1-12 『襲撃の後の悲劇』
「怪我人は保健委員に見てもらい、重傷と判断された方はそのまま保健室まで行ってください。それ以外の人は治癒魔法ができる人に――」
アフルリッドが到着して数分後。アフルリッドのおかげで一気に形成が逆転し、空間転移による攻撃もやんだところだ。
周囲はまだ騒然としており、民間救急隊や騎士団(警察のような組織)もまだ来ていなかったようだ。
「……てか、何でお前がここにいるんだよアフルリッド。どうゆう都合のいいことが起こった?」
「人に助けてもらってその言い草はないでしょ。まあ、この辺りで不審者情報が上がってきたから見回りに来てたの。でもまさか、あなたの学校と私の学校の生徒が狙われていたなんて想像もして……いや、そのような事態が起こる可能性を考慮していなかったわ。ちゃんと考慮してもっと早く来ていれば……ッ!!」
アフルリッドは死んでしまった同じ学校の生徒の死体に掛けられた布を右手でめくり、しゃがんで見つめながら、拳を強く握りしめて悔しそうな顔でそう言った。
アルフリッド・シーレ・カタスト。名前から分かるように現カタスト家当主であるレーフストリ・クローズ・カタストの娘だ。
歳はレイより二歳年下の十四歳。親譲りの腰のあたりまで伸ばした赤い髪に、炎のように、また純血のように赤い目、とにかく赤という言葉が最も似合いそうな人物だ。
一応お姫様だが、彼女自身は気にしていない、というか気にしたくないそうで、お姫様のような敬語を使ったりはしなく、少しおてんばな性格だ。
学校では生徒会の書記を務めており(最初はアルフリッドを生徒会長にしようという動きがあったそうだが、先輩方の事を気にして最終的に書記になったそうだ)、成績優秀、容姿端麗、運動万能といったまさしくアニメのヒロインにするなら最もふさわしい人であろう。またビルビット曰く、学校では人気と人望がある人だそうだ。
そのためか、今のように人一倍他人の不幸ごとに敏感なところがある。
超実力主義の競い合いが激しいこの時代では珍しい思考の持ち主とも言えよう。
例えば今の状況が、彼女にとっては最も辛い場面であろう。
だけどアルフリッドは、人前では滅多に泣かないらしい。らしい、というのはレイがその現場に居合わせた事がないから、というのと、彼女が涙を流すのはビルビットともう一人の前だけだという事をビルビットから聞いたのだ。
「……彼らが一体なにをしたと言うの? 私が知る限り、彼らは変わり者だったけど、殺されるほどの事をしたとは到底思えないわよ」
「……。そうかもな。お前がそう言うんだったら、きっとそうだろうな」
レイはそう呟くと、死んでしまった彼らに手を合わせて、シーフールやキニヤル達がいる方向へと歩いて行った。
ただし、アルフリッドに一つの真実を伝えずに。
彼らが殺された本当の理由は、ただの無差別攻撃によるものではなく、娘を殺された親の復讐という真実を。
レイは歩きながら、先ほど襲ってきた犯人の情報を観ていた。名前はヘストイ・アーシンで性別は男。レイ達の学校がある第三聖区の隣にある第四聖区出身の、ごく普通の平民のようだ。そして彼の娘が半年前に先ほど殺された四人組に暴行され殺された、という情報までは簡単に手が入った。現在位置は未だわかっていないが、意識を集中させればすぐにわかるだろう。
が、その前に一つわからないことがあった。
因果関係の問題ではっきりとはわからないが、誰かといるようだ。
誰といるのかまでは分からなかったが、この情報に見覚えがあるのだ。最近まで身近にいた人物の誰かが。
レイが使っているこの力、能力ではなく生まれつき持った特性というべきなのかは、レイ自身にも分からないが、この『真実ヲ見ル目』は、一度見たものの情報、つまりその人物に関するプロフィールを見ることができるのだ。また、その人物との関係のある、因果率が高い物ほど、その情報も一緒に読み取れる力なのだ。
けどこの力は、この時代に目覚めた初日しか使っておらず、まだ完璧に使えるような状態ではないのだ。
レイはこの事を一旦保留して、これからの行動……つまり犯人をどうするかを考えていると、リンカが血相を抱えてレイのほうに走ってきた。
「ん? どうしたんだそんなに慌てて。なにかあったのか?」
レイの前で肩を落として息を切らせていたリンカはは、レイの両肩に手を置いて呼吸を整えると、たった一言で、レイを本当に深刻な事態になっている事を実感させられるほどの、衝撃的な発言をした。
「ビッ、ビルビットがどこにもいないぞ……ッ!!」
「……なっ!?」
その言葉を聞いてレイは慌てて犯人がいる方向へ向いて、犯人の情報を基準に、周囲の情報……彼が何かしか関わった情報を片っ端から探してみた。
そして。
その中にたしかにビルビットの情報があった。どうやら気を失っているようで特に目立った外傷は読み取れなかった。
そしてさらに、その情報に示されている現在座標は、ビルビットと犯人が同じ場所にいることを証明した。
レイは自分の危機能力の無さに後悔しながら手のひらに拳を叩きつけた。
「くそ! やつら最初からビルビットが狙いだったとでもいうのか!?」
今考えてみれば全ての行動に説明が付く。
本当に復讐だったならレイ達を狙う説明がつかない。
だがそれは、初めからおとりで、本命の方は注意が空間転移による攻撃中に行なわれていたとしたら説明がついてしまう。
マジックと同じテクニックだ。
見せるものを限りなく見せつけ、その陰で見られたくない物をこっそりと行う。
光が強くなると、影も濃くなるように。
意外と簡単なやり方だが、時と場合によってはこれが最大限に使えることもある。
そうたとえば、さっきの様なパニック状態の時とか。
レイは本能的にこの後どうするかを決めると、リンカを引き連れるような形で走ってアルフリッドのところまで戻った。
どうやらアルフリッドの方もレイが戻って来た事に気が付いたようで、こちらの方を向いた。
レイはあらかじめ、と言ってもさっき考えた事だが、彼女を動かす言葉をかけてやった。
「アルフリッド。ビルビットが先ほどの犯罪者に連れ去られた」
「……へ!?」
アルフリッドは驚きのあまり口を大きく開けて、口を魚のようにパクパクしてしまった。
しかしアルフリッドはすぐに思考を切り替え、レイに詰め寄て来た。
「ビルビットさんはどこに居るかわかる?」
「おおよその位置は。まあちょっとややこしい場所にあるけど」
「なら、早くビルビットさんを助けにいくわよ!!」
そう言ってアルフリッドは学校の外へと走り出した。
それを見てレイとリンカが慌ててその後ろをついて行った。
アルフリッドは走りながら、レイに質問をしてくる。
「それで! ビルビットさんはどこに居るの? できれば家の方に連絡して援軍を呼んでおこうと思うんだけど」
「ここから北北西に一キロ地点の場所だ! できればそこから半径三百メートルの包囲網を敷いてもらえるように言っておいてくれ!」
アルフリッドはズボンのポケットから掌に納まるぐらいの大きさの水晶を取り出して、そこの魔力で生成された電気エネルギーを注入して、家の使用人に連絡をした。
この水晶には、特殊な加工が施されており、電気の周波数と高さを調整することによって特定の水晶に繋げるものだ。
が、この水晶は高価なもので、騎士団や貴族などのお偉いさんしか持っていないそうだ。
レイは走りながらアルフリッドが持っている水晶の情報を観ながら、もう少し工夫したら普通の人でも使えるぐらいの物にはなりそうだなと思った。
*
そして街を走り駆けること数分後。
レイの観ていた情報と同じ座標の場所まで来ることだ出来た。
のだが……。
「ここ、公園だよな……?」
「そうね……」
芝生が生い茂ったごくごく普通の公園だった。
普通に子供たちが芝生で走り待っているだけの風景しかレイたちの目には映っていなかった。
どこからどう見ても、特に怪しいものは一切見当たらなかった。
「あんた……ホントにココであってるの? 嘘や間違いだったら承知しないわよ……?」
「わかってるからまずはその火の玉をなおせ!!」
といっても、座標はココを表してるので間違いではないはずだ。これはレイの目が証明している。
では、どうしてそこには居ないのか?
そんな思考をレイ達一行は考えていると、ふとあることに気が付いた。
「そういえば、どうしてこの公園で遊んでいる子供たちは、真ん中の方で遊ばないんだ?」
この公園で遊んでいる子供たちは、追いかけっこをしているようだが、何故か真ん中を通ろうとはしない。真ん中を通るコースでも、ある一定のところで曲がって別の方向へと走っていった。
そうそれはまるで、見えない何かによってそこだけは通れないようにしているような……?
「(いやまて、俺の観た情報は決して狂う事は無い、つまりは俺の目を欺くことは不可能ってことだ。だがもし、見えている物を誤魔化す事ができるとするならば……ッ!!」
レイは何もない、だか確かに存在する何かに向かって歩いていく。
一瞬、ほんの一瞬、無意識にコースをずらしてしまう所だったが、意識を集中させることによって、すぐに修正できた。
そして、レイが空間に触れた瞬間、
その空間が元の姿へと戻った。
その中から、半径一メートルの大きな穴が見えた。
これが、レイが能力を失った代償として手に入れた、異能を打ち消すための力。だがそれしかない。
本来無い物がそこに存在する場合、その物体または物を全て問答無用に元に戻す力だ。
この力は、レイが意図的に発生させたものでもなければ、ましては他人がやった物でもない。
たまたま偶然的にできてしまった物だとレイはそう解釈している。
レイは穴をのぞき込んで、目を凝らしてこの先にビルビットがいることを確認した。
するとアルフリッドが不思議そうな顔をして、先ほどの力について説明を求めて来た。
「ねえあんた。さっきのは一体……?」
「分かんねえ。俺も説明してほしいぐらいだ。それよりアルフレッド、この先に敵が待ち構えているからソレの対策を頼む」
「魔術を消す力といい、情報を観る目といい、いったいアンタは何なのよ……?」
「ごくごく普通の生活を望むごく普通の学生だ。それ以外の何物でもない」
少なくともレイはそう思っている。
これ以上聞くのは時間の無駄だと判断したアルフリッドはこっそりとため息をつくと、穴に向かって手を伸ばした。
「確かこのあたりは昔使われていた下水道が残っていたそうね。なら火を使うのは危険ね」
「その知識に間違えは無いけど、どうやらその心配は無さそうだぜ。観た感じガス類は見られないから大丈夫だ。ビルビットを巻き込まない程度に思いっきりやってもいいぜ」
それが意図的に起こっているのか、それとも偶然かはレイには分からなかったが、この際どうでもよかった。
ビルビットを助ける事だけに今は意識を集中することにした。
「敵の装備は、魔術を行使するための……なんだっけ?」
「『霊装』よ。それだけ?」
「ああ、それ以外は気にしなくても大丈夫そうだ。問題は学校を襲ってきたテロリストの方だな……」
彼が使っていた魔術は『空間転移』で、色んな物を飛ばしてくる厄介な相手だ。
レイが触れたらどうにかなりそうだが、そこまでたどり着く前にやられてしまうだろう。いくら魔術を防げても、物理法則は無視できないからだ。
レイはほんの少しだけ考えると、リンカの方を向いてちょいちょいっと手招きした。
リンカは少し不思議そうな顔をしながらレイの顔の近くに自分の顔を近づけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レイはアルフリッドに聞こえないようにリンカにこっそりと作戦内容を伝えた。
リンカは最初、難しそうな顔をしていたが、ビルビットを救うためなら、自分もできることを最大限しようと気持ちがあってか、無事承諾を得ることができた。
「よし、こっちの準備は整ったし、アイツらがこの場にとどまっている時間もそうなだろうし、さっさとビルビットを助け出して、いつもの生活に戻ろうぜ」
その言葉が合図となって、アルフリッドは自身の手に意識を集中させ、魔術を発動するための詠唱に入った。
「Fire is one of the four elements Shi to make a world. In accordance with guidance my, whether awake its power now!!(世界を作りし四つの元素の一つである炎よ。我が導きに従い、今その力を覚醒せよ!!)」
今までを通して、この作品に対して意見等があれば、何かコメントをしてもらえると幸いです。
良い所でも悪い所でも何でもいいのでお願いします!




