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イベリス (Iberis)    作者: Naoko
1部 フロース
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          5話 情報

 晩餐会に戻ったイベリスは、アクィラと一言二言交わした後に会場を去った。

そして、ウィリディス王国専用車で、自分のメゾネットへ向かう。


 イベリスは、看護学校学校からの教師の以来は、外務大臣のルスカが背後にいるのだと知っていた。

彼の出生は秘密ではないし、ましてや王の助言者を、外務大臣指揮下の秘密情報部が無視するはずはない。

ルスカがイベリスの動きを警戒しているのと同じように、イベリスも彼の動きを調べていた。


 元々、アリアがロセウスに留まったのは、アクィラの思いつきでしかなく、イベリスの個人的な迷いもあったのだけれど、かえってそれがイベリスを動きやすくしていた。

そう言う意味では、フロースとのことも都合が良かったのかもしれない。

エルナトでフロースが復興について質問した時も、大使館員のいる前だった。

驚いたのはキラルの行動だったけれど、それも問題ではない。


 イベリスは、ルスカがエルナトに関して動いていないことを確かめている。

また、バルナの動きも調べてみたが、今の所は目立った動きも無い。

シャルム王が亡くなり、何か企みがあるのではと思ったのだけれど、それも無用の心配だった。


 そしてアクィラ王の帝国訪問の日が決まり、イベリスはその準備に借り出されたのである。

それは丁度、フロースが学校を辞めたころで、それ以後、彼女のことを考える時間もないほど忙しかった。


 イベリスは、改めて、ウィリディス王国に仕える充実感を味わっていた。

帝国からウィリディスを見て、アクィラ新王をどのように助けるのか、様々な考えも浮かんでくる。

やりがいのある仕事だと、再認識していた。


 もちろん、フロースのことを全く忘れていた訳ではない。

彼女は皇帝の愛娘の従者であり、帝国で頭角を現しているディフォーレスト子爵の娘なのだ。

彼女の周りに関する情報も集めた。

婚約者のオーデン伯爵について知った時は驚いたのだけれど、侮れない人物であることも分かっている。

ディフォーレスト子爵も、油断がならない。

その子爵が用心している伯爵とフロースは結婚するので、政略結婚なのは明らかだ。

フロースを可哀想だと思うのだけれど、今、帝国内の問題に係わっている暇はない。


 それでイベリスは、フロースに会うべきではないと晩餐会で彼女を避けていたのに、ひとりでいる時に会ってしまった。

すると、突然、ロセウスもエルナトもどうでもいい、という気持ちが彼を支配する。

彼女を失いたくないという気持ちを、ずっと心の中で抑えていたのだ。

彼女を避けていた本当の理由はこれだった。

そして彼女と、このエスペビオスで生活するのもいいかもしれないと、非現実的なことを思ってしまう。

とはいえ、それも彼女がロセウスについて語るまでのことだった。


 イベリスは、フロースが政略結婚でも何でもして、自分の前から消えてくれればいいと思った。

自分たちが結ばれるには障害がありすぎる。

それは、初めから分かっていたことなのだ。

あの日、彼女を初めて見た時の事を思い出し、もう同じ間違いはしないと自分に言い聞かせる。

彼女とは、一度会った時に終わるはずで、その通りになっただけのことなのだ。


 そしてイベリスは、今度アクィラ王が何かを仕出かす時は、事前に教えて欲しいものだとも思う。

今回は、してやられた。

もちろん、そんなことを彼に言うつもりはない。



 イベリスは車を待たせたまま、荷物を取りにメゾネットの自分のドアの鍵を開ける。

中へ入ると立ち止まり、匂いを嗅ぐ。

「やはり、誰か入ったな」と思った。

部屋の中は、片付けられており、何の乱れもない。

それでも誰かが入った気配が残っている。


 「ここには、何の情報もない。あるとしたら・・・」

イベリスは二階の寝室へ行き、クローゼットを開けた。

そこには、一着の王の助言者の長いローブが掛けられていた。

自分がロセウスを出た時、置いてくるはずだったローブをここへ持ってきていた。


 ラーウスへ戻るかどうかを悩んでいたイベリスだったけれど、初めから自分の気持ちは分かっていた。

それは、王の助言者として、アクィラ王に仕えることだった。

それにアクィラが、帝国訪問だけでなく、自分を迎えに来たことも分かっている。


 ラーウスへ戻る気がなくなってしまったのは、そこにフロースがいないからで、彼女を諦めた今、一生ロセウスにいる決心がついたのだ。

イベリスは自分のローブを取ると、ラゲージを持ってメゾネットを出た。



 翌日、アリアとフロースは、エスペビオスを去るアクィラに呼ばれ、別れの挨拶にやって来た。

アクィラの横には、イベリスが、王の助言者の長いローブを着て立っている。

アリアは驚いたのだけれど、フロースは彼を静かに見ただけだった。

フロースにはその意味が分かっていた。

二人はアクィラへ別れの挨拶をし、イベリスには何も言わなかった。


 アクィラは、イベリスと共に、二人が去って行くのを見送った後に言う。

「これでいいのだな」

それはイベリスが、初めてフロースに会った時と同じで、こうして振り出しに戻ったことになる。

アクィラは、彼がフロースを愛しているのを知っていた。

そして、自分がこの二人を引き合わしたので、二人がそれぞれの道を行ける様、けじめをつけたのだ。


 イベリスは、答えなかった。



 アリアとフロースは、何も言わないままそこを出ると車に乗る。

車が走り出し、アリアが待っていたかのように言った。

「どうしてイベリスは、ウィリディスへ戻る決心をしたの?」

フロースはそれに静かに答える。


 「それは、あの方が、そう望んだから・・・」

そう言いかけたフロースの声はつまり、それ以上何も言えず、嗚咽する。

フロースには分かっていたけれど、この時、自分の恋は終わったのだと思った。



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