イベリスの後ろを追いながら、彼への気持ちが甦ってきていた。

少しドキドキする。

二人で一緒に出かけているのだから、

「これは、もしかして、初デート?」と思ったりする。

そして、すぐにそれを打ち消した。

イベリスが、そんなことを思っているはずもなく、自分だけだなんて癪に障る。


 それに、これをデートと言うにはかなり無理がある。

ラーウスの人々は歩く。

特に収穫期の今は、薬草を収穫している人とすれ違ったり、追い抜いたりすることが多い。

その人たちは、自分たちを、デートをしている二人とは思わないだろう。

長距離走をしている二人、と言った方がいい。


 「以前のイベリスは優しかった・・・」

とベラは思った。

そして、ロセウスとエスペビオスでのイベリスを思い出す。

もちろん、良い思い出だけだ。


 それに比べ、今のイベリスは、なんて冷たいのだろう。

しかも、「道案内をしてくれ」と頼みながら、わざと近道を教えて馬鹿にする。

こんな意地悪な人だとは思わなかった! 見下しているんだわ! 早くラーウスから追い出さなくては!

と、そんなことを考えていた。



 イベリスにしてみたら、「冷たい」とか、「意地悪」と言われるのは侵害だっただろう。

むしろ、「自分の方が驚いた」と思っている。


 しとやかだと思っていた彼女は、勇ましい女になっていた。

しかも、野山を駆け回るラーウスの女のようで、「嘘だろう?」と言いたい。

彼女がディフォーレスト家の森で育ったのを思えば、その要素はあったのだと感心している。


 それなのに、こうして二人でいると変な気がしてくる。

別人とも思えるのに、どこか抜けた頼りないフロースのようで、戸惑いを隠せない。


 その彼女がエルナトを復興? 馬鹿馬鹿しい。出来るわけが無い。

キラルも何を考えてるんだ!? 年を取ったということか。

乗りかかった船なので、さっさと用事を済ませてラーウスから出てってやる、と思っている。


 そして、

「先ずはエルナトへ行って、それからだ」と足を速めた。



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