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Eternal Illusion  作者: 七塚 蓮
第一章 新時代到来
12/17

行間 『かつてあったとある日常』

「おーい零。何のんきに寝ているんだっと」

「ぎゃあああああああああああああああああ!? あ、暑い? 夏だけどさらに暑くなってる!?」


 夏の暑さよりさらに暑い何かをぶっかけられてしまい、俺は思わずそう叫びながら起き上った。

 青い空と地面と青臭いに匂いが夏を感じさせる。

 思い出したようにここは、千葉県船橋市にあるとある家の庭だという事を思い出した。

 

「お、やっと起きた。といってもたったの十秒ほどだけどな」

「ちょ、なっ、何さらっと熱湯をかけてるんですか?」


 わざわざ起こすために熱湯を使うバカがいるか! と口には出さずに心の中でそう思いながら、俺は武術の先生(仮)である敷野昴(しきのすばる)を見つめがらそう愚痴った。

 歳は俺より三歳上の十九歳で、身長は日本人の平均的な高さの百七十センチぐらい、黄色く染めた髪の毛をバンダナを使ってかき上げていた。しかもワックスで髪の毛を固めている。

 第三者から見るとチャラい奴だなと思うだろうが、実はこう見えて体術のスペシャリストだったりする。

 人は見た目に寄らないとはまさしくこの事だなと俺は初めて会った時にそう思っていた。

 

「おいおい、いきなり家に来て『体術を教えてほしい』って言ったのはどこのどいつだったっけ?」

「すみません……」


 俺はそう言って立ち上がって頭を下げた。

 確かに体術を教えてほしいと言ってのは俺で、その挙句とことんやられて気絶してしまったのも俺だ。悪いのはすべて俺だ。

 だが昂さんは何だか申し訳なさそうな顔をしながら、歯切れが悪そうにこう言った。


「まあ、あんな事を経験してしまったら、そりゃ他に守る術が無理やりでも必要に思えてしまうからな。お前の気持ちはよくわかるよ。というか、あのお嬢ちゃんは少し焦りすぎなんじゃないか?」

「どうでしょうね……。けど俺はよくわかるような気がするんです。なんとなく、守る方法は一つじゃないんだって、言っているような気がするんですよね」

「あのお嬢ちゃんがそこまで頭を働かせているかね……」


 そう言って昂さんと俺は苦笑いをした。

 あんな事とは、シュミレーションの一環として行われた、『能力暴走状態への対処方法』の訓練だ。

 主にすることはただ一つ、危険域ぎりぎりまで意図的に能力を暴走させる……といった極めて危険な訓練だ。

 脳に複数の刺激を与えることである程度暴走状態にできるが、これには能力者への負担が計り知れない。

 何故このような訓練をするのかというと、理由は極めて単純、能力に頼り過ぎている奴が必ずいるからだ。

 で、二日前にその訓練を無理やりやらされた訳なのだが、後の事を思い出すのが辛いほどの地獄だった。その辺りはご想像にお任せする。

 一つ言えるのが、その訓練には必ず後遺症が残るのだ。

 そのおかけで、今でも頭痛がして上手く能力が発動しない。

 もちろん体術の訓練という事で、練習時には能力を使用していないが、先ほどの気絶の様な時は能力を使うつもり……だったはずなのだが、上手く発動しなかったのだ。

 昂さんもその所を気づかいしてくれてか、俺の背中をポンポンと叩くと、


「んまあ、この前の訓練の疲れも残っているだろうし、今日はここまでにするか。さっさとシャワー浴びてこい」

「……はい、ありがとうございました」


 俺は昂さんに一礼して、近くに置いてあった水の入ったペットボトルとタオルを取り、水を飲んで汗を拭く。

 昂さんも置いてあったタオルを首に巻いて水を飲んでいる。

 すると昂さんが思い出したように「そういえば……」と言って、


「今日はお前さんの妹の……靜美(しずみ)ちゃんの退院日だったよね。この後迎えに行くのかい?」

「ええ。一応その予定でしたし……。最近顔を出していなかったので、後で怒られるのかもしれませんけどね」


 しばし沈黙が走る。

 そして、


「昂さん。俺がしたことって正しかったのでしょうか……? 家族でも血の繋がりがあるわけでもないのに、家族と嘘ついて靜美の側にいて」


 そう、俺と靜美は血の繋がった兄弟ではない。

 元々靜美は赤の他人で、俺は敵だった。

 けど、最終的に倒してハッピーエンドになるはずだった。

 が、

 突如靜美の能力が暴走し、最終的に記憶喪失してしまったのだ。

 その原因は、俺が発動した『複射超音波能力』という、複数の組み合わせの音を同時に当てることで、相手を無力化する能力だった。

 先の説明にもあったように、能力が暴走する主な原因は『同時に複数の音波を脳に当てる』事だ。

 もちろん個人差があるのだが、必要最低限のラインが存在する。

 その辺りは調節して能力を発動したのだが、何故か靜美は暴走してしまった。

 そのことに罪悪感を感じた俺は、靜美を受け取る事にしたのだ。

 他人ではなく、家族として。

 初めて靜美の病室に行った時に、靜美が俺の事を家族の者だと認識したから……というのもあるのだが。

 けどその判断が正しかったかどうかは、一年以上経つのに未だに分からない。

 靜美だって、時間がたてば気が付くだろうし、何か突発的なアクシデントが発生が発生しないとも限らない。

 ああ、もしかすると俺は靜美に今までのことが嘘だと分かられるのが怖いのかもしれない。

昴さんは俺の頭に、ペットボトルに入っていた水をかけでくれながら、俺に問いかけてきた。


「零はどう思う? 零はその時後悔をしていたか?」

「……いえ。その時は靜美をこのままにして置けないって気持ちで一杯でした」


すると昴さんは、笑ってこう言うのであった。


「なら、零はその意思を貫けば良い。お前のことだから、『靜美に嘘だとバレたらどうしようー』とか思っているのかもしれんが、その時はその時だ。正直に答えてやればいい。後のことなんてそこまで考えなくてもいいんだよ。いまを生きるならいまを楽しめ。いつ終わっても、終わされてしまっても後悔を残さなければいいんだよ。特に俺たちみたいな、いつ死んでもおかしくないようなヤツはな」



あの後俺は、昴さんの家のシャワーを借りて汗を流し、外で昼ご飯をおごってもらった後、東京にある病院に入院している靜美を迎えに行くために、電車に乗った。

昔と違って電車は無人操作……ではなく、昔のままで有人である。

コンピューター系が大抵使えない今、人の力でどうにかするしかないのだ。

今は夏休みが始まるぐらいなので、制服を着ている学生が多く見られる。

俺も15歳なので、学校に行こうと思えば行ける年だが、身分上、それができないのだ。

厳密には、国内最高度のシークレットクラス、世界最強の能力者『殲滅犯』、黒崎零(くろさきれい)としての身分が。

元の話をすると話が長くなるので、今は詳しく話さないでおくが、ただ一つ言えることが、俺には学校に行く資格も理由も意味もない。

もちろん俺自身もそのことは理解しており、無理やり行きたいというわけでもないが、せっかくなら、学校生活をしてみたいとは思ったことある。

ちなみに、これは余談だが、今は人工知能たちとの戦争は、一時的に休戦状態になっている。

理由は、両者とも資源の消費が激しいため、その補給期間といったところだ。

日本もその戦火を免れていないのだが、それはあくまでごく一部の地域で、東京や大阪、主に関東から関西までの地域は比較的安全とされている。

今度俺が配属される沖縄本島は、日本の中でも最前線とも言われている激選区に値する。

自衛隊が最前線を抑えているおかげで、安全地帯では、戦時中とは思えないほど平和な日々を送っているようだ。

電車の扉の上に設置されている画面には、戦果報告と、それに対する専門家の意見などなど……と、戦争についてのことがよく乗っている。

先ほどまで喋っていた学生たちも、ちらりと画面を見て、どうでもいい話から戦争についての話に変わっていった。

もし、俺もこの安全地帯で人生を過ごすことができたら、いったいなにしていたんだろうな……とそんなことを思いながら、静かに街の風景を眺めていた。



昴さんの家から大体40分かけて神奈川県横須賀市にあるとある総合病院へついた。

この病院は、一見どこにでもあるただの病院だが、実はここ、軍事病院でもある。

もちろんそのことは軍事秘密で、主に軍の重要参考人や重要人物が怪我、または病気になった時のための場所だ。

軍事病院なら軍の施設として扱えればよかったのだが、それだと重点的に軍事病院が狙われてしまうので、木を隠すなら森の中精神で、このように偽装しているのだ。

そんな訳あり病院の待合室で、病室から靜美が出てくるのを待っていると、俺の後ろにある病院の入り口から見知った顔が現れた。

茶色い瞳に同じく茶色い毛を肩の高さぐらいまで伸ばし、美少女という名が似合うその少女を見て、俺は少し呆れた。

その少女は俺がいることに気がついて、早歩きで俺の前に来ると、


「おはよう零。元気だった?」

「おはよう凛彁(りんか)。てか昨日会ったばっかりだろ……。それよりお前、今日会議だろ? なんでこんなところで油売ってるんだよ……」


すると凛彁は俺の肩に手を置いて、親指を立ててこう言ったのだ。


「サボってきた」

「よし、せっかく病院にいるのだから、ここで頭のネジを直してもらおうか……ッ!!」

「じょ、冗談冗談。ちゃんと代理を出したから問題ないって。というか、そもそもの問題、こっちの方が会議よりも重要だし」

「……まあ、それならいいけど」


思わず俺は歯切れの悪そうな感じでぼそりと呟いた。

そしてしばしの沈黙。

実は俺と凛彁は話題力が決定的かつ致命的に欠けているのだ。よって、このように二人だけで話すと沈黙が続くことが多いのだ。

いつもは、この後俺がなんとか話そうとするのだが、今日は珍しく凛彁から話を続けた。


「この前は、本当にごめんなさい。いくら訓練でもさすがにちょっとやりすぎたわ……」


訓練というのが『能力暴走状態への対処方法』の事だということはすぐに理解できた。


「まあ、確かにあれはやりすぎた感じはしたけど、お前だって俺に守る方法は一つじゃないってことを教えたかったんだろ? つまり俺のことを思ってしたことだから、謝る必要もないぜ」


確かにあの訓練は辛かったが、そのおかげで、今自分がすべきことがはっきりした。言い過ぎかもしれないが、俺にとって凛彁は人生の道標なのだ。かつて戦地を一人彷徨い、たった一人で戦ってきた俺に、居場所をくれ、仲間ができたように。

凛彁は一見アホだが、頭が働くときはとことん働く。こう見えて、とある部隊の隊長を任されたりするほどに、だ。

そんな凛彁に感心していると、今更ながら、凛彁がなぜかキョトンとした顔になっているのに気がついた。


「……まさかお前、なにも考え

「ちっちっちっ違うわよ?! あーえと、その、ほら! 私がなにも言わなくてもちゃんと理解してくれる優秀な部下を持って鼻が高いなーって。そうそれ!」


なんだかもう苦し紛れに言っているので、嘘だということは一目瞭然だったが、そこはツッコまなかった。

しかしながら、未だに言い訳をしていた凛彁が、俺を見て……厳密にはその奥にある通路を見て、慌ててこう言った。


「ほっ、ほら。靜美ちゃん来たよ? 迎えにいこ?」

「あーはいはい、言い訳なら後でいくらでも聞いてやるよ」


そう言って俺たちは、靜美の方に歩いて行った。





これは、確かにあった、ほんの少しの幸せの物語。

だが、その記憶はもう、彼は覚えていない。

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