1-11 『必要なのは、男友達』
「まったく、なんで勝手に人のベットの中に忍び込むかな? 挙句の果てに、俺は何もしていないのに殴ってくるし。あれか? どこぞの誰かによる陰謀か……?」
「だから先程からはすまなかったと言っておるだろ。それに私自身もよくわからないのだ。確かに昨日は自分のベットで寝ていた……はずだ」
「おいちょっと待て。今の一瞬の間は一体何? え、マジ? お前そんなやt」
「だから知らないと言っておるだろ……ッ!!」
午前八時前、この世界の標準語『ロイクラ語』で言うと『アシのシラハユキ』と言ったところだ。
レイとリンカはカタスト家の食堂で朝食を頂いて、今は馬車に乗っている所だ。
さて、まずはこの一週間の出来事を話しておこう。と言っても、そこまですごい事は無かったが。
この一週間何もしていないという訳ではない。
レイは初日にもらった資料やビルビットが貸してくれた、この世界の古代語を覚える本を何冊か借りてそれを仕様とは全く逆の方法で『ロイクラ語』を覚えていた。
さらにそれを日本語に変換し、英語がわからないリンカに教えないといけなかったので、苦労が倍になってしまった。
だが、リンカはそれなりに物覚えがそこそこよく、この一週間で簡単な、今で言う世界基準では小学生辺りのレベルになっていた。
ちなみにレイはある程度分かるようになっていた。まだ解っていないのは地方の方言と、昔には無かった概念の言葉ぐらいだ。
また、空いた時間を使ってこの世界の常識程度の法律も一応覚えておいた。
その過程で、この世界の概念というか、世界の総意とやらを教えてもらったが、どうやらレイが考えていた以上に酷い物だった。
レイはリンカを丸く収めて、馬車の窓枠に右腕で頬付きをしながら外の街並みの風景を見つめる。
この時間帯は仕事や学校に行く人が多く見られる。
女子同士で話しながら歩く者、カフェらしきところで本を読みながら飲み物を飲む者。
そしてレイと同じぐらいの年頃の女の子に、まるで犬のように首輪と絹布一枚を着させて引っ張る裕福そうな男性。
まるで奴隷を引き連れているような光景を、誰一人として異議を唱えようと、いや、そもそもそのような光景がごく普通の日常のようにも見える。中にはその少女を見てあざ笑っているような人までいる。
「……ッ!!」
少女が苦しそうで、今にも泣きそうな顔をしているのを見て、レイは思わず、少女に首輪をつけて引き連れている男性を全力でぶん殴ろうとしてドアノブに右手をかけた所で、ビルビットにその手を握られた。
「レイ、わかっているでしょ?」
レイは一瞬ビルビットを睨んでしまったが、ビルビットに悪意がある訳では無い事を思い出し、強く歯を噛みしめながら、ゆっくりと右手を膝に置いた。
リンカも、どこか苦しそうな、目を逸らせてしまいそうだった。
これが、レイがこの世界で生きていくために選んだ選択。
自身の保証と対価にしてしまった、救えるのに救えない存在。
手が届くに、救えるのに救えないこの罪悪感に、レイは手から血が滲むほど強く握りしめていた。
そして、レイは考えてしまう。
果たして、今このように、幸せに生活して、救える者を救えないなんて、自分らしいのか?
果たして、本当にこの選択で良かったのか?
「(確かに俺は、この世界で生きていくと決めた。けどこの世界は、限りなく俺たちにとって理不尽で、無条理で、地獄のような所だ。だからこそ、俺は本当にこの世界で生きて何がしたい? この世界に、俺はどう立ち向かっていけばいい?)」
自分自身か、見知らぬ他人を救う事か。
百人に聞いたらおそらく百人は自分自身だと言うだろう。それは今も昔も変わらない。
けど、だけど、そんな事は世間が決めたことで、自分自身そうしないといけないなんて誰も言ってないし、誰も決めっていない。
もちろんそれは、法律とかに触れなければ問題ではないという幼稚な考えのもとで言っているのではない。
けど、人を救うのにルールも常識も理屈も法律も関係あるのか?
答えは否。
だが、けど……ッ!!
今は、まだ未熟な間はどうしようもできない。
下手したら今までより酷い結果が待っているのかもしれない。
それは最悪の結果だ。
だからこそ、今は知識を蓄えないといけない。
それらを踏まえて、今日から行く所に答えを見つけれたらいいなと思うレイであった。
*
カタスト宅から馬車で十分移動した所に、目的の場所はある。
改めて言っておくが、レイはまだ十六歳で、本来なら勉学に励んでいないといけない時期なのだ。それはどうやら今でも同じようだ。
てなわけで、今日からレイとリンカはビルビットが通っている学校に通うことになった。
これはレーフストリ直々の誘いで、この世界で生きていく以上、勉学は欠かせないと言われたのと、あとレイ自身が学校という所に行ってみたいというのがあったのだ。
『魔術都市』は魔術の開発の最先端。街全体が魔法師育成機関のようなものだ。ゆえに『魔術都市』には数多くの学校が存在する。
が、レイはもう魔法――能力の使用は物理的にほぼ不可能な状態になっている。一応、切り取った脳の一部が、わずかながら自然再生を発動しているようなので、時間が立てば元に戻るだろうが、あまり現実的ではない。
リンカも同じで、下手に正体不明の力を発動されたらどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
結果、レイとリンカは魔法が使えないので、低ランクの学校に行くことになったのだ。
幸い、この街が魔術の研究都市という事で、魔法師のレベルはピラミッド構造なのだ。
つまり必然的に低レベルの学校が多い、という事になる。
おかげでビルビットと同じ学校、さらに同じクラスになって通うことができるようになったのだ。まあこれも、レーフストリが融通を利かせてくれたおかげでもあったりする。
学校は三階建てのおしゃれな赤レンガ造りで、内装は木の板の床と白い壁といったシンプルな造りになっていた。どこかカタスト宅に似ているような気もしたが、さすがに高級さや質の良さはカタスト宅の方が良かったが。
仕組みとしては、四-四-五-四の四期制度で、この学校は唯一の五年制の二学年に相当する。
クラス数もそれなりにあり、一クラス四十人、一学年七クラスで計三十五クラス。人数にすると軽く千人はこえるマンモス学校だ。
ビルビット曰く、『この学校は何かと交通の便がいいので、毎年多くの人数が入学してくるの』だそうだ。
クラス人数が多いのはレイにとっては幸いでもあった。
ずばり、男子の友達を作るきっかけを作ることができるからだ!!
よくよく考えたら、レイはまだ男性と全然話していない。いや、レーフストリとは何度か話しているがあれはノーカンだ。あんなおっさん(三十八歳)とは話しても何も面白くない!!
てなわけで、学生といえば青春。青春とは友達とてんやわんやする事。
つまり!
青春を謳歌するにまず必要な物は、これ以上の女性キャラとのキャッキャウフフの友好関係ではなく、男同士の熱き友情である!
まあ結論から言わせてもらうと、これについては成功したと言ってもいいだろう。
だが、個性過ぎるキャラもどうかと思ったが。
「んでんで? リンカちゃんとはどんな関係やの? まさかもう付き合っていましたーてなことはあるのでは!!」
「いやいやキニヤル。それを言うならビルビットちゃんとの関係でしょ。たしかにあの子はリンカちゃんより胸があるからマイナスポイントだが、それをもってしてもあの美しさは天下逸品だぜ」
「いやいやいやシーフール。それだったら―――」
最初に話したのだがキニヤル・ロービクン。赤い髪が特徴な奴だ。赤髪は今の時代さほど目づらしくはないが、この学校ではキニヤルだけなので良く目立つ。
その後に話したのがシーフード……ではなくシーフール。こちらは青い髪をワックスの様なものでツンツン頭にしているのが特徴だ。シーフール曰く、『このぐらい個性がないと、女子が話しかけてこないんだぜ!』と訳の分からないことを言っていた。
時代がたつと好みも変わるというが、昔は胸が大きいほどが男子的には好みの奴が多かったのだが、今ではもう真逆だ。
もっとまともな奴と友達になった方がいいとみんなは言うだろうがレイはそう思わない。
こんな奴らだが、こう少し変わった奴とこうギャアギャア騒いでいる所に居るだけで、レイはもう十分だった。
「いやだから―――」
「あのなお前―――」
「ええい! お前らいい加減にしろ! 別に俺はあいつらとはそこまで特別な関係じゃないぞ!」
そろそろ彼らの言い合いにも付き合いきれなくなってきたから思わずツッコミを入れてみた。
これでレイが別の話題を吹っかけて話を逸らしてこの事とはもうおさらばだ。
の、はずが。
キニヤルとシーフールは同時にこちらを見ると、レイの服の襟元を片方ずつ掴んで、
「「うっさい! 女子と絡んでいるだけでもう十分に特別だよ!!」」
「もうお前らの好きにしろ!」
レイは呆れた顔をしながら、教室から外のグラウンドを見つめる。
するとそこには二つのグループが対峙していた。
一つは赤い制服を着た三人のうちの学校の人たち。
もう片方は純白の制服を身にまとった、おそらく他校の生徒が複数、それも三人よりも多い四人だ。
どうやら揉めているようにも見受けられた。
「おいお前ら。あれは一体……」
すると、先ほどまで言い争っていたキニヤルとシーフールがグラウンドの方に目をやった。
シーフールはそれを見て、何やらめんどくさそうな顔をし、頭をかきながら、
「あー。まーた今日も来たか」
「まったく。毎度あきひんなぁ、あいつら」
「いやだからなんだよ。あれ」
するとキニエルは自分の机に腰を下ろし、鉄製の水筒を取り出して水を飲んだ。
「レイはまだこの街の事は知らないと思うけど、この街にはランク戦って物があるんだ。で、今はその最中だな。しかもポイント制。そのおかげでうちらみたいな弱い奴らから徹底的にポイントをもぎ取っていくんや」
「勝ち負けのポイントってどのくらいだ?」
「複数のランクに分かれて入れ、低ランクのやつが高ランクのやつに負けてもさほどポイントはとられないんや。またその逆も存在するんやが、低ランクのやつにとってはただのいい迷惑や。もはやサンドバックとかわらへん。さらにこのポイント、このまま自分の総合得点に加算されてしまう。しかもこの街限定の生徒手帳に点数が自動で反映されていくから偽造もできひん」
「なるほど、ね。つまり弱いものイジメか」
レイは腕を組んで何か考えて、そして三秒ぐらいした後にいきなり立ち上がって窓から飛び降りた。
「お、おい!」
シーフールが呆気に囚われてワンテンポ遅れたが、慌てて窓際まで駆け寄って下を見た。
レイの居た教室は二階だったので、体をうまく使えばどうにかなる高さだった。
レイは膝をうまい事曲げて着地し、そのまま彼が戦っている……いや今ちょうど勝負がついたところに歩いて行った。
「ん? 何だお前。こいつらの仲間か?」
他校の生徒の一人が、レイが近づいてきていたことに気が付き、ポイントを稼いで満足している所を水をさされて若干苛立ちを感じながらレイに近づいて行った。
それに伴って他の三人をレイを囲むように近づく。
「お前も俺たちからポイントがそんなに欲しいのか? なら、やってみろよ。俺たちに勝てればの話だがな」
他校の生徒は揃って大声で笑いだした。
が、レイは相変わらず表情を変えず、こう問いかけた。
「お前らは、ポイントが欲しくてこうやって弱い奴で稼いでいるのか?」
「ああ、そうだ。強い物が絶対。お前たちみたいなゴミは俺たちのポイントにでもなっておけばいいんだよ」
するとレイはまるでその言葉を待っていたかのように、ニヤリと笑うと、思いがけない言葉を発した。
「なら、俺が勝ったらお前らのポイントすべて貰ってもいいよな?」
「はっ! お前正気か? 俺たち最高ランク四人に最低ランク一人で挑むっているのか? おいおいお前頭大丈夫か?」
次第に集まって来たギャラリーに対してさらけ出そうとしている所を、さらにレイは深く突く。
「そいういお前らも、俺みたいなやつに負けるのが怖いだけなんじゃないのか?」
「てめぇ! ふざけているんじゃねぇぞ!」
そう言って他校の生徒は杖の様なもの取り出した。
レイは深くため息をついて、ポケットに入っていた唯一の財産、日本円の百円玉を取り出し、指ではじいた。
そしてレイは最後にこう言った。
「悪いが、今俺はちょっと起こり気味だから手抜きはしないぞ」
そして、宙を舞ったコインが地面に落ちた。
直後、レイを含めた計五人が地面を蹴った……はずだった。
そして直後、勝敗が決した。
他校の生徒が放った炎の弾が、全てレイの真横を逸れてゆき、レイを挟んで真反対に居た仲間に全弾的中した。
幸い、炎の弾が服を燃やす事は無かったが、威力は相当あったようで、当たっただけで軽く四メートル吹き飛ばされ、着地地点に赤い水溜まりを残して、そのまま二度と立ち上がらなかった。
「な――」
他校の生徒の背中には全て銀色の弓矢の様なものが、心臓を刺していた。
もちろんレイがしたものではない。というか、ここの学校の生徒がしたものではない。
第三者による狙撃で全て即死コース。しかも四方向から同時攻撃。
考えれるとすればただ一つ……
「(複数の場所に物質を空間転移させたのか!? だとすればまずい!!)」
空間転移だという事をすぐに分かったのは、レイが能力発動の予兆を見ていたからそういった結論が出せたのだ。
レイはかつて軍に居た時に空間転移のいやらしさは嫌というほど思い知らされている。
だからこそ、この突発的な事態に速攻で対応できた。
レイは慌てて力の限り大声で叫んだ。
「お前ら物陰に逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
直後、複数の銀矢がレイの付近に突然と現れた。
全方位を囲むように現れた銀矢からの完全な逃げ場が無い。
それにレイは能力が使えないので防ぐ術もない。
「しまっ――!?」
が、その銀矢はレイに当たる前にすべて炎に飲み込まれた。
軽く四千度の炎がすべてを塵を残さないで消し去ってしまった。
レイは炎の出何所の方へゆっくりと向く。
そこに居たのは、炎のように赤く伸びた髪を腰の辺りまで伸ばし、同じく赤い瞳をもった少女だった。
その少女は、その名を全世界でもとどろかせるかの如く、大声でこう叫んだ。
「我が名は、カタスト家次期当主、アルフリッド・シーレ・カタスト! 安心しろ、私が来たからにはもう誰も死なせない!」
まさしく、本当のイレギュラーが存在した。
テスト期間中で投稿ペースを優先したため、ストーリーの展開がハイペースとなってしまいました。
この話は後で書き直しする可能性がありますのでご了承下さい。




