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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
3部 ベラ
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          3話 ベラトリックス

 イベリスが執務室にやって来ると、アクイラは、「これを見てくれ」と言った。

スクリーンに、映像が映し出される。

「一つ目はエスペビオスで撮られたもので、もう一つは・・・まあ、最初のものを見てからだな」


 スクリーンに、数人の者たちが走っているシーンが映し出された。

そして一人の男が誰かのフードを掴むと、短い髪の女の頭がむき出しになる。

彼女の顔がスクリーンに写り、叫んだ。

「騙したのね!?」


 イベリスは、自分の目と耳を疑った。

それは、フロースではないか。



 イベリスは、フロースと分かれてから、彼女のことを考えないようにしていた。

アクィラは新王になったばかりで、自分の仕事に集中しなければならない。

フロースは結婚するのだし、他の男の妻になる女のことを考える暇などなかったのだ。


 その時、彼は、フロースへの想いは、いずれ消えるだろうぐらいに思っていた。

それに、一生、独身でもかまわなかった。

王の助言者の責任は重く、結婚する前にその任に就いた者で、独身を通した者は少なくない。

それだけのことなのだと考えた。


 フロースの夫が死んだと聞かされた時も、

「ああ、そうなのだ」と思っただけだった。


 ところが間もなくして、フロースが誘拐されたと聞いて驚き、

再び、彼女を失ったような気がして、

あちこちに手配し、キラルにまで伝言を送り、フロースの行方を捜したものの、

何の消息も得られないでいた。


 この頃、イベリスは、フロースが、自分にとって特別の女性だったと気付くようになっていた。

女性に対する興味がないのは、仕事が忙しいからだと思っていたのだけれど、違ったのだ。

それはまるで心に焼印を押されたようで、傷は癒えても、感覚は麻痺している。

彼は、火傷の痕が、無感覚になるのと同じなのかもしれないと思った。


 とにかく、フロースは消えてしまったのであり、彼女のことを心の奥にしまい込むしかない。

それなのに、突然、こうして、アクィラからフロースの映像を見せられたのである。



 アクィラは、「次はこれだ」と言って、別の映像を出す。


 彼女の顔が正面に写り、髪が少し伸びている。

スクリーンの端に、同盟国入国審査の表示があった。


 「どういうことですか?」とイベリスが聞くと、アクィラは、

「フロースが誘拐されて半年後、彼女は同盟国側に入国していたと言うことだ」と答えた。



 帝国大使館から送られてきた資料には、彼女が、ミラ・ラスクの名前を使ったとある。

その情報は、プリンセス・アリアが得たものだった。


 アリアは、宇宙連邦国のはずれの一都市で、この情報を入手している。

情報提供者は、窃盗で逮捕された者で、国際手配もされていた。

それで、帝国側へ強制送還されないよう、情報を提供する代わりに、連邦警察へ保護を求めたのだ。


 彼は、度々、ヴァルハイ号にも乗っていた。

数々の犯罪に関係しているのだけれど、

情報の中に、ヴァルハイ号に乗っていたラーウス人のミラ・ラスクの名前が挙がり、

それがフロースと一致したのだ。

帝国情報部が、今までそれに気付かなかったのは、彼女がラーウス人として通過していたからで、

もちろん、キラルがミラの正体を隠していたのもある。



 「ラーウス人!?」と驚いたイベリスは、

「フロースは、ラーウス人として入国審査を通過したのですか?」と言った。

アクィラも、信じられないでいる。


 「では彼女は、今、ラーウスにいるのですか?」

「いや、プリンセス・アリアが、ラーウスに問い合わせたのだが、

ミラ・ラスクという女性はいないそうだ」

「そのはずです。ミラ・ラスクは人の名前ではありません」


 「それはそうなのだが、ミラをヴァルハイ号に乗せたのは、プリオベール男爵だと言うんだ」

「プリオベール男爵?」

「ああ、それで、帝国情報部が男爵に聞くと、

それが彼女の名前で、故郷のラーウスに帰りたがっていたので、ヴァルハイ号に乗せたと言うんだ。

しかも彼女には、バルナ人の従者が付いていたそうだ」


 「バルナ人!?」

それはイベリスにとって、最も驚いたことだった。


 「男爵が、彼女に、バルナ人の従者を付けたのですか?」

「いや、彼も、それを後で知り、かなり心配したらしい」

アクィラも、こんな話は信じられないのだけれど、もし本当なら、

男爵がミラをフロースとは知らなかったと言う主張も、ありえないことではないと思った。

あの男爵が、そんな失態をするとは考えられない。



 「とにかく、その情報提供者によると、

密猟組織の情報を流したのはミラだということで、残党が彼女をやっきになって捜したそうだ。

だが、ミラ・ラスクと言う女性は存在しないし、いたとしても消えてしまったようで、

バルナ人のことも考えると、彼女は、すでに殺されているのかもしれない。

そのバルナ人も、翌日に同盟国を出たそうだが、

今はどこにいるのか分からないと帝国情報部は言っている。

とにかく、プリンセス・アリアが唯一の希望を抱いているのは、

そのミラを、ラーウスのベラが知っているかもしれないと言う情報なんだ」


 「ベラ? あのベラトリックスですか? キラルの?」

「いや、キラルがベラトリックスと呼ばれていたのは、かなり前のことだから、

このベラは、キラルの弟子のことらしい」

「キラルに弟子がいるのですか?」

イベリスは、自分がラーウスについて、ほとんど何も知らないことを実感させられた。


 「とにかくベラは、キラルの右腕らしく、『キラルの再来』とも噂されている」


 イベリスは、初め、そのベラが、フロースなのではないかと思った。

その後で、彼女が王宮の庭で迷子になったことを思い出し、

彼女が、ラーウスで、キラルのように動くのはありえないし、

森の中で、迷子になって飢え死にする可能性の方が高いと思う。

それは、アクィラも同じ意見だった。



 アクィラは、

「とにかく、こちらはスパイスの事で忙しかったし、ラーウスも色々大変だったから、

二国の関係は淡白になってしまっている」と言った。


 それに対し、イベリスは、

スパイス騒動と密猟問題は、別々の問題ではなく、繋がっているのではないかと思った。


 「もっとプリオベール男爵から、詳しい情報は得られないのでしょうか」

「帝国情報部が、しつこく聞いたらしいのだが、

男爵は、『気の毒なラーウスの女を助けようとしただけだ』の一点張りだそうだ」


 イベリスも、あの男爵が、そう簡単に情報を提供するはずもないと思う。


 アクィラは、男爵のことを良く思っていない。

それで、「あいつは全く嫌な奴だった。

初めから、スパイスの権利を高く売るつもりで画策してたんだ」と忌々しさを表す。


 「それでも男爵が、こちらへ売ってくれただけでも助かりました。

そうでなければ、今頃、我々は負債を抱え、経済は破綻していたかもしれません。

今回のことで、ウィリディスの産業も、新たな発展をすることができたのですから。

雨降って地固まるということではありませんか」

イベリスはそう言って、アクィラを宥めようとする。


 アクィラは、そんな話は聞きたくないとでも言うように、

「そんなことより、本題に入る」と言った。



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