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教会の扉を開けた瞬間、中の空気が一変した。
礼拝堂に集まっていた児童養護施設の子供たちと職員たちが、一斉に夢人の方を振り返った。その視線は、一様に強張り、敵意に満ちていた。
「人殺しが来た!」
誰かが叫んだ。それを皮切りに、次々と罵声が浴びせられ始めた。
「出ていけ!!ここに来る資格なんてない!」
「よくもまた、のこのこと……!」
子供たちの中には、怯えたように大人の陰に隠れる者もいれば、憎悪の目でまっすぐに夢人を睨みつける者もいた。夢人はその場に立ち尽くしたまま、何も言い返すことなく、ただ静かにその視線を受け止めていた。
金田はすぐさま一歩前に出ると、状況を説明しようと試みた。
「待ってください、彼にはやむを得ない事情が…」
だが、その声は罵声にかき消され、誰の耳にも届く様子はなかった。誰もが、頑なに耳を塞ぎ、聞く姿勢すら見せようとはしなかった。
そんな中、一人の女性が、人混みをかき分けるようにして前に出てきた。シスターの衣装、黒髪をボブにまとめた、三十代半ばくらいの、物腰の柔らかそうな女性だった。彼女は夢人と金田の顔を交互に見ると、静かに言った。
「…外で、話しましょう」
その声には、周囲の怒号とは対照的な、落ち着いた響きがあった。
三人は、罵声の飛び交う礼拝堂を後にし、教会の外へと出た。
「……音無さん」
夢人がその名を呟いた。
音無は、夢人の前に立つと、その顔をじっと見つめた。かつての面影を探すような、懐かしむような目だった。
「夢人くん…」
音無は静かに言った。
「今は何を言っても、信じてもらえないと思う」
夢人は何も答えず、ただ視線を落とした。
「だけど、時がきたら」
音無は続けた。
「みんな、わかってくれる」
「……」
「だから…そんな悲しい顔、しないで」
その言葉に、夢人はさらに深く俯いた。感情を押し殺すように、唇を固く結んでいる。
金田はその横で、夢人の能力のことは伝えず、施設の男性職員たちが神父を毒殺しようとしていたこと、それを知った夢人が男性職員たちを殺めたあの日に何が起きたのかを、できる限り丁寧に説明した。
音無はその話を、静かに聞いていた。時折、痛みを堪えるような表情を浮かべながらも、最後まで遮ることなく耳を傾け、話が終わると、納得したように小さく頷いた。
「……神父様は?」
夢人が、震える声で尋ねた。
「いまは養護施設に…」
音無は答えた。
その言葉を聞いた瞬間、夢人は弾かれたように駆け出した。教会のすぐ近くに建つ、あの見慣れた養護施設に向かって。
「夢人くん!待って!!」
音無が慌てて後を追う。金田もまた、二人に続いて走り出した。
夢人の足取りには、迷いが一切なかった。ただ、まっすぐに、あの人のもとへ。
養護施設の扉を、夢人が勢いよく開けた。
「神父様!!」
その声が、静かな廊下に響き渡る。夢人は迷いのない足取りで奥へと進んでいき、キッチンへとたどり着いた。
そこには、エプロン姿の神父がいた。あの日の記憶よりも少し頬がこけていたが、顔色は思っていたよりも悪くなかった。白髪のロングヘアも、赤い瞳も、記憶の中の姿とほとんど変わっていなかった。
「神父様!!!」
夢人は、堪えきれないというふうに、その体に抱きついた。
だが、神父の反応は、夢人が思い描いていたものとはまったく違っていた。
「……君は?」
その声には、戸惑いだけがあった。抱きつかれたまま、神父はただ困惑した表情を浮かべている。
夢人の動きが、ぴたりと止まった。
「君とは、初対面だよね」
神父は静かに言った。
「名前を、きいてもいいかな?」
「……」
夢人は言葉を失ったまま、ゆっくりと神父の体から離れた。伸ばしていた腕が、力なく下がっていく。コバルト色の瞳が、大きく揺れていた。
そこに、遅れて音無が駆けつけてきた。息を切らしながらも、状況をすぐに察したのか、神父に向かって静かに、けれど丁寧に事情を説明し始めた。夢人が何者であるか、かつて何があったのか、そして今、なぜここにいるのかを。
夢人は、その説明を横で聞きながら、ただ呆然と、神父の顔を見つめ続けていた。




