2話 それぞれの問題
その日の朝、ロセウスの王宮に、帝国大使館から緊急連絡が入った。
アクィラ王は、何事かと思ったのだけれど、その内容に複雑な顔をする。
そして、イベリスを呼ぶように言った。
さて、アクィラ王は、精力的に国力を上げようとしていた。
それでも、彼の統治は、順調とは言いがたい。
特に、スパイスの価格が暴落した時は、ウィリディス王国の存亡の危機とも噂された。
プリオベール男爵が、ラーウスから直接に薬草を大量に買い付けるようになり、
安価なスパイスが市場に出回ったのだ。
また、スパイスに関連した多種の新製品まで売られるようになり、
ウィリディスの主要産業の一つだったスパイスは、その基盤を喪失したかのようだった。
ウィリディス王国は、ラーウス議会に抗議したが、その法的拘束力は弱く、
ラーウスは男爵と契約してしまっているので、どうすることも出来ないと答える。
また、それには、キラルが係わっているとの噂もあった。
それでウィリディス側も、キラルに会おうとするのだけれど、
丁度その時、キラルは、近隣の同盟諸国と、密猟組織の壊滅作戦に携わっており、
所在すら掴めなかったのだ。
おまけにラーウスが、密猟組織の残党との争いに巻き込まれる、という事態に見舞われてしまった。
ウィリディス貿易産業省は、ラーウス出身のイベリスに、キラルと接触するよう勧めるのだが、
イベリスは、それを断っている。
ラーウスも自分の問題をかかえているので、他国の経済問題どころではないとも言った。
アクィラ王がイベリスに働きかけても、イベリスは王の助言者として、それは得策ではないと答える。
つまり、キラルが、ウィリディス王国と話し合う気持ちが無いのは明らかで、
そうであれば、自分の出る幕は無いと言うのだ。
それより、自分たちで対策を考えるべきだと進言した。
この問題は、いずれ出てくることであり、
ウィリディスが、長年、スパイスの独占権を握っていたことで、
スパイスの有効性や、発展性について研究するのを欠いていたことが裏目になったとも言った。
独自の開発や研究を、もっと推し進めるべきであること、
スパイスの独占より、自由貿易の利点を考え、独創性を持たせること、
それに加え、近隣諸国とも、法的な関係を確立することが重要だとも言った。
それは、他の助言者たちも、以前から懸念していたことであり、
この時点で、ウィリディスは新時代へと動き始めることになる。
アクィラ王は、自分の時代を切り開く時を迎えたのだ。
それでも、スパイス価格の暴落は、他の薬草への価格にも飛び火し、
医療産業全体のバランスが崩れ始める。
その時点で、プリオベール男爵は、突然に、
自分のスパイスに関する全ての権利を、ウィリディスに売りたいと申し出たのだ。
つまり、男爵も更なる悪影響を懸念しており、
医療産業に関して経験のあるウィリディス王国に、協力したいと言う。
こうしてウィリディス王国は、高額価格で、男爵が所有している権利を買い取り、
それによって市場は安定へと向かい始める。
男爵も、自分の要求どおりの価格に満足し、喜びつつ、スパイス事業から去っていった。
ウィリディス王国は、買い取った技術や権利、そして関連企業との関係をフルに活用し、
すでに始めていたスパイスの自由貿易を促進する。
とはいえ、この騒動で、ウィリディス王国が被った損失は大きく、
それを回復するまでには、長い時間を要することになる。
ウィリディス王国も、密猟組織壊滅作戦に参加はしていたが、
自らの管理の仕方は、木の種類、数にまで正確に出せるほど徹底しているので、
密猟者の入る隙は無く、切羽詰っていなかったのだ。
それで、同盟国をサポートするぐらいの関心度しかなかった。
このように、ウィリディス王国とラーウス議会は、それぞれの問題を解決するのに忙しく、
その間の両国の関係は、希薄になっていた。
もちろん、イベリスが、キラルに会う機会も一度も無かったのである。
それはアリアが、再び、ここへ戻って来る時まで続いたのだった。




