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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          4話 風のような女

 アクィラは、

「プリンセス・アリアを、ラーウスに連れて行って欲しいとの要請があった」と言った。

イベリスは、

「それは無謀ではありませんか」と答える。

アクィラも、そう思っている。

帝国大使館は、自分たちの要請の意味を知らない。

イベリスは、難色を示すのだけれど、それには別の理由もあった。



 エスペビオスから戻ったイベリスは、ラーウスへ行き、叔父のアルに、

「自分はラーウスに戻らない」と告げている。

アルは、微笑んだだけだった。

自分の決定が、叔父にとって、どれほど残念なことなのかは分かっている。

それを心苦しく思うイベリスは、ラーウスと係わるのを避けるようになっていた。


 スパイス騒動の時も、キラルに会えるはずがないのは明白だったけれど、

自分も会いたくないと思っていた。

もちろん必要であれば、ラーウスに行ってもよい。

ただそれは、ラーウスのイベリスとしてではなく、ウィリディスの王の助言者としてだ。



 アクィラは、

「プリンセス・アリアは、今日の夕方に、ロセウスに着くそうだ」と言った。


 「今日の夕方ですか?」

と驚いたイベリスに、アクィラも、やれやれといった風に答える。

「帝国大使館が、そのように連絡してきた」

「つまり、断れないと言う事ですね」


 「そういうことだな。

プリンセス・アリアは、直接ベラに会ってフロースの行方を聞きたいそうだ。

それで大使館に、ラーウスへ行く案内人を捜すよう告げたらしい。

帝国側は、イベリス、君に案内して欲しいと言っている。

密猟組織の残党問題が解決したばかりなので、用心に越したことはないのだけれど、

他のラーウス人に頼むより、彼女の教師をしていた君が一番の適任者だと言うんだ」

イベリスは、彼らにルスカの入れ知恵がなくても、そう考えるのは当然だろうと思う。


 「それから」とアクィラは言った。

「ベラを見つけるのは難しそうだから、長期間の滞在になる」

「それは予想できますが、ベラに連絡する方法はあるのですか?」


 「彼女は、いつも森の中にいて、風のようなので、誰もどこにいるのか知らないそうだ。

だから、キラルに聞くしかない」

「キラルの居場所も分からないのにですか?」

「ケフェルト村へ行けば何とかなるんじゃないのか。

あそこには、キラルの一人娘がいるからな」

「そうですね・・・それに今は、薬草の収穫期ですし・・・」


 収穫の季節は、誰もが山に入るので、村から人がいなくなるのだけれど、

ケフェルト村には、薬草を仕分けする小屋があるので、キラルがそこへ戻るかもしれない。

それでも、人の少ない村で情報を得るのは難しそうだ、とイベリスは思った。


 キラルは、ベラの師だとしても、

ラーウスを捨てた彼を良く思っていないだろうし、会ってくれるかどうかは分からない。

気に入らなければ、何も教えてくれないし会おうともしないのだ。

それでもイベリスは、自分が一番、彼女に会える可能性が高いのも知っている。

イベリスは、これは、かなりの忍耐がいりそうだと思った。



 「キラルは、君の母親の叔母だったんだろう?」

「ええ、ですが血の繋がりはなかったようです。

キラルは姿を隠していることが多く、最後に会ったのは子供の頃ですし、良くは知らないのです」


 その時イベリスは、「いや、その後にもう一度会っている」と思った。

それは、エルナトの霧の朝、フロースが湖に来た時だ。

彼は、キラルがフロースをあそこへ連れて行った理由を聞いていないことも思い出す。

すると、あの時の、フロースの姿が、ありありと浮かんできた。


 「とにかく、アリアを空港まで迎えに行って、ラーウスへ行く準備をしてくれ」

と、アクィラが言ったので、イベリスは、はっとして我に返る。




 急にアクィラは、表情を曇らせ、

「準備といえば、例のコンテストの準備が進められているそうだ」と言った。


 イベリスは、「はい、そのようですね」と答える。


 それは、新製品を開発しようとする政府の新しい企画で、近隣諸国の特産品のコンテストなのだが、

花を添えようと、年頃の姫たちも招待することになっている。

実は、アクィラ王も二十代半ばとなり、そろそろ花嫁を、との声が持ち上がっていた。

つまり、このコンテストは、アクィラ王の花嫁を捜すのが本当の狙いだったのだ。


 イベリスも、誰か良い姫はいないかと聞かれたので、

一応、推薦したものの、却下されてしまい、それ以来この企画に係わっていない。

とにかく、アクィラ王が、こんなことに大人しく協力するはずもないので、

初めから係わりたくなかったのだ。


 このコンテストをくだらないと思っているアクィラは、

「わたしは、美人コンテストの優勝者への褒美のようなものではないか」と怒る。

イベリスが、「側近たちは、世継ぎの心配をしているのでしょう」

と言うと、アクィラは、

「自分は王になったばかりだ! それにまだ若い!」と怒鳴った。


 「ですが、シャルム王の時は、姫たちが四人も生まれたのに、王太子がなかなか生まれず、

側近の者たちは、かなり心配したと聞いています。

それで今回も早めに、と思っているのでしょう」

とイベリスは、側近たちの思いを告げる。


 イベリスは、その時、

「この問題があった!」と思った。


 自分は、このコンテストで、アクィラ王と側近たちとの間に挟まれ、挙句の果て、

アクィラ王に協力するよう強いられて、側近たちに怒られるか、

側近たちの方に就かされて、アクィラ王に怒られるかのどちらかだと思っていた。


 どちらにしても、頭の痛いことだったので、

今回のラーウス行きは、その騒動から逃れるのに実に都合が良い。

そう思うと、気の進まなかったラーウス行きも喜ばしく思えてきた。

出切るだけ長くラーウスに滞在しようと思案し始める。



 突然、アクィラが、「あ、そうだ!」と、目を輝かしながら、

「イベリス、ラーウスから早く戻って来い」と言った。


 「コンテストに、プリンセス・アリアも出させたらどうか?

いや、そんなことより、こちら側に引き込んだ方が面白い。

あの側近たちに、ひと泡吹かせてやろう」


 それを聞いたイベリスは、これにアリアまで加われば、とんでもないことになりそうなので、

「絶対に、早く戻って来ない方がいい」と思った。



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