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聖剣じゃない。どう見ても電動マッサージ機です本当にありがとうございました。 ――なのに異世界では“震界の魔杖”として最強認定された僕、恥ずかしすぎてもう無理なのに魔王軍だけはなぜか倒せる  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第23話 まさかの“試供会”計画

王宮の回廊を出て、騎士団本部へ戻る馬車の中で、新堂ユウトは完全に魂の抜けた顔をしていた。


 窓の外には、相変わらずきらびやかな王都の景色が流れていく。

 石畳、大通り、噴水、買い物客、荷車。

 平和そのものみたいな光景だ。


 だが、ユウトの心境は平和から最も遠かった。


「……説明会」


 ぽつりと呟く。


「はい」


 向かいに座るレティシアが答える。


「正しい理解のための説明会、だっけ」


「現時点での仮称です」


「仮称なのも嫌なんだよな」


 しかも、その“正しい理解”の内容は、完全に自分の望む方向ではない。

 王宮は王宮で、王都を安心させるために言葉を整える。

 神殿は神殿で、善意から期待を広げる。

 魔導院は魔導院で、研究上の事実を拾う。

 商会は商会で、そこに市場を見出す。


 全員、立場が違うのに、結果だけはひとつだ。


 自分の名誉が削れる。


「嫌だなあ……」


 心からそう言うと、レティシアが少しだけ目を和らげた。


「お気持ちは分かります」


「最近、それ言われると本当に救われるんだよ」


「そうですか」


「うん」


 馬車の隅で、フィアナが少しだけ胸を張る。


「でも、今日はちゃんと止められましたよ」


「何が」


「“疲れを取る聖具”みたいな方向です」


「そこだけ聞くと、ほんとに何の話してるか分からないな……」


 フィアナは首をかしげた。


「違うんですか?」


「違うとも言い切りづらいのが最悪なんだよ!」


 そこへ、向かいの席に積まれていた資料束をぱたんと閉じる音がした。


 ミリスだった。

 いつの間にか同じ馬車に乗っていたのだが、ずっと王宮から預かったらしい羊皮紙を読んでいた。


「違うとも言い切れない以上、次の火種はそこね」


「火種ってなんだよ」


「神殿」


 即答だった。


「うわ、やっぱりか」


「ええ。王宮が言葉を整理しても、神殿の中に“困っている人がいるなら試したい”って空気は残ってる」


「そうだろうなあ……」


 フィアナは少しだけ困った顔になる。


「だって、実際に少し楽になった方がいたのは本当ですし……」


「そこなんだよ!」


 ユウトは頭を抱えた。


「完全な嘘なら俺ももっと強く否定できるのに、中途半端に事実が混じってるから!」


 ミリスは腕を組む。


「それに、神殿って“困っている人を放っておくな”の組織でしょう」


「うん」


「だから、“まずは神殿内だけで、小規模に、奉仕の一環として”みたいなことを言い出す人間は必ず出る」


 その予想は、あまりにも生々しかった。


「……出るな、それ」


「出ますね」


 レティシアまで即答した。


 だめだ。

 全員が同じ未来を見ている。


 そして嫌なことに、その未来はかなり高確率で当たるのだ。


   ◇


 その夜、騎士団本部の客室で、ユウトは黒布袋を前にして頭を抱えていた。


「……なんとかならないかな」


 もちろん、黒布袋は沈黙している。


 中には、すべての元凶。

 いや、元凶と呼ぶには少し違うのかもしれない。元の世界ではただの、いや“ただの”と言うにはちょっと語弊があるが、とにかく別に異世界戦争や王都の政治に関わるものではなかったはずなのだ。


 それがなぜ、肩こり、疲労、整流、癒やし、民間利用などという単語と並べて語られているのか。


「意味分かんないよなあ……」


 心からの本音だった。


 こん、こん、と扉が叩かれる。


「……はい」


「入ります」


 レティシアだった。


 彼女は部屋へ入るなり、ユウトの顔を見る。


「かなり疲れていますね」


「精神だけね」


「それも含めて疲労です」


「その言い方、今日はだいぶ刺さるな」


 レティシアは小さく頷き、それから本題へ入った。


「神殿から、正式な打診が来ました」


「はい終わり」


 ユウトは椅子の背へ倒れ込みそうになった。


「早いな!?」


「予想通り、と言うべきかと」


「予想はしてたけど、こんなに早いと思わないじゃん!」


 レティシアは少しだけ言いにくそうに視線を落とす。


「内容は……」


「言わなくていい」


「神殿内限定での、小規模な“確認会”です」


「言ったな!?」


 ユウトは勢いよく起き上がった。


「確認会ってなんだよ! 言葉を整えた“試供会”じゃないか!」


 レティシアは訂正しなかった。


 それが何よりひどい。


「参加希望は、神殿内の奉仕担当修道女数名。疲労の強い者、肩や背を痛めている者に限定」


「限定してもだめなんだよ!」


「さらに、神殿としては“儀式”ではなく“兵装安全性確認の延長”と主張しています」


「もっとだめだろ!」


 もう完全に逃げ道を塞ぎに来ている。

 儀式ではない。

 公開ではない。

 神殿内限定。

 安全確認の延長。


 全部、断りにくくするための言い方だ。


「ずるい……」


 ユウトが本気で呻くと、レティシアが静かに言った。


「はい。かなり」


「そこは即答なんだ」


「ですが、私もすでに反対しています」


「ほんとに?」


「当然です」


 その一言に、少しだけ救われる。


 レティシアは続けた。


「ただし、神殿側の言い分も筋が通っているのです」


「分かってるよ……」


 だからこそ厄介なのだ。


 もしこれが下品な好奇心だけなら、まだ切り捨てやすい。

 だが神殿の理屈は、


困っている者がいる

確認済みの限定効果がある

王都で噂が暴走する前に、神殿内で安全域を把握したい


 というものだ。


 正しさが混じっている。

 そして、正しさが混じっている時ほど、ユウトは強く拒めない。


「……レティシア」


「はい」


「俺、これ断ったら、悪い人になる?」


 レティシアは数秒だけ黙り、それから正直に答えた。


「立場によっては、そう受け取る者もいるでしょう」


「だよなあ……」


 頭を抱えたくなる。


 すると今度は、扉の向こうから元気な声が響いた。


「失礼します!」


「来たな」


 フィアナである。


 今日は一人ではなかった。

 後ろに、昨日も見かけた年長の修道女が二人ついている。


「増えた!?」


「神殿から正式に来ました」


 フィアナが真面目な顔で言う。


「だからその“正式”が怖いんだよ」


 年長の修道女たちは、きちんと一礼した。

 穏やかで、礼儀正しくて、悪意など欠片もない顔だ。


 それが余計に断りづらい。


「夜分に申し訳ありません、シンドウ殿」


 年長の修道女の一人が口を開く。


「本件、無理にお願いする意図ではございません」


「だろうなあ……」


「ただ、神殿内では今日の魔導院での確認結果も受けて、“どこまでが危険で、どこまでが安全か”を把握しておく必要があるのではないか、という声が上がっております」


「うん」


「そして、もし本当に少しでも奉仕の助けになるのなら、困っている者を見過ごすのは神殿として難しい」


 やはり言う。

 言うと思った。

 でも言われると、やっぱり痛い。


 フィアナが一歩前へ出る。


「だから、ほんの少しだけでいいんです」


「その“ほんの少し”が一番信用できないんだって」


「本当にです!」


「君は本当にだと思ってるんだろうけど!」


 レティシアがぴしゃりと言う。


「神殿内であっても、なし崩し的な試行は認めません」


「ですから、今回は“きちんとした場”としてお願いに来たのです」


 年長修道女の返しは落ち着いていた。


「人数を絞る。時間も絞る。記録も取る。王宮と騎士団へも報告する。そうした正式な確認会であれば、少なくとも無秩序な噂の拡大は抑えられるのではないかと」


 うまい。

 言い方が本当にうまい。


 ユウトは一瞬だけ黙り込んだ。


 完全な試供会なら断りやすい。

 だが、いま示されているのは“秩序ある確認会”だ。しかも対象は神殿内の奉仕者だけ。王宮にも騎士団にも報告する。つまり、秘密裏の怪しい集まりではない。


「……これ、だめだな」


 ぽつりと漏らすと、フィアナが首をかしげた。


「なにがですか」


「断りにくすぎる」


 そう言った瞬間、部屋の空気が少しだけ変わった。

 神殿側が押し切ったわけではない。だが、ユウト自身がそれを理解してしまったのだ。


 レティシアが静かに言う。


「シンドウ殿」


「分かってるよ」


 ユウトは深く息を吐いた。


「でも条件がある」


 フィアナの顔がぱっと明るくなる。

 そこだ。その反応の早さが危ない。


「まず、人数は最小限。ほんとに最小限」


「はい!」


「時間も短く。肩だけ。背中も腰もなし」


「……はい」


 年長修道女がほんの少しだけ残念そうな顔をしたのを、ユウトは見逃さなかった。


「あと、“癒やし”とか“施術”とか“整う”とか、そういう言葉は使わない」


「それは……」


 フィアナが口ごもる。


「そこが一番大事なんだよ!」


 ユウトは真顔で言った。


「“確認会”以上の意味を絶対に持たせないでくれ」


 レティシアがそこで強く頷く。


「それなら、私も監督につきます」


 その言葉が出た瞬間、神殿側も完全には逆らえない空気になる。

 やはりレティシアの存在は大きい。


 年長修道女は一礼した。


「承知しました」


「明日の夕方、神殿内の小礼拝室にて。王宮、騎士団、魔導院にも簡易報告を回します」


 話が早い。

 早すぎる。


「ほんとにやるんだな……」


 ユウトが力なく言うと、フィアナが少し申し訳なさそうに笑う。


「ごめんなさい」


「君が謝る時は、たいていもっとまずい方向へ行く前触れなんだよな」


「そんなことないです!」


「いや、ある」


 だが、ここまで来たらもう止まらない。


   ◇


 翌日、神殿内の小礼拝室は、異様な緊張感に包まれていた。


 大聖堂の本殿ほど大きくはないが、それでも白い石壁と柔らかな灯りに満ちた、静かな空間だ。

 その中央に長椅子が置かれ、周囲には最低限の立会人だけがいる。


 ユウト。

 レティシア。

 フィアナ。

 エラルド司祭。

 年長修道女二名。

 そしてなぜか、魔導院から来たミリス。


「なんでいるの」


 ユウトが本気で嫌そうに聞くと、ミリスは当然のように答えた。


「記録」


「だと思った!」


 今日は魔導院の補助研究員はいない。

 レティシアの強い主張で、人数は本当に最小限に抑えられていた。それだけが救いだ。


 礼拝室の隅では、三人の修道女が緊張した面持ちで座っている。全員、奉仕仕事で肩を痛めているらしい。だが本人たちも、まさかこんな形で“確認対象”になるとは思っていなかったのだろう。顔が固い。


「ほんとに確認だけだからな」


 ユウトが何度目か分からない確認をすると、エラルド司祭が静かに頷く。


「ええ。神殿としても、それを逸脱するつもりはありません」


「その言い方で逸脱しなかった例が少ないんだよなあ」


 だが、始まってみれば、実際にはかなり慎重だった。


 一人目。

 肩の張り。短時間。弱出力。

 修道女は、終わったあと、驚いたように目を丸くした。


「……少し、楽です」


「はい来た」


 ユウトが顔を覆いたくなる。


 だが、二人目も同じだった。

 三人目は変化が薄い。だがゼロではない。


 つまり結果は、最悪に近かった。


 “神殿内限定の小規模確認会”が、一定の効果を示してしまった。


 静かな礼拝室の中で、フィアナの目だけがきらきらしている。


「やっぱりです」


「その“やっぱり”を禁止ワードにしたいんだけど」


「でも本当に」


「分かるよ、分かるけど!」


 ミリスは冷静に板へ書き込んでいる。


「個人差あり。即効性は限定的。でも浅い疲労と筋緊張にはやはり作用」


「そのまとめ方やめろお……」


 レティシアは完全に頭を抱えたい顔をしていたが、それでも場を壊さないために堪えていた。


「……ここまでにします」


 ぴしゃり、と彼女が言う。


 神殿側は異論を挟まなかった。

 いや、挟めなかったのだろう。結果が出た以上、これ以上続ければ本当に“確認会”ではなくなる。


 だが、その場にいた全員が理解していた。


 これはもう、止まらない。


   ◇


 礼拝室を出て、回廊へ出たとたん、ユウトは壁にもたれた。


「だめだ」


 心からの本音だった。


「終わった」


「終わっていません」


 レティシアが即座に言う。


「むしろ、ここから整理しないと」


「そういう正確なことを今は聞きたくない」


 ミリスが冷静に言う。


「今日の件、王宮へどう上げるかで今後が決まるわね」


「決まってほしくない」


「でも決まる」


 フィアナは少しだけ嬉しそうで、少しだけ困った顔をしていた。


「困ってる人が、少しだけ楽になったのは、やっぱりうれしいです」


「うん」


「でも、シンドウさんがすごく嫌そうなのも分かります」


「うん」


「両方ほんとうなんですよね」


 その言葉だけは、今日は妙に胸に残った。


 そうだ。

 両方ほんとうなのだ。


 困っている人が少し楽になる。

 でも、自分の名誉と精神は確実に削れる。

 どちらも本当で、どちらも軽くはない。


「……最悪だな」


 ぽつりと漏らすと、レティシアは静かに答えた。


「はい。かなり」


 そこはやっぱり、否定しないのだった。


   ◇


 その日の夜。


 王都の一角では、噂に敏い商人たちが、また新しい風向きを感じ取っていた。


 神殿内で何かあったらしい。

 “少し楽になった”という言葉が、静かに、しかし確実に流れ始めている。


 そしてベルナデッタ・フロウは、その報せを受けて、扇の陰で楽しそうに笑った。


「やっぱり、止まりませんわね」


 誰に言うでもなく呟く。


「ならば、次はもっと上手に参りましょう」


 王都の噂は、生き物だ。

 押さえつけようとすれば隙間から漏れ、否定しようとすれば別の形で育つ。


 ユウトはまだ知らない。

 この小さな“確認会”が、次にもっと大きな混乱を呼ぶ種になることを。

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