↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イベリス (Iberis)    作者: Naoko
1部 フロース
PR
29/101

          2話 愛の力

 ウエディング姿のフロースは、人形のようだった。

それはオーデン伯爵が望むフロースで、彼を上機嫌にし、こうして初々しい伯爵夫人を演じている。

そんな彼女を見ていられなくなったアリアは、披露宴会場から消えてしまったカイを捜すことにした。

するとライブラリーで見つけたのは、一人でワインを飲んでいるバーディだった。


 「あら、あなたの恋人たちは?」

バーディは、アリアを見ると、ボウタイを緩め、シャツのボタンを外してため息をついた。

「追い払った。そんな気分じゃないよ。あ~あ、花嫁略奪作戦は失敗したか」

アリアはそれに驚く。

「本当にそのつもりだったの!?」

バーディも呆れてアリアを見る。

「当然だろ? こんな結婚式、はっきり言って茶番だね。

あのフロースの姿がまぶたに残って、いくら飲んでも酔えそうにない。

これじゃあ、今夜は眠れないな」

アリアもそれは同じだった。


 「フロースが、あんなに美しかっただなんて・・・伯爵のためだと思うとしゃくに障るわ。

あれがイベリスのためだったら良かったのに」

「イベリスって、ウィリディス王国のやつだろ?」

「知ってたの?」

「君が手紙に書いてよこしたじゃないか」

「そうね、そうだったわね。

あの二人はお似合いだと思ったのだけれど・・・私が、もっと早く気付けば良かったんだわ」


 「どうだろう・・・まあ、今のフロースじゃ無理だけど。

第一、彼はウィリディスの王の助言者だ。

政治的なことが関係してくるし、彼もそのことを考えたはずだ。

おまけに生まれは、もっと辺境の地だから貴族とは釣り合わない。

まあ、そんな辺境の生まれの者が、なぜ王の助言者になったか訳ありなんだろうけどね。

彼が故郷へ戻ったとしても、お嬢様のフロースがそんな所でやっていけるとも思えない。

百歩譲って、彼がウィリディスも故郷も捨て、帝国内でフロースと暮らしたとしても難問だらけだ。

特に、伯爵が何をするか分からない」


 アリアは、「じゃあ・・・初めからフロースの恋は実るはず無かったのね」と言って肩を落とした。

「いや、そうは思わない」

彼女はバーディーを見る。

「愛の力は強いからね」

それを聞いたアリアは呆れたように目をそむけ、これ見よがしにため息をつく。

「あ、君は、愛の力を信じてないな?」

「違うわ。あなたが言うと興ざめしちゃうのよ」

バーディは笑った。


 「あの清くて美しいフロースも、今夜で汚されるか」

バーディが残念そうに言ったので、アリアは驚く。

「結婚したのに?」

「彼女の心は、イベリスのものじゃないか。

あれほど思いつめているなら、伯爵は彼女の夫じゃない。少なくとも僕はそう思うよ。

人形のようなフロースを好きな伯爵は、今夜、心の無い人形を抱くんだ。

伯爵も哀れだね」


 「彼女は、ディフォーレスト家のために結婚したのかしら」とアリアは、前から思っていることを聞いた。

するとバーディは、ふんと鼻をならす。

「そうなんじゃないのか。今夜も皆が陰で言ってるし。

この結婚で、伯爵は、相続人のヘンリーの後見人を子爵にしたそうだ」

「え? そうなの?」


 オーデン伯爵の最初の妻は、不妊治療の末にヘンリーを産んだのだけれど、出産後、体を悪くしたまま回復しなかったのだ。

今、ヘンリーは十三歳になり、男子の寄宿学校にいる。


 子爵が正式にヘンリーの後見人になるということは、もし伯爵が死ぬようなことがあれば、伯爵家の実質的な権利は、ヘンリーが成人するまで子爵が持つことになる。

伯爵は、子爵を牽制していたので、利用しても、それを法的に契約化することはなかった。

これが子爵の問題だったので、フロースは、自分が伯爵と結婚すれば父を助けられると思ったのだ。

とはいえ伯爵は、自分が死ぬ時には、子爵の働き全てをご破算にするつもりでいる。

ヘンリーが成人してしまえば、子爵が息子の後見人であることは何の意味もなくなるのだ。


 「伯爵は、自分は若い妻をめとって、後の面倒なことはすべて子爵に押し付けるってことだな。

まあ、おかしな話だが、実際にはすでにそうなっていることを、この結婚で契約化したってことさ。

しかも皆は、伯爵の腹黒さを知っている。

フロースの結婚についても気の毒に思ってるから、子爵の人気は上がるばかりだ。

伯爵の評判が悪いのは自業自得だけど、子爵は賢い人だから、侮らない方がいいと思うけどね。

君のことも上手くやったから、子爵に感謝しているだろ?」

確かにアリアは、子爵に恩を感じている。


 「カイは、そんな駆け引きは嫌いだし、子爵の影響力を知っているから、連邦国へ行ったんだ」

「それなら、カイは、わたしのことだって・・・」

そう心配するアリアに、バーディはにっこり笑う。

「心配しなくていいよ。カイは、そんなことで君のことを悪くは思ったりしないさ。

大体、彼は、君の気持ちすら気付いてないじゃないか。

まあ、それは問題だけどね」

アリアは、また顔を曇らせる。

どうしたらいいのか、分からないままだったのだ。


 「とにかく、君次第なんじゃないのかな。

カイを振り向かせたいのなら、プリンセスとしてではなく、自分の道を生きることだよ。

君が何をしたいのか、どんな風に生きたいのかってことさ。

僕は、きらびやかな女性は大好きだけれど、カイは、そうじゃないからね。

ま、やつの考えは図りがたいが、君たちはまだまだ若いんだし、精々がんばるんだな」


 「カイには、ガールフレンドがいるのかしら?」

「さあ、いるかもしれないけれど、子爵に釘を刺されてるだろうし・・・

そのへんは、子爵は抜け目ないさ」

それを聞いて、アリアは、ほっとする。

バーディはそんなアリアを見てまた笑う。

「ほらね、そうやって、君も子爵を頼りにするだろ?」

アリアは、バーディに言われても返す言葉が無い。


 そこでアリアは、ここへ来た目的を思い出した。

「そうそう、カイを見かけなかった? どこにもいないのよ」

「ああ、今頃は連邦国へ戻る船の中だよ。一人寂しく、空いた隣の席を見ながらね」

「えーっ!? もう行ってしまったの? 私、一言もしゃべってないわ!

え? ちょっと待って、空いた隣の席って、もしかしてフロースの?」


 バーディは、悔しそうだ。

「筋書きは、僕がフロースをたぶらかして、さらったってことにして、身代わりの子と逃げるんだ。

そうして皆が僕らを捜している間に、カイがフロースを連れて国境の外に出るはずだったんだけどね」

「呆れた。そこまで計画していたの?」

バーディはまじめな顔をして答える。

「もちろん真剣だったよ。

それに、この計画があったから、カイは戻って来たんじゃないか」


 アリアは、この二人の、真剣かつ子供じみたフロースの救出作戦に呆れながら、フロースのことを思った。

バーディの言った、愛の力についても考えてみる。


 フロースは、愛していない男と結婚してしまったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。