4-7 恋愛魔法はじめました。
万葉高校は二月の騒動とは裏腹に何事もなく卒業式を終え、そして新入生を迎えた。
その入学式、恋愛魔法棟の一階隅にある明石会の教室は緊張感に包まれてはいたが、騒がしくもあった。
「昨年度のアフロディーテ候補を次々と破り、あげくの果てに日本を代表する恋愛魔法使いの一人である高倉の美香紗を倒したのだから、きっとたくさんの入会者がいるはずよね!」
部屋の中を腕を組みながらうろうろする桐花。
新入生の恋愛魔法使いは入学式から二週間の間にどの研究会に入るか決めなければいけない。今日がその初日とあって、各会は新入生の歓迎に熱が入っている。けれど積極的な勧誘は部活動の勧誘があることで学校としては恋愛魔法使いも一般生徒も入部できる部活動のほうを優先して勧誘活動をするべきと定めているので、こうやって先輩恋愛魔法使いは、教室に新入生が来るまで妙な緊張感を味わうことになっている。来てからが勝負。網にかかった獲物は逃さない、そんな心構えで新入生を待っている。
「そうですよね、間違いありませんよ!」
座りながら大きな声で相槌を打つつくしは貧乏ゆすりが止まらない。
「男子ならちょうど人数があぶれなくていいんだけれど。イチャイチャを毎日見せつけられるのは正直耐えられない」
常陸は文庫本を読みながら棒読みで言う。
「イチャイチャなんてしてないでしょ!」
桐花のツッコミの声と同時に勢いよく扉が開く。もしかして入会希望者かと三人の目は扉に向けられた……が、桐花のため息とともにみんな視線を元に戻す。
「明石さんなんですかその顔? 重大な報告があるんですよ!」
高倉は声を弾ませて勢いよくつくしの隣に座った。なんだか機嫌がよさそうなのでつくしは声をかけてみた。
「どうしたんだ美香紗。すごく上機嫌じゃないか」
「うっさい。隣に座ったのは座るところがここしかなかったのよ。てかつくしには関係ないでしょ」
「へいへい」
あきれたようにつくしが返答すると、桐花は自分の話だろうと感じ、常陸の隣、つくしの前に座った。
「どうしたの、美香紗ちゃん。あたしのこと?」
「そうですよ! この間明石会のみんなが推測していたことの実証データが出ました」
明石会の推測とは桐花の魔力制御が極端に良くなったことについてだ。
高倉との戦闘、つくしの暴走、あの時以外、桐花は魔力制御をうまくできないでいた。どうすれば制御ができるようになるのか、その答えを導くために明石会と高倉は考え、結論は桐花の能力にあると出た。
桐花の魔力制御は段階をおいて良くなっていった。一回目はつくしにが桐花から魔力をもらってから。二回目はつくしが高倉に能力をもらってからだった。
つくしの能力があがれば桐花の魔力制御が上がる。その原因は思い合っているからなんてロマンチックなものではなく、桐花が魔力を与えた相手の魔力制御能力を共有できるというものだろうと考えた。桐花がつくしに魔力を与えた時は、つくしの元からある魔力制御能力を共有し、つくしが桐花と高倉の魔力をもらった時は、つくしよりも魔力制御に優れた高倉の能力を共有できたというわけだ。
この能力は今まで前例がなく、高倉の要望で桐花は恋愛魔法教会に行って、その能力のデータをとることにした。
「その結果なんですけど、間違いありませんでした。明石さんは魔力を与えた人の魔力制御能力を共有します。それは相手の制御能力が明石さんよりも上だとか下だとかは関係ありませんでした」
「まあ、桐花より魔力制御が下手な人なんていないだろうけれど」
常陸が毒づくも、つくしと高倉もうなずくので、桐花は文句を押し殺す。
「ところで美香紗の会には新入生はきた?」
「ええ。相手するのも面倒だから申請書を入れる箱だけ置いてきたわ」
桐花はダンと強く両手を丸めて机をたたいた。
「どうしてこっちには来ないのよ!」
「まあまあ、落ち着いてください。美香紗は日本代表というネームバリューもありますし」
「明石さんの元に会員差し上げますよ。多すぎても面倒見れませんし、明石さんならきっといいようにしてくれると思います」
「い、ら、な、い。あんたの手垢がついた奴なんて願い下げよ」
桐花に吼えられシュンと俯く高倉につくしは肩を優しくたたいた。
「あっ」
つい言葉に出てしまった風に常陸は手に持つケータイを見て口元を抑えた。明らかにわざとらしいけれど、桐花はどうしたのと問いかける。
「ウズマサンの会が入会者十人突破したって」
「はあ? なんでよ!」
桐花は駄々をこねご飯を待つ子供のように机を叩いた。
「それは三年生では明石さんを次いでの実力者ですし、それに竜田さんの打ち出した新制度も好感度が高いからでしょうね」
竜田の新制度とは、一定以上の恋愛魔法の知識を有する一般生徒を、三年棟の空き教室を太秦会の恋愛魔法使いとの共同勉強会室として参加することを許可する制度だ。
これによって恋愛魔法について知りたい一般生徒が恋愛魔法使いと共に勉強することで刺激を互いに受け合い、そして恋愛魔法使いのことをより知る機会が増えるとし、学校側はすぐに許可を出した。
「へっ。新制度ってなによ。あんなの大津さんをパンダにして会員集めたいだけじゃない」
「桐花さんは少し言い過ぎですよ。ソイラさんがパンダだなんて。名札制度の廃止が認められないからって八つ当たりするのはよくないですよ」
「はあ? してもいいでしょ! 名札制度なくすのは問題ないけれど、それに代わる制度がないと認められないって何よ。せっかく署名集めたのに。って、そんなのわかんないわよ!」
「まあまあ。そこは一学期中に答えを出せばいいって先生たちも言ってくれてますし、じっくり考えましょう」
「あっ」
再び常陸がわざとらしく驚いた声を出した。
「今度は何よ」
桐花が面倒そうに聞くと、常陸は扉の方を顎でくいくいっと示した。
みんなが一斉に見ると扉が閉まる音がした。
それを合図にして桐花は席から勢いよく飛びだし、教室を出ていった。それに追う形でつくしも向かう。
廊下に出ると桐花が前を指さして、振り向きつくしに笑顔を向けた。
その笑顔は告白した時を思い出す。
「つくし! 見て! 男子よ男子!」
「はい、そうですね。なんだか自分を見ているようです」
桐花はうんうんと大きくうなずいてから前を走って逃げ出した少年に声を飛ばした。
「恋愛魔法はじめませんか!」
長い作品を読んでいただいてありがとうございました。
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