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Eternal Illusion  作者: 七塚 蓮
第一章 新時代到来
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1-9 『七族』

 家、というより屋敷の内装は、レイの予想どおり……ではなく、シンプルなもので、床は黄色いカーペットで、壁は真っ白な漆喰の様なもので塗られており、部屋には等間隔に並んでいるランプと机、後は棚ぐらいしか装飾は無かった。

 緑色の礼服(ただしネクタイは無い)を着た十代後半の金髪美青年執事に案内されたのはこの屋敷で一、二番ぐらい大きいであろう(この屋敷に入った時点でレイはこの屋敷の構造の情報を全て観ていた(・・・・))屋敷の主の部屋に通された。ちなみにリンカはもう起きている。屋敷に入る前に、執事がレイの変わりおんぶしましょうかと親切すぎるセリフを言われてしまったので、これはちゃんとしないとなと思ったので、無理やり起こした。


「初めまして。私の名はレーフストリ・クローズ・カタスト。魔術都市、『第三聖区』を統括する『七族』の一つ、カタスト家の現当主……と言ってもご存じないですか」

「いえ、『七族』の話は既にビルビットから聞いています。確かこの街の中の重鎮だとお聞きしています」


 この家の主にして魔術都市の一角を担う『七族』の一つ、カタスト家の現当主であるレーフストリ・クローズ・カタストは豪華なソファーに腰かけて、優雅にワイングラスを片手に持ちながら待っていた。

 歳は三十代後半から四十代前半で、体形はレイと似たような感じで中肉中体、赤い髪に赤い瞳と顎に生えているちょび髭かとても目立つ。服装は白いウプランドと部屋着だったので、レイは少し違和感を感じたが、この時代ではそれが主流なのかなとあまりツッコまないでおこうと思った。

 

「レイ・ギルティです。こっちが従妹のリンカ・アルヒィドです。このたびは助けていただき、ありがとうございます」


 形式上でも、多少の礼儀は必要だと思ったレイは、若干抵抗があったが、敬語を使って礼を言っておいた。ちなみに礼や握手は避けておいた。この世界の流儀が解らない以上、下手に行動するのは、逆に相手に不信感を与える可能性があるからだ。

 そして、レイは英語で話しており、それをビルビットが翻訳しているので、相手にどう伝わっているかは、知る由もなかったのだが。

 しかしレーフストリの反応を見た感じ、無礼な事は言っていないようだ。


「いやいや、君たち古代種を保護し、この時代でも生きていけるように手助けするのが聖王から私に与えられた使命なのでね。それに、私個人的にも君たちみたいな者に興味があるからね」


 レーフストリは笑顔で話しながら、時々、片手に持ったワインを飲んで口を潤していた。

 ちなみにレイたちには何も出ていない。これが昔の時代だったら内心腹が立っていたかもしれないが、この世界ではそれが常識なのかもしれない。と、判り切っていてもやはり飲み物は欲しいものだ。かといって、人の家でそんなわがままを言ったら迷惑だろうしな……とレイはそんな事を考えていると、レーフストリの隣に立っていた執事がレイの側まで寄って来て腰を少し折ると、「何か飲み物とお菓子を用意いたしましょうか?」と通訳のビルビットを通して言ってきたので、なんだか頭の中を覗かれたような気分になりながらも、その行為に甘えておくことにした。

 執事がドアの前で一礼して部屋から出て行くと、レーフストリは話を続ける。


「さて本題に入る前に、一つ君たちに聞きたいことがある。なに、そこまで気を張ることではない。簡単な質問だ」


 レーフストリは片手に持っていた飲み干したワイングラスを目の前にあるガラステーブルに置くと、真剣な表情でレイたちを見つめた。

 おそらくここからが本番だ。

 今後の運命を理不尽なほどに決めてしまう分岐点。このような状況はレイも経験したことはあるが、やはり気を抜けられない。まるで警察に事情聴取を受けているような、心にくるずっしりとした不安感ようだ。それほどまでに神経を使う事という事でもある。

 そして本番は始まった。


「君たちは、この理不尽すぎる世界で、抗いながら過ごす事はできるか?」


 何となく、先が読めて来た。

 おそらく理不尽というのは、リーフレットがそう思っているのではなく、レイたちが理不尽だと思う出来事がこの時代では当たり前のように行われている、という事なのかもしれない。確証はないが、その口ぶりからすると、この考えが妥当だと考えるべきだろう。

 レイもそう考えたのか、確証がない以上もう少し情報を集めるべきだろうと考えて、慎重に質問していく。


「……それはつまり、裏を返せばこの世界が俺たちにとって見過ごせない何かが、この時代ではある、という事ですか?」

「言ってしまえばそうだね。私たちとっては当たり前の事が、君たちにとっては許しがたいものかもしれない。逆に君たちにとっては当たり前のことが、私たちにとっては到底理解できないものかもしれないし、時には理解をし合えない時かもしれない。君たちにとっては地獄の生活になるかもしれない。それでも、君たちはこの世界、この街で生きていく覚悟があるか?」


 確かに、リーフレットの言うとおりだ。

 アニメみたいに全てが都合よく事が進むわけではない。

 昔と何も変わらないなんて、そんな事は絶対ない。時代は常に変化し続け、生き物も、風景も、世界も、時代に沿って変わっていく。常に世界は変化を求めている。

 それをレイは、4000万年もの時間を飛ばしてしまったのだ。次第に変化していく中をゆっくりと慣れていくのではなく、いきなり変化した世界に放り込まれてしまったのだ。もう異世界と言ってしまっても過言では無い世界に。

 この世界の事をレイはまだ知らない。

 だからこそ、リーフレットの言っていることはよく理解できた。

 けど、レイの答えはもう決まっていた。

 リンカはレイについて行くと言ってくれた。

 レイはゆっくりと呼吸をしながら、明確にその意思を伝える。


「それでも、たとえこの世界が理不尽でも、俺たちはこの世界で生きていきます。たしかにこの世界は俺たちにとって良い事ずくしではないのかもしれません。けど、それがなんですか? 俺が生きている世界はここで、たとえどんなに変化していても、もう生きていけないなんてことはないと思います。だって、今ここにいるのですから」


 並行世界とか別の時間軸の世界なんて物は確かに存在するのかもしれない。けど、今は今、この世界はこの世界。見た目が変わったところで、本質的なものは何も変わらないし、変わることはない。

 レイにとって、たった一つの世界。唯一過ごす世界。

 なら、答えはもう決まっている。

 生きていく。どんなに理不尽でも、地獄でも、この世界がこの世界である限り、生きていく。

 それがレイの出した答えだった。

 リーフレットはその答えを聞いて、まるでその答えを待っていたような、息子の覚悟を聞き届けた親のようにうっすら微笑んだ。


「その意思を貫き通す覚悟はあるか?」

「はい」


 レイは間を開けずにすぐに答えた。


「わかった、君たちのその覚悟、確かに聞かせてもらったぞ」


 リーフレットはそう言って立ち上がると、リーフレットの座っていたソファーの後ろにある、自身の仕事用と思われる机の上に載っていた、厚さ二センチメートルぐらいのレポートの様な紙束を持ってきた。

 レイが生きていた時代には、紙というものは電子的な物よりも意外と重宝されていた。

 もちろん、2100年代となってくると電子器具もより小さく、より発展したものになっているので、紙というものはもはや存在しないようなものだったが、その辺りはとある敵によって電子器具がすべて使えなくなってしまったのだが、それは後のお話。


「ここには、まあこの街で過ごすためのルールや規定、あとはこの世界の常識を書き込んでおいたものだ。一通り目を通してくれたまえ」


 そう言って渡されたレポートを受け取って、およそ三百ページを見なければいけないのか……とレイはそんな事を考えていると、先ほど出て行った執事が戻って来て、レイとリンカとビルビットに飲み物とお菓子を持ってきた。

 飲み物は普通の水で、お菓子はクッキーの様な……ではなく、本物のクッキーだった。

 零が観た(・・)感じだと、昔の時代にもあった様な小麦粉でできており、特殊な物が入っている、という訳でもなさそうだ。念のために毒や異物が入っていないか確認してみたが、それも問題なさそうだ。


「ありがとうございます」


 レイは、笠間焼に似たような青色で独特の模様が書かれている小皿に乗っているクッキーを皿ごと受け取って、礼を言ったのち、クッキーを口へ運ぶ。

 サクッとした歯ごたえで、そこまで硬いという訳ではないが、歯ごたえが全くなく、ちょうどいい硬さで、噛めば噛むほど口の中で甘みが広がっていった。

 お水にはそこまでうるさくはないが、他の水とは違った感覚が口の中を潤していった。

 クッキーと水。他の種類の水やクッキーではなく、レイが味わった中でもこの組み合わせがもっとも最適かつ一番美味しかった。

 どうやらリンカも同意見のようで、先ほどから食べる手が止まる様子が無い。

 このまま俺の分まで手を出すんじゃないだろうな……とレイは少し心配になりながらも、並行して資料にも目を通していく。もちろん、食べながら読む、といったはしたない行為はとっていないが。

 資料は、親切にも英語表記だったのでさほど読むのに苦労はしなかったが、レイはこう見えて日本にいた時間が一番多かったので、英語を読むのは少し苦労した。

 この街の法律、簡単な街の略図に地域名、制度や政治の仕組み、警察や消防といった組織の簡単な説明、宗教の派閥や禁止事項、あとはこの街で過ごすための極意やタブー、などなど。主にこのレポートに書かれていた内容だ。

 そこまで難しくなく、だが解りやすく書かれていた。

 しかしなが、先ほどからどうも頭が痛い。

 勉強をした時に感じるような頭痛ではなく、どうやらここ二日間の疲れや無理が溜まっていた―――


「……ッ!?」


 いきなりその頭痛が、まるで胃液が逆流するように這い上がって来た。

 次第に、けどどんどんと体温が上がっていくように感じる。そのせいで涼しかったはずなのに、次から次へと汗が額から溢れてくる。

 頭が今にでも割れそうなぐらいの痛みまでもしてきた。

 この現象を、レイは一度だけ体験したとこがある。

 その時は訓練だったので意図的に発生した(・・・・・・・)痛みはすぐに納まったが、今は違う。

 勉強の時に頭が痛くなるのは、いつもは使っていない部分を、急に使う事によって、その部分に負荷が掛かるために起きるものだ。

 だがレイは、勉強不足でもなく、日ごろからそう言った部分が衰えないように工夫を凝らしている。

 けど、レイは二日前まで眠っていたのだ。四千万年もの間もだ。

 急な負荷、脳、演算。

 つまり、この頭痛の原因になっていたものは……


「(能力の暴走か(・・・・・・)! くそっ、このままじゃまずい……ッ!!)」


 レイが今すぐ取るべき行動はただ一つ、この場から一歩でも離れる事だ。

 そこまで思考が働く、いやもうこれは本能とか反射神経といった方かもしれないが、自然と体が行動を始める。


「……レイ? さっきから顔色悪いけど大丈夫か? 食あたりか?」

「んまあ、ちょとね。少しトイレに行ってきます」

「では、私が案内……」

「いえ、場所さえ教えてもらえば大丈夫です」


美青年執事は、仕事が出来ないことにショックしながらも、そんな事を一切感じさせないほどのポーカーフェイズで丁寧に教えてくれた。

レイは執事に礼を言うと、早足で部屋を出て行った。

直後、さらに頭痛が酷くなり、平衡感覚がおかしくなり、思わず壁にもたれかかる。


「はあはあはあ……ッ?!」


呼吸が荒い。次第に意識が遠のいていく。

そんな中レイは、最悪の事態に備えていた物を使った。

自分の脳に仕組んでいた、ある一定のアクションを起こすことによって発動する能力。この能力は脳で演算を行うのではなく、外部で演算を行い、そして補う、俗に言う『行動型能力』と呼ばれるものだ。演算ができない以上、速攻で使用するのはもはや不可能。レイは壁にもたれながらも一歩、また一歩と進みながら、両手の指を動かしていく。

演算領域を必要最低限のもの以外を物理的に脳から離す死と隣り合わせの合わせ技。

もちろん、他の能力を一切使えない以上、痛みなんて気にしてはいられない。

けど、それは覚悟の上だ。

こんな事で、世界を潰してたまるか。

レイは最後のアクションを完成させ、そして能力が発動した。

直後、あまりの激痛のせいで、一瞬で意識が電気を落とすように落ちた。

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