猫の獣人と婚約者になりました
日差しを感じて瞼を開けた。
視界には見覚えのない高級感が漂う家具と大きな窓、天井にはシャンデリアが垂れ下がっていた。
服に視線を移すと召喚された日に着ていた制服のままだった。
あのまま倒れてベッドに連れてこられたのだと理解した。
自分の家とは明らかに違う豪華な部屋に、昨日の出来事は夢では無かったのだと気付かされた。
右手にはふかふかの布団の感触がして、左手には…。
ーー!?
てててててててて手!?
手を握られていた。
握られている手を辿ると、私が寝ているベッドの側に置かれた椅子に腰掛けた綺麗な人、シャルトさんがこちらを見ていた。
「おはようございます。お身体はいかがですか?」
そう言って甘く微笑まれる。
…うっ!
その声も、その笑みも心臓に悪い…!
な、何か返答しなきゃっ
「はい、もう大丈夫です。…おはようございますシャルトさん。」
「それなら良かった。こうして愛しい人に一番に挨拶することができるなんて嬉しいです。…ところで、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
「私の名前はサラです。」
「サラ…。貴方のように可愛らしい名前ですね。」
いやぁぁぁ!!!
そんなに甘く微笑まないでってば!!!
心臓がドクドクしてるうぅぅ
「そろそろ朝食の準備をして参りますので、サラはこちらでお待ち下さい。侍女をこの部屋に呼びますから、湯浴みとお着替えをして食堂までいらして下さい。この手を離すのが名残惜しいですが…、また後ほど。」
そう言いながら握られていた私の手の甲にシャルトさんの唇が一瞬触れて手が離される。
そのまま彼は部屋を退出していった。
ああぁぁ!無理だ!
顔が良すぎて心臓が持たない死ぬっ…!
そう言えば私、いつから倒れて………………『あなたに一目惚れしました、よろしければ恋人になっていただけませんか?』…っ……!?!
昨日の光景が頭に浮かび、火が出そうなくらい顔が熱を持つのを感じて考えるのを止めた。
「と、取り敢えず、お腹空いたし…。朝食を食べるぞ!」
数分で部屋に訪れた侍女に連れられ、湯浴みと着替えをした。
着替えはTシャツに短パンを想像していたのに、用意された服は踝の数センチ上まで丈がある長めの上品な花柄ワンピースだった。
着替えを終えて案内されるがまま食堂に向かい、扉を開けた。
正面には縦長のテーブルに豪華な朝食を乗せた皿とティーカップが並び、一番奥の正面にはバレク国王、私が案内された席の左隣にはシャルトさん、右隣には昨日あの場所に居た魔法使い衣装の男性が座っていた。
まさか国王と食事をすることになるとは思っておらず、急に体が緊張で強張る。
粗相のないようにと慎重に椅子に腰掛ける。
その後ろに侍女が立ち、バレク国王へお辞儀をする。
私が着席したことを確認し、バレク国王が私に話しかけてきた。
「サラ殿、昨日は無理をさせてしまったみたいで、すまなかったな。今日はこの王宮で体を休めるといい。君の部屋は王宮に空いている一室を用意したから、あの部屋は自由に使ってくれて構わないよ。」
ああ、それと…とバレク国王が続けて話す。
「この国は平和な国だが、王宮にいる者や貴族など、身分が高い者を狙う輩はいる。そこで、シャルトを君の護衛に任命する。これから君とシャルトは一緒にいる時間が長くなるだろう。だからその…、昨日のシャルトの告白を受け入れて恋人に…、いや、婚約を受けてくれないだろうか?」
…いやああああ!!
忘れようとしてたことを思い出させないでー!!
顔を真っ赤にして硬直した私を、シャルトさんは横から覗き込むように顔を近付けて私の頬に手を添える。
「サラ?顔が赤いですよ。やっぱり具合悪いんじゃないですか?」
美しい顔が至近距離に近付き、心臓がドドドドッと激しく動き出した。
いや、あなたのせいです!!!
これ以上、心臓に悪いことしないで!
早くこの場を去らないと心臓が壊れて死ぬと思った私は、咄嗟に肯定の言葉を口にしていた。
「……あ、えと…、その、体調は大丈夫です…。シャルトさんとの婚約も…シャルトさんがよろしければ…、わたしは、こ、婚約して、も、大丈夫です…。」
「…!本当に!?いいのですか!?」
バレク国王が答えるよりも先にシャルトさんの嬉しそうな声が聞こえてきた。
キラキラした笑顔にまた心臓がドドドドッと激しく動き出す。
私は『もうやめてーーー!!』と心の中で叫ぶのであった。




