第三十六話 待つというのは、相手が戻るまで立ち止まり続けることではないようです
翌朝、ノルンが管理室へ入った時、最初に目へ入ったのは主様ではなく、机の中央へ置かれた一枚の薄い複製記録板だった。
朝を模した柔らかな光が管理室全体へ広がり、白い床の上には淡い影が落ちている。壁際では複数の世界記録がいつものように静かに流れ、遠くの管理区画からは業務開始を知らせる小さな鐘の音が一度だけ届いた。
机の上に置かれているものは、古代記録板そのものではない。旧管理領域最古層から復元された情報を、安全のため現在の管理体系へ複製したものだ。ここ数日の調査で何度も目にしているため、ノルンにとってはすっかり見慣れた形になっていた。
だからこそ、扉を閉じたノルンは以前のようにすぐ記録板へ駆け寄らなかった。気にならないわけではない。むしろ昨夜の間に何が復元されたのか知りたくて仕方がないが、それより先に確認すると決めていることがある。
「おはようございます、主様」
「おはよう、ノルン」
「朝食は?」
「食べたよ」
「睡眠時間は?」
「七時間十七分」
「素晴らしいです!」
昨日より六分短いものの、十分に眠れている。そう判断して満足そうに頷くノルンを見て、主様も最近ではこの確認に慣れたらしく、少しだけ得意そうな顔をした。
「ノルンは?」
「朝食済み、睡眠時間は七時間三分です。一度も目を覚ましておりません」
「お。かなり優秀」
「ありがとうございます!」
「最近、睡眠時間を報告し合って褒める管理室になってるね」
「健康的でよろしいではございませんか。健康でなければ、正しい世界管理などできません」
「僕達、世界の均衡とか転生事故とかを扱ってるはずなんだけどなあ」
「なおさら健康が必要です」
「強い」
主様が苦笑し、ノルンも釣られるように笑った。
ほんの数日前までは、古代記録を見つければ朝食さえ後回しにして読み始めそうになっていた。それを考えれば、こうして先に食事や睡眠を確認できることも、ノルンにとっては立派な変化だった。
そんな、すっかり朝の日課になったやり取りを終えてから、ノルンはようやく机の上へ視線を戻した。
「……昨夜、また何か復元されたのですね」
「うん」
「第一接続者に関係する記録でしょうか」
「それも、昨日ノルンが考えていたことにかなり近い内容」
「昨日の私が?」
「保留回答の扱い」
その言葉で、ノルンの表情が少し引き締まった。
昨日、九人のうちすでに保留を選んでいる四名について、管理側だけで再確認の時期を決めるべきではないのではないか、と考えた。
保留は、未回答ではない。
まだ決められないという、今の本人の回答である。
それならば、一週間経ったから、一月経ったからと、管理側の都合だけで再び同じ質問を向けるのは違うのではないか。その結果、ノルン達が暫定的に用意したのが、
『次回確認時期を本人が選択』
『管理側から再確認/本人から連絡/期限未設定を選択可能』
という方法だった。
そして実際、一人からはすでに、
『次回確認――本人から連絡予定』
『管理側からの再確認不要』
という意思が返ってきている。
いつ答えが届くかは分からない。一年後かもしれないし、もっと先かもしれない。あるいは最後まで連絡が来ない可能性だってある。
それでも今、その人が選んだのは「自分で決めた時に、自分から連絡する」だった。
「主様」
「うん」
「もしかして」
「たぶん、そのもしかして」
主様が複製記録板へ触れると、淡い文字が静かに浮かび上がった。
『内部観察補助一号・本人確認手順第三改訂』
ノルンは椅子を引き、ゆっくり腰を下ろした。
「昨日は第二改訂まで確認致しましたね」
「うん。最初は本人へ十分に聞かずに失敗したから、本人確認を追加した。でも今度は聞きすぎて、拒否も回答として扱うようになった」
「そして次は」
「保留への再確認で、また問題が出たみたい」
ノルンは数秒ほど記録を見つめ、それから少しだけ口元を緩めた。
「主様」
「何?」
「やはり第一接続者は、かなり失敗しておられますね」
「嬉しそうに言わない」
「安心しているのです!」
「本人が聞いたら複雑な気分になると思うよ」
「その時は、もっと丁寧に申し上げます」
「どう言うの?」
ノルンは真面目な表情で考え込んだ。
「『失敗を重ねてくださってありがとうございます』」
「今より悪い」
「では、『完璧でいらっしゃらなくて、とても安心致しました』」
「やっぱり微妙」
「難しいです!」
「本人に会えてから考えれば?」
「会えるかどうかも分かっておりません!」
「じゃあ、なおさら今決めなくていいね」
ノルンは一度言葉を失い、やがて少し目を細めた。
「……最近の主様、私より先に保留を使いますね」
「学んでるから」
「良いことです」
軽い笑いが一つ挟まったことで、調査前の緊張が少しだけ解けた。
それから二人は、改めて古い記録へ向き直った。
◇◇◇
最初に表示されたのは、『保留回答対象への定期再確認制度』という項目だった。
「定期再確認」
「第三改訂より前は、これを採用していたみたいだね」
「どれくらいの間隔でしょう」
補足記録を開くと、
『再確認周期――一年』
さらに、
『長期保留対象――三年』
という文字が続いた。
「……かなり待っておりますね」
「今の感覚なら、そう見えるね」
一年。
三年。
管理側としては、それだけ待てば十分に考える時間を与えたと思っただろう。少なくとも、本人を急かしているつもりはなかったはずだ。
『制度設計意図』
『対象個体へ十分な検討期間を確保』
『管理案件の無期限滞留を防止』
『定期的な意思変化確認を目的とする』
「合理的です」
ノルンは素直にそう言った。
「僕もそう思う」
「一年もの間、聞かない。長期なら三年。それなら、少なくとも管理する側は、急かしているとは思わなかったでしょうね」
「たぶんね。それだけ待てば十分に本人へ時間を渡した、と考えたんだと思う」
ノルンは手帳を開いたが、そこで筆を止めた。今の段階で「間違っていた」と書くのは早い。
設計意図だけで判断せず、実際に運用してどうなったのかを見る。
それも、この数日で覚えたことだった。
『運用後申告』
『対象個体より、再確認時期接近に伴う心理負担を訴え』
ノルンの眉が僅かに動く。
「心理負担」
「続きを見よう」
『申告内容』
『考える時間を管理側に区切られていると感じる』
その一文を読んだところで、ノルンの筆が止まった。
『一年後に答えを用意しなければならないように感じる』
『回答できないこと自体へ罪悪感が生じる』
『管理側を待たせているという負担あり』
管理室へ静かな時間が落ちた。
壁際では、今も数え切れないほどの世界記録が流れている。それぞれの世界では、管理側の事情など知らない人々が、朝を迎えたり夜を迎えたりしながら自分の生活を続けている。
ノルンは数度瞬きをしてから、ゆっくりと息を吐いた。
「主様」
「うん」
「管理側にとっては、一年という期間は『十分に考えてください』という猶予だった」
「うん」
「でも本人には、『一年以内に答えてください』という期限として伝わってしまった」
「そうみたいだね」
「同じ時間なのに」
一度、記録へ視線を戻す。
「全く違うのですね」
「待つ側と、待たれる側だからね」
「……難しいです」
「うん」
「最近、何度申し上げているでしょう」
「かなり」
「ですが本当に難しいです!」
思わず声が少し大きくなり、ノルン自身も途中で気づいて苦笑した。
「一年も聞かないのであれば、私はかなり待っていると思ってしまいます」
「僕も」
「でも、相手が『一年後までに答えを作らなければ』と感じるのであれば、待つこと自体が圧力になってしまう」
「そうなるね」
昨日、ルークへ伝えた言葉が思い出される。
『待ちたいと思うことはルークの自由です』
けれど同時に、
『その待っている気持ちを、相手へ背負わせないでください』
とも伝えた。
その時には、主に「ずっと待っているから会ってほしい」と相手へ繰り返し伝えることを考えていた。
けれど、待つという行為そのものにも、相手へ負担を背負わせる形がある。
「主様」
「何?」
「もしかすると、待つというのは時間の長さではないのでしょうか」
「どういう意味?」
「一日だけでも、『明日までに決めてください』なら、それは待つというより期限です」
「うん」
「逆に十年待っても、『十年も待ったのだから、そろそろ答えてください』と言えば」
「やっぱり期限になる」
「はい」
ノルンは手帳へ一行書き込んだ。
『待つ時間の長さと、相手へ与える圧力の小ささは一致しない』
主様が横から覗き込み、小さく頷く。
「いいね」
「ありがとうございます」
「でも、まだ続きがある」
「はい」
ノルンは先を急がず、次の項目へ視線を移した。
◇◇◇
『内部観察補助一号、定期再確認制度の停止を提案』
ノルンの目が少し大きくなる。
「第一接続者自身が?」
「みたいだね」
『提案理由』
『検討時間を管理側が定義すること自体が本人意思へ影響する可能性』
『再確認の必要性と、回答回収の都合を分離すべき』
「……回答回収の都合」
その言葉を読み、ノルンは自分の手帳へ視線を落とした。
昨日、自分で書いた文章がある。
『本人確認とは、管理側が答えを回収することではない』
主様も同じ箇所へ気づいたらしい。
「また近いね」
「はい」
「怖い?」
ノルンは一度、自分の胸元へ手を置いた。
少し前までなら、第一接続者と似た考えへ辿り着くたびに、自分の選択が昔の誰かに動かされたものではないかと不安になった。
第一接続者の管理核構造の一部が、後代管理個体の生成基盤へ転用された可能性がある。現在のノルンと第一接続者には、構造上の繋がりがあるかもしれない。
けれど。
昨日の自分は、この記録を知らなかった。
目の前の九人と。
今のルークを見て。
考えた。
「いいえ」
ノルンは静かに首を横へ振った。
「昨日の私は、この記録を知りませんでした」
「うん」
「今の九人と、今のルークを見て、自分なりに考えました」
「うん」
「第一接続者も、きっと同じようなところで困ったのでしょうね」
「たぶん」
「それなら」
少しだけ笑う。
「話が合いそうです」
「会えたら?」
「はい」
「失敗談だけで何日も話せそう」
「それは少し嫌です!」
思わず出た答えに主様が笑い、ノルンもつられて笑った。
第一接続者へ近づくことが、以前ほど怖くない。
同一人物だからではない。
むしろ、違う人かもしれないからこそ。
似た失敗をして。
似た場所で困って。
少しずつ似た答えへ辿り着いた誰かとして。
見られるようになってきた。
そのあと、記録は第三改訂の内容へ進んだ。
『再確認時期――対象個体指定』
『本人希望時、期限設定なし』
『管理側からの再確認を希望しない場合、その意思を保持』
ノルンの目がゆっくりと見開かれる。
「昨日の私達と、ほとんど同じです」
「本人から連絡方式」
「はい」
「期限未設定」
「はい」
「管理側から再確認しない選択」
「はい」
数秒、ノルンは何も言わず記録を見つめた。
昨日。
一万八百年前の制度など知らないまま。
自分達も同じような選択肢を作った。
そのことが、以前のような不安ではなく、今度は不思議な親近感を連れてくる。
「……第一接続者」
「うん」
「かなり苦労されましたね」
「今度は普通に同情してる?」
「はい」
本人へ聞かなかった。
だから、聞くようにした。
聞きすぎた。
だから、拒否を正式な回答として扱った。
保留には十分な時間を渡そうとした。
けれど今度は、その時間自体が期限として相手を追い詰めた。
一つ直せば。
別の問題が見える。
それをまた直す。
今のノルンにとっては。
どこか身に覚えのある流れだった。
「主様」
「何?」
「一つ気づきました」
「うん」
「第一接続者が残した規定は、答えそのものではないのですね」
主様の表情が少し真面目になる。
「続けて」
「最初から正しい規則を全部知っていて、それを書いたのではない。その時その時で失敗して、相手から何かを言われ、自分でも考え直して」
「うん」
「次の誰かが、少し同じ失敗をしにくくなるように残した」
「そう見えるね」
ノルンは少し考えてから手帳へ書いた。
『規定は正解そのものではなく、過去の失敗を忘れないための記録でもある』
さらに、その下へ続ける。
『現在の状況へそのまま当てはめるのではなく、なぜ作られたのかを確認する必要がある』
主様は今度は少し長く、その文章を見つめていた。
「現行制度を見直す時にも必要だね」
「はい。古い方が正しいから戻す、ではなく」
「なぜ古い規定が生まれたのか」
「そして、現在の規定はなぜそこから変わったのか」
「両方を見る」
「はい」
昔の制度を知れば知るほど、昔へ戻せばよいという話ではなくなっていく。
それは少し面倒で。
けれど、たぶん。
その方が正しい。
◇◇◇
複製記録板の最後には、『第三改訂補足』という項目が残っていた。
「これが、昨夜最後に復元された部分だと思う」
「読みます」
ノルンは姿勢を正した。
『待つとは、相手へ期限を渡すことではない』
その一文で、一度呼吸が止まる。
そして。
『戻ってこられる場所だけを残すこと』
ノルンはその文章を、もう一度ゆっくりと読んだ。
「……戻ってこられる場所」
「うん」
「これは、どういう意味でしょう」
「僕も朝に表示だけ見た時、少し考えた」
ノルンが即座に振り返った。
「主様はもう読んだのですか!?」
「表示されたことを確認しただけ。内容をちゃんと読むのはノルンと一緒にしようと思ってた」
「……」
「疑ってる?」
「少しだけ」
「約束は守ってるよ」
主様の声音には冗談めいた軽さがあったが、ノルンは数秒考えたあと、小さく頷いた。
「はい。信じます」
「最近のノルン、信用してくれるようになったね」
「主様が最近、私の返事をきちんと待ってくださるからです」
その言葉へ、主様はすぐ何も返さなかった。
ただ、少しだけ目元を柔らかくする。
その反応を見てから、ノルンはもう一度記録へ向き直った。
『戻ってこられる場所だけを残すこと』
保留を選んだ人を追いかけない。
いつ答えるのかと聞かない。
答えを出すまで観察し続けることもしない。
けれど、本人がいつか話したくなった時。
戻ってこられる窓口だけは、消さない。
「主様」
「うん」
「昨日、『本人から連絡する』と選ばれた方にとって」
「管理側への連絡経路が、戻ってこられる場所になるかもしれないね」
「はい」
答えなくてもいい。
でも。
答えたい日が来たら。
連絡できる。
そのための道だけを残す。
「では、面会を断った方にも、将来ご本人から意思変更の連絡があれば受け取れるようにはする」
「うん。ただし、こっちから何度も『いつでも戻れますよ』とは言わない」
「……はい」
そこが難しかった。
一度拒否した人にも、もし気が変わったら戻れるということは知っておいてほしい。
そう思えば、
『いつでも変えられます』
『待っています』
『気が変わったら連絡してください』
何度も伝えたくなる。
けれど、それを繰り返せば、今度は相手へ「まだ待たれている」という重さを背負わせることになるかもしれない。
「最初に一度だけ」
ノルンがゆっくり言う。
「必要な情報として、『将来、意思変更を希望された場合は連絡可能です』とお伝えする」
「うん」
「その後は、ご本人が戻るまでこちらから触れない」
「それが、戻れる場所を残す?」
「私はそう思います」
「僕も」
ノルンは手帳へ書いた。
『戻ってこられる場所を残す=回答変更を期待し続けることではない』
『連絡手段・相談経路のみ保持し、利用を繰り返し促さない』
そこまで書いたところで、ノルンは少し考えた。
「主様」
「何?」
「ルークにも、このことを伝えたいです」
「今?」
ノルンはすぐには頷かなかった。
昨日、ルークとはかなり長く話している。
会いたい。
悲しい。
嫌だ。
それでも、相手が決めたこと。
そこまで理解し始めたばかりだ。
そこへさらに新しい『待つ』の考えを入れて、混乱させないだろうか。
「昼食後に致します」
「お」
「午前中は先に、第三改訂と現行制度の対応箇所を整理致します。それに」
「うん」
「朝食を食べていても、午前中ずっと古代記録を読めば疲れます」
「そこまで分かるようになったんだ」
「成長です!」
「偉い」
「ありがとうございます!」
ノルンは今日も、褒め言葉を迷わず受け取った。
◇◇◇
午前中、二人は現行の転生者観察官制度との比較を少しだけ進めた。
現在の規定では、本人回答が保留だった場合、
『必要に応じて再確認』
という表現がある。
ただし、いつ確認するのか。何回まで行うのか。期限を設けるのか。本人が時期を決められるのか。
そこまでは明確に記されていない。
「主様」
「何?」
「これまでは観察官ごとの判断に任されていたのでしょうか」
「たぶん」
「リベルさんなら、かなり待ちそうですね」
「うん」
「私なら……以前でしたら三日後に聞いていたかもしれません」
「早い」
「一週間は待ちます!」
「今のノルンじゃなくて、昔のノルンの話」
「……もっと早かった可能性もございます」
「だよね」
「反省しております」
保留と言われる。
ならば少し時間を置く。
でも結果が欲しい。
三日。
一週間。
『そろそろどうでしょう』
そう聞いている自分は、今なら簡単に想像できる。
悪意はない。
むしろ真面目に案件を進めようとするほど、そうなった可能性が高い。
「主様」
「何?」
「他の観察官が実際にどう運用しているか、確認したいです」
「今日すぐリベル呼ぶ?」
「いいえ」
ノルンは少し笑った。
「まず質問項目を作ります」
「前なら、その場でリベル呼んでたね」
「リベルさんにもご都合があります!」
「成長」
「はい!」
「自分で言う」
「事実ですので!」
ノルンは手帳へ質問項目を整理していった。
『保留回答者への再確認時期はどう決めているか』
『拒否回答者へ再確認した経験はあるか』
『理由開示拒否時の対応』
『本人から連絡する方式を使った経験』
『期限未設定の案件を保持した経験』
『緊急性と本人意思をどう分けているか』
そこまで作ったところで、ノルンは一度手を止めた。
「リベルさんだけではなく、数名に聞いた方がよろしいですね」
「一人のやり方だけで制度全体を判断しないため?」
「はい。リベルさんが非常に慎重だったとしても、それが全観察官の標準とは限りませんし、反対に少し強引だったとしても、制度全体がそうとは限りません」
「いいね」
ノルンは少し胸を張った。
「褒めますか?」
「今、褒めたよ」
「もう少し」
「増量制度はありません」
「ルークと同じ扱いです!」
主様が笑った。
◇◇◇
昼食と休憩。
その両方をきちんと終えてから、ノルンは机の端へ向かった。
「主様」
「うん」
「ルークへお話し致します」
「待つことについて?」
「はい」
「第一接続者のことも話す?」
ノルンは首を横へ振った。
「今日は古代記録としてではなく、今の私が考えたこととして、必要な範囲だけ伝えます」
「それがいいと思う」
第一接続者とルークが、一万八百年前に繋がっていた可能性はかなり高い。
けれど今、その過去を伝えれば。
ルークはきっと、
『昔もそうだった?』
『昔のノルンは?』
と、過去へ意識を引っ張られる。
今日は過去の答え合わせをするためではない。
今のルークが、これからどう待つのか。
そこを一緒に考えるために呼ぶ。
「ルーク」
呼びかけてから少しして、机の端へ淡い光が浮かんだ。
『ノルン』
「はい」
『今日も早い』
「昨日よりは遅いです。もう昼食後ですので」
『ご飯?』
「きちんといただきました」
『偉い?』
「なぜルークが私を褒める側なのですか」
『主が褒める』
「確かに褒められますが!」
少し離れたところで主様が笑っている。
ノルンは一度そちらへ視線を向けたあと、接続へ意識を戻した。
「ルーク」
『いる』
「昨日のことを覚えておりますか」
『会わない』
ほとんど迷いなく返ってきた。
「はい」
『待ちたい』
「はい」
『でも、待ったら会えるって思わない』
「はい」
昨日話したところまで、きちんと覚えている。
ノルンはそのことが素直に嬉しかった。
「今日は、その『待つ』について、私も少し考えました」
『分かった?』
「少しだけ」
『教えて』
「はい」
ノルンは一度呼吸を整えた。
「待つというのは、相手が答えを変える日まで、ずっと同じ場所で立ち続けることではないと思います」
光が少し揺れる。
『立つ?』
「例えです」
『分かんない』
「では、違う言い方を致します」
ノルンは少し考え直した。
「今、九人の方々のお返事を待っておりますね」
『うん』
「ですがルークは、その間ずっと九人のことだけを考えている必要はございません」
返事が止まる。
「私とお話ししてもよいです。他のことを見てもよいです。別のことを覚えても構いません。楽しいことがあれば、笑ってもよいのです」
淡い光が静かになった。
『忘れる?』
「何をでしょう」
『九人』
ノルンはすぐには答えなかった。
ルークにとって『忘れる』という言葉には、ただ考えない時間があるという以上の重さがある。
一万八百年前の接続。
失われた認識。
今もはっきり思い出せない相手。
ノルンも、それを知っている。
「完全に忘れてしまうという意味ではございません」
『じゃあ?』
「一日中、ずっとその方々だけを考えていなくてもよいという意味です。待っている相手のために、自分の時間を全部止める必要はないと思うのです」
光がしばらく動かなかった。
『でも』
「はい」
『待たないになる?』
「いいえ」
『何で?』
「戻ってきた時に、きちんとお話しできる場所だけ残しておけばよいからです」
『場所?』
「はい」
ノルンは昨日返ってきた一人の回答を例にすることにした。
「本人から連絡すると決めた方がおられます」
『いる』
「その方へ、私達から『まだですか』とは聞きません」
『うん』
「ですが、その方が話したくなった時に、連絡できる方法は残しております」
少し間が空いた。
「私が今考えている『待つ』は、それに近いです」
しばらく反応は返ってこなかった。
ノルンは急かさない。
主様も、離れた場所で黙って待っている。
やがて。
『ルーク』
一度文字が止まり、
『何していい?』
と続いた。
ノルンの目が少し大きくなる。
「待っている間に?」
『うん』
「何をしても構いません」
『……』
「もちろん、他の方へ勝手に干渉することは駄目です」
『そこ?』
「重要です!」
『分かった』
「それ以外でしたら、私とお話ししてもよいです。世界を遠くから見ることもできます。ただし、勝手に覗かない」
『うん』
「何か気になることがあれば」
『ノルンに聞く』
「はい」
『主にも?』
「主様がよろしければ」
「いいよ」
『うん』
淡い光が少し明るく揺れた。
何かを待つ間に、何か別のことをする。
その発想自体が、ルークにはまだ新しいのかもしれない。
ノルンは少し考え、ふと思い出したことを口にした。
「そういえば昔の記録に、ルークが誰かの笑い方を真似したものがございましたね」
言った直後、僅かに後悔した。
第一接続者との過去へ繋がる情報を、今日はあまり出さないつもりだったからだ。
ただし、相手が誰なのかまでは伝えていない。
『笑い?』
「はい。詳しくはまだお伝え致しませんが」
『ルーク、笑った?』
「昔、誰かの笑い方を真似した記録がございます」
『……』
『今もできる?』
「分かりません」
『やる』
「え?」
光が妙な揺れ方をした。
『は』
一度止まり。
『はは』
また止まり。
『ははは』
「……」
ノルンと主様が、ほとんど同時に黙った。
『どう?』
ノルンは口元を押さえた。
「主様」
「うん」
「笑ってもよろしいでしょうか」
「もう笑ってるよ」
「違います!」
堪えようとするほど、余計におかしくなる。
文字だけで笑いを再現しようとしているせいか、妙に平坦で、真面目で、それなのに本人は大成功したつもりらしい。
「ルーク」
『いる』
「少々、不自然です」
『何で?』
「笑いは、練習して出すものではございません!」
『でも笑った』
「私がです!」
『成功?』
「……半分」
『また半分』
「そこを覚えておられるのですか!」
光が小さく揺れた。
今度は文字ではない。
反応そのものが、どこか楽しそうに見える。
ノルンも、主様も、自然に笑っていた。
そこで。
ノルンはふと気づいた。
「ルーク」
『何?』
「今、九人のことを忘れておられましたか?」
光が一度止まった。
『……少し』
「はい」
『だめ?』
「いいえ」
ノルンは穏やかに首を横へ振った。
「それでよいのだと思います」
『でも待ってる』
「はい」
『会いたい』
「はい」
『でも笑った』
「はい」
『両方?』
「両方です」
ルークは長く黙った。
待っている。
会いたい。
でも、その瞬間だけ違うことを考えて笑った。
どちらか一つが嘘になるわけではない。
悲しいから、笑ってはいけないわけでもない。
待っているから、待っている相手以外を見てはいけないわけでもない。
やがて。
『分かった』
短い文字が浮かんだ。
けれど、その『分かった』は、今までノルンに言われたことをそのまま受け取った時よりも、少しだけ自分で考えた響きを持っているように感じられた。
「ルーク」
『いる』
「待っている間、ルークもルークの時間を過ごしてよいのです」
『時間』
「はい」
『世界の外でも?』
「はい」
『何する?』
「それは」
ノルンは少し笑った。
「ルークが決めてください」
反応が止まる。
すぐに答えを求めない。
何をしたいのか。
今まで、ほとんど誰にも聞かれなかった問いかもしれない。
しばらくして。
『考える』
「はい」
『今決めない』
ノルンの目が大きくなった。
そして、すぐに嬉しそうな笑顔になる。
「はい」
『褒める?』
「もちろんです!」
『もっと』
「そこはすぐ決めるのですね!」
主様の笑い声が管理室へ小さく響き、ルークの光も少しだけ楽しそうに揺れた。
◇◇◇
ルークとの接続を閉じたあと、ノルンはしばらく机の端を見つめていた。
先ほどまでそこにあった淡い光は消えている。
けれど、いつもと少しだけ違う余韻が残っていた。
「主様」
「何?」
「少し安心致しました」
「何に?」
「ルークが、待っている間も別のことをしてよいと知れたことです」
ノルンは自分の手帳へ目を落とした。
「私は今まで、ルークへ『待ってください』と何度も申し上げてきました」
「言ってたね」
「でも、何をして待てばよいのかまでは、考えておりませんでした。呼ばず、覗かず、勝手に動かず、ただ待つ。それだけを求めていたかもしれません」
主様はすぐには否定しなかった。
「ルークにとっては、最初はその方が分かりやすかったんじゃないかな」
「最初は?」
「待つこと自体を覚える段階だった」
ノルンの目が少し大きくなる。
「今は?」
「待てるようになってきた。だから、次の待ち方を覚えられる」
その言葉が、ノルンの胸へゆっくりと落ちた。
最初から全部できなくてもよい。
ルークは以前、勝手に覗いた。
呼んだ。
繋がった。
それが相手にとってどういう意味を持つのか、十分に考えられなかった。
だからまず、『待つ』を覚えた。
次に、待っているからといって、必ず相手が答えを変えるとは限らないと知った。
そして今。
待っている間にも、自分の時間を持ってよいのだと覚え始めている。
「主様」
「うん」
「第一接続者も、きっとこうやって少しずつだったのでしょうね」
「何が?」
「学ぶことです」
本人へ聞かなかった。
だから、聞いた。
聞きすぎた。
だから、拒否も回答だと学んだ。
保留には長い時間を与えた。
それでも、その時間が圧力になった。
だから今度は、時間そのものを本人へ返した。
一度で完成したものなど、何もない。
「私も」
「うん」
「ルークも」
「うん」
「一つずつでよいのですね」
「僕はそう思う」
「主様も?」
「僕も?」
「はい」
「僕も間違えるよ」
「存じております」
「即答」
「以前より安心しておりますので!」
「褒めてないよね、それ」
「親近感です!」
「第一接続者と同じ扱いになってきたなあ」
ノルンは楽しそうに笑った。
少し前まで。
主様は何でも知っている存在だと思っていた。
第一接続者も、昔から正しい答えを知っていた人に見え始めていた。
けれど。
知らないことがある。
間違える。
考え直す。
その方が。
今のノルンには、ずっと近く感じられる。
◇◇◇
その日の午後、ノルンは九人への新しい面会意思確認には向かわなかった。
代わりに、残る三名の担当観察官へ送る確認事項を整理する。
本人の現在の生活状況。
接触可能な時期。
安心して話せる場所。
そして、今回新たに一つ。
面会意思を確認されること自体を、本人が今受け入れられる状態なのか。
「主様」
「何?」
「私は今まで、面会意思を確認すること自体は当然受けていただけるものだと思っておりました」
「会うか会わないかを聞くだけだから?」
「はい。質問そのものは危険ではないと思っておりました」
「でも、その話自体を今は聞きたくない人もいる」
「そういうことですね」
ノルンは手帳へ新しい項目を作った。
『面会意思確認への参加意思』
書いた文字を見て、少しだけ肩を落とす。
「一段階増えた」
「増えました!」
「また確認項目が増えるね」
「ですが必要です!」
「うん」
「嫌そうに仰らないでくださいませ」
「ノルンが嫌そうだったから」
「私は調査項目が増えると少し困るだけです!」
「それを普通は嫌そうって言うんだよ」
「違います!」
また少し大きな声が管理室へ響いた。
壁際に浮かんでいた小型端末が一度だけ反応しかけ、ノルンは慌てて声を落とす。
そんな自分に、今度は主様が小さく笑った。
けれど、そのやり取りの中にも以前ほど焦りはなかった。
終わらせなければ。
全部確認しなければ。
今日一件でも進めなければ。
そんな追われるような感覚が、少しずつ薄れている。
確認事項が増えたなら。
増えた分だけ。
必要なところを丁寧に進めればよい。
そう思えるようになってきた。
◇◇◇
夕方になり、管理室へ橙色を模した淡い光が広がる頃。
ノルンは今日分かったことを整理した。
『第三改訂・保留回答対応』
『定期再確認制度は、本人にとって回答期限として作用する場合がある』
『第一接続者は制度運用後、定期再確認停止を提案』
『本人による再確認時期指定制度へ変更』
『本人希望時、期限設定なし』
『管理側から再確認を希望しない場合、その意思を保持』
続いて。
『第三改訂補足』
『待つとは、相手へ期限を渡すことではない』
『戻ってこられる場所だけを残すこと』
そこまで書いたあと、ノルンは自分の考えを別欄へ書き足した。
『現在のノルンによる解釈』
『戻ってこられる場所を残す=回答変更を期待して待ち続けることではない』
『連絡・相談可能な経路を保持し、本人からの利用を待つ』
『待つ側も自分の時間を止める必要はない』
『相手を考えない時間、笑う時間、別のことをする時間があっても、待っていないことにはならない』
そこまで書いてから、ノルンの筆が止まった。
「主様」
「何?」
「最後の一文についてですが」
「うん」
「まだ規定にはしたくありません」
「どうして?」
「これは、今の私とルークが考え始めたことだからです」
ノルンは先ほどの接続を思い出した。
九人のことを少し忘れて。
笑った。
それでも待っている。
その二つが同時に存在してよいのだと、ルークは今日初めて知った。
「他の方にとっての『待つ』も、同じとは限りません。今の私達には合っていても、誰にでもそのまま当てはめてよいとは思えません」
「じゃあ?」
「当面は、私の個人考察として残します」
「いいと思う」
ノルンは正式規定候補の欄から、その文章を『個人考察』へ移した。
「主様」
「うん」
「少し前の私でしたら、良いと思った考えをそのまま規則へ入れようとしたかもしれません」
「ありそう」
「即答されました!」
「だってノルン、真面目だから」
「褒めておりますか?」
「半分」
「また半分!」
主様が笑った。
「でも、今は」
「はい」
「自分に合った答えと、皆へ適用する規則を分けられてる」
ノルンの目が少し大きくなる。
「それは」
「うん」
「褒めてくださっておりますか?」
「全部」
「ありがとうございます!」
今度は嬉しそうに胸を張った。
古い規定を見つける。
良いと思う。
だから採用する。
以前なら、そのくらい一直線だったかもしれない。
けれど第一接続者自身が、規定を作り、その規定で失敗し、また直している。
ならば。
良い言葉だからといって。
それが誰にとっても正しいとは限らない。
それを今のノルンは、少しずつ理解し始めていた。
◇◇◇
その日の業務を終えたあと、ノルンはすぐには自室へ戻らず、管理室の出口近くで一度振り返った。
橙色の光に照らされた管理室は、朝とはまた違う静けさを持っている。世界記録は変わらず動いているが、今日ノルンがやると決めた仕事はもう終わっていた。
「主様」
「何?」
「私、待つというのは、何もしないことだと思っておりました」
「うん」
「相手が答えるまで、こちらは止まっている。それが待つことだと」
「そういう感じだった?」
「はい」
ノルンは一度、机に置いた手帳へ視線を向けた。
「でも、今は少し違って見えます。待っている間も、自分の仕事をして、ご飯を食べて、眠って、笑って、別のことを考える」
「うん」
「それでも、相手が戻ってきた時に、もう一度話せる場所だけ残しておく」
「うん」
言葉にしながら。
それはルークだけの話ではないのかもしれない、とノルンは思った。
九人の返事。
第一接続者の記録。
現行制度の調査。
どれも。
今日全部終わらせる必要はない。
待ちながら。
自分の仕事をする。
生活をする。
時には別のことを考える。
そして必要な時に、また戻る。
ノルンは少しだけ笑った。
「その方が、優しい気が致します」
主様はすぐには同意せず、少し考えてから静かに頷いた。
「僕もそう思う」
「では、おやすみなさいませ」
「おやすみ、ノルン」
ノルンは扉へ手を掛けたが、そこでまた振り返った。
「主様」
「何?」
「明日も朝食を食べてくださいませ」
「分かってるよ」
「睡眠も」
「寝ます」
「六時間以下でしたら」
「ノルン」
「はい」
「帰って寝よう」
「……はい!」
最後に少し大きな声を残し、ノルンは今度こそ自室へ戻っていった。
◇◇◇
その夜。
旧管理領域最古層では、今日現在側から第三改訂補足が閲覧されたことをきっかけに、さらに別の古い記録が静かに浮かび上がっていた。
『内部観察補助一号・長期保留対象運用記録』
そこに残されていたのは、ある一人の対象個体についての長い記録だった。
その対象は、いつまでも答えを出さなかった。
管理側からの再確認も希望しない。
自分で決めた時に、自分から連絡する。
そう選んだ。
第一接続者は、その意思を受け入れた。
一年が過ぎた。
三年。
五年。
それでも連絡は来なかった。
記録には、毎年のように短い確認が残されている。
『対象記録確認』
『接触なし』
翌年。
『対象生活安定を確認』
『接触なし』
さらに翌年。
『対象記録確認』
『接触なし』
第一接続者は、本人へ期限を渡すことをやめた。
催促もしていない。
問い掛けてもいない。
だから。
自分は待てている。
そう考えていたのかもしれない。
けれど。
今度は、別の問題が生まれた。
『管理責任者より指摘』
『戻ることを期待して対象記録を個別確認し続ける行為は、本人への接触がなくとも待機執着へ変化する可能性あり』
第一接続者は、そこでまた立ち止まった。
相手へ期限を渡していない。
答えを求めてもいない。
それでも。
自分の方が。
ずっとその人の答えに時間を置き続けていた。
毎年。
戻ったか。
気持ちは変わったか。
連絡したくなったか。
こちらから声を掛けなくても。
その人だけを特別に確認し続けている。
相手の時間は返した。
けれど。
自分の時間までは。
まだ返せていなかった。
その後の記録には、運用変更が残っていた。
『内部観察補助一号、対象個体の定期個別確認を停止』
『通常観察対象と同一頻度へ変更』
『本人からの連絡経路のみ保持』
第一接続者は、そこでようやく、その人だけを待つ仕事をやめた。
別の対象を見た。
新しい管理案件へ関わった。
また何かを間違えた。
制度を直した。
誰かへ謝り、誰かに怒られ、時には笑った。
おそらく。
待っていた相手のことを。
何日も。
あるいは、もっと長く。
思い出さない時さえあっただろう。
それでも。
連絡経路だけは。
消さなかった。
そして。
十三年後。
記録に短い変化が残る。
『対象個体より連絡あり』
内容。
『話したい』
その時、第一接続者は別の世界内部観察へ出ていた。
十三年間、その人のために同じ場所へ立っていたわけではない。
十三年間、毎日その人だけを考えていたわけでもない。
自分の仕事をして。
自分の時間を過ごして。
別の誰かと関わって。
それでも。
戻ってきた相手を受け取れる場所だけは、残っていた。
『内部観察補助一号、応答』
その下に。
たった一言。
『おかえり』
それだけだった。
『遅かった』
とは、書かれていない。
『十三年も待った』
とも。
『やっと戻ってきた』
とも。
残されていない。
ただ。
『おかえり』
だった。
誰も今、その記録を見ていない。
ノルンも。
主様も。
ルークも。
まだ知らない。
けれど、一万八百年前。
第一接続者は、
『戻ってこられる場所だけを残す』
と書いたあと。
さらに十三年という時間をかけて。
その言葉の意味を。
自分自身で覚えていた。
待つ側も、自分の時間を生きる。
戻る側も、自分の時間で戻る。
そして、再び会えた時。
待った時間を相手へ渡すのではなく。
ただ。
戻ってきたことを受け取る。
その記録は。
次の朝。
ノルン達へ、もう一つの問いを渡すことになる。
誰かを待つ間にも、自分の時間を進めてよいのなら。
ルークは。
世界の外側で。
これから何をしてみたいのか。
そして。
ノルン自身は。
ルークや九人の答えを待っている間に。
どんな観察官になりたいのか。
待つことを覚える話は。
いつの間にか。
立ち止まらずに生きることを覚える話へ。
少しずつ。
変わり始めていた。




