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3-6 平和とは

 次の日の放課後。

 再び桐花はまことと会うために理科準備室にいた。

 今日も占いの募集を常陸のTwitterからかけたのだが恋愛魔法使いからの依頼はまことのみで、他二十三件は一般生徒からだった。口コミでの拡散が期待できず、Twitterのみの宣伝となれば仕方のないことないことかもしれない。むしろ一人から情報を引き出せているのだから作戦は大成功とは言えないまでも成功とはいえるだろう。

 桐花は新しい情報を得るため、昨日よりも詳細に恋愛魔法鑑定を行った後、テンションが上がった状態のまことに明石会の情報を聞き出すことにした。

「その開かずの教室が出来てから何か変わったことはない?」

「ないっすね」

「じゃ、入佐姉妹に変わったことあった? あんたが入会してから」

「それならあるっす。六月くらいに三年生の一部が入佐姉様に喧嘩売ったんですよ。奇襲で。姉さんたちは二対六の劣勢でした」

 入佐会の会長と副会長を狙うのだから、恋愛魔法に自信を持っているに違いない。そんな相手が六人だとさすがの入佐ツインズでも苦戦したはずだ。しかも奇襲ということは戦闘魔法による攻撃だろう。入佐ツインズは戦闘魔法には長けていない。二人ともBランクが妥当だろう。負けても不思議ではない。

「入佐姉妹って戦闘魔法はそこそこよね。三年が六人。かなり苦戦したんじゃない?」

「それが全く。楽に勝ってしまいました。瞬殺とまではいきませんが」

「ありえない。あの二人は戦闘魔法は得意じゃないはず。六人を相手にして瞬殺って敷島さんや宇治さんのレベルよ?」

 相手が弱いという可能性を除けば最低でも入佐ツインズはBランクの戦闘魔法を有することになる。

「そうっすよね? 短期間でそんな強くなるってことは覚醒かも」

「いえ、誰かが能力を付与している可能性もある。しかも二人分をワンランクくらい上げてるんだから相当」

「もしかして入佐姉様達のお姉様では?」

「ありえない。梓弓さんがあの二人に手を貸すなんて」

「でも家以外だと学校すよ? この学校にそんなすごい人っていました?」

 桐花は頭を悩ませる。まことの言う通りだ。この学校にそこまで恋愛魔法、区分をすれば戦闘魔法の補助魔法に優れた人なんて思い当たらない。

「入佐会の開かずの教室に誰か隠れてるのかも。校外の恋愛魔法使いが」

「なるほど、名推理っす!」

 これはいい穴を見つけたと桐花は笑みを浮かべる。

 もしも校外の恋愛魔法が入佐ツインズに手を貸していれば完全な校則違反だ。しかも校内は関係者以外立ち入り禁止。その強力な恋愛魔法使いに校内への侵入を手助けしているとすれば尚更性質が悪い。

「ところで最近つくしに入佐会はちょっかかけてこないけどその辺どうなの?」

「どうって。下っ端なんで知んないっすよ」

「あたし的にはさ、大津ソイラが怪しいだけど」

「だから知んないっす」

 桐花の焦りによる問答でイライラして少し声を荒げるまことはそっぽを向いた。

ちょっとやりすぎたかな、と反省し沈黙していると理科準備室の扉が開いた。

「誰?」

 桐花は焦って扉の方に声を飛ばす。

 この扉を開けられたということは、桐花が占いをすることを知っている相手。知ることができるのはまことからのみ。だとすれば入佐会に情報を漏らし、占い中に奇襲をかけたに違いない。見回りをしている常陸は感知能力が高いので侵入を見逃したということは考えにくい。もうやられてしまっていると考えた方がいいだろう。

 桐花の胸はひどく高鳴る。

 そんな緊迫した中、まことは間の抜けた声で言った。

「誰っすか? 次のお客さんっすか?」

「はあ? あんたの仲間でしょ」

 この状況でも他人のふりをするまことに桐花はあきれた。

「仲間?」

「そうよ。入佐会の連中でしょ。誰にも言うなって言ったのに。あんたが仲間を呼んであたしを倒しに来たんでしょ」

「違うっすよ。明石さんのことは誰にも言ってません」

 そんなわけないでしょ、という深いため息をつくと扉の方から声が飛んできた。

「明石桐花! あんたの愚行はわたしたちが止めにきたわ」

「愚行って何のことよ。てかあんたら誰よ」

 理科準備室の扉の前で少女たちは四人並んで仲良く声を合わせて言った。

「わたしたちは入佐会現状維持の会」

 桐花はやっぱりとまことをにらみつける。

「入佐会って言ってるわよ。下っ端のあんたが知らない人なんじゃないの?」

「んなことないっす。仲間はみんな把握してます。てかあの人たちから魔力感じませんよ」

 入佐会現状維持の会はまことの言葉をきいてドヤ顔をして強めに言った。

「わたしたちは一般生徒から有志でできた会。入佐会を支持するというわけではなく、入佐会が作ったこの恋愛戦争のない平和な学園生活を続けていくための会よ」

「くだらない。去年のことを戦争とかいうあたりぬくぬくとしてるわね」

 敵はまことではなく、ただの一般生徒らしい。桐花は椅子から立って四人の前に向かった。

 常陸はやられたわけではない。侵入の警戒を恋愛魔法にだけにしていて一般生徒はしていなかったのだろう。

「どうしてここで占ってるてわかったのよ」

「そんなの間抜けな明石会についていけばいいだけだし、現状維持の会は一般生徒の過半数を超えるわけだから、あなたがどこにいるのか筒抜けよ」

「なるほど、まことはシロってことね。いいわ、とりあえず話だけは聞いてあげる」

「話しかしないわよ、言い方が腹立つわね! あんたも去年のことを知っている二年でしょ? それなのにどうして入佐会が作った現状を壊そうとするのか理解できない。票を個人のものとしないでグループにしたおかげで恋魔魔法による争いは激減したわ。おかげでわたしたちも普通に恋愛ができる。どうしてこの現状が嫌なの?」

 桐花は気だるそうな表情をして首を回した。

「まず間違いを訂正してあげる。入佐会の票はグループではなくて正式には入佐姉妹に二分されているだけ。だからあの二人だけが甘い蜜を吸えるの。この子は入佐会よ。まこと、あたしの言うことに間違いない?」

「ないっす。みんないろいろ理由はあるんでしょうけど結局は入佐姉様達のために票を集めてますから」

「ぐ、グループというのは言葉の綾よ」

 入佐会現状維持の会の一人が声を荒げる。

「あんたたち恋愛魔法使いは好きに恋できるだろうけどわたしたちはできないの! わかる? 好きな人が出来ても票集めのためにわけのわかんない魔法で奪われちゃうのよ。あんたらは魔法で抵抗できたりするんでしょうけど、わたしたちはできないのよ。この無力感わかる?」

「そうね、同情するわ」

「なら今すぐ入佐会に喧嘩売るのやめなさいよ」

「イヤ」

 桐花は四人をにらみつけて静かに言った。

「この学校が普通の学校ならあんたらの言い分はわかる。でもここは恋愛魔法使いのいる学校。あんたらの言ったリスクは当然のこと。それなのにここに入学したのはあんたらの覚悟の欠如よ」

「そ、それは」

「あんたらが言いたいことは恋愛魔法使いなんていらないってことと同じよ。好きでもなくこの能力を与えられた人が聞いたらなんて顔するでしょうね」

 四人は何も言えずただ桐花をにらみつけるだけ。

「そういえばまだあたしが入佐会を潰そうとしている理由を言ってなかったわ」

 桐花は嫌らしい笑みを浮かべる。脳裏に魔女という言葉が浮かぶような笑顔。

「この世は弱肉強食。今までが異常なだけなのよ。弱いものが弱いくせにのほほんとしているなんて異常。あたしは強者。だから弱者の入佐姉妹を食いたいだけの話。この数日間、色んな奴らに嫌がらせを受けてきたけど、あたしがトップに立った時は何百倍にして返してやるんだから。もちろんあんたらもね。その時まで仮初めの平和を維持しておきなさい」

 桐花はそう言うと大きな足音を立てて歩き、四人が並ぶ真ん中に割って入って「邪魔よ」と言って道を開けさせ準備室から出ていった。

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