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3-4 366

 ソイラの後を追ったつくしだが結局見失ってしまい、その翌日ソイラの教室に向かった。

 先日のお詫びをするために出入り口付近でソイラの姿を探すも見当たらない。そもそもあれだけ優れた容姿なのだから何かしらのオーラや雰囲気を感じ取れるはずだ。もしかして教室にいないのかもしれない。つくしはソイラのクラスメイトに声をかけようとすると、ちょうどクラスメイトと談笑している竜田の姿が目に入った。

 一年が二年の教室に何の用だ、的な雰囲気を避けるため小さく体をかがめながら、ちょっとしたスパイ気分で竜田の方に向かっていると誰かにぶつかってしまった。咄嗟に謝る間抜けなスパイ。

「すみません、先輩」

 しかし相当怒っているのか返事はない。相手の顔を見るとそれは見知った人だった。

「あっ、太秦さん。どうもお久しぶりです」

「別にそこまで久しくないでしょ。毎日会う間柄ならわかるけど」

 ムスッとして明らかに不機嫌だ。当然だ。つくしが桐花に票を入れ替えてなければ太秦は今頃入佐会で評価を受けていたのだから。

「そうですね。じゃあ大津さんがどこか知っていますか」

「じゃあって何よ。ムカつくわね。ソイラさん? 知らない。竜田が仲良しだから聞けば」

 ツンケンとした態度を崩さないまま太秦は去って行った。

 それでは竜田に話しかけるかと、つくしが竜田の方を見ると、竜田は太秦の方に視線を向けていた。その表情には少しもどかしさを感じた。同じ相手に敗北したのに、竜田は昇進し、太秦は退会させられたのだから関係が崩れるのも無理はないのかもしれない。

 どちらか、あるいは互いのプライドが邪魔をして関係の修復が出来ていないのは鈍感なつくしでもなんとなくわかった。

 これが恋愛魔法による亀裂でこういったことが去年からずっと続いていたのなら、恋愛魔法を使っての票取り合戦に終止符を打ってほしいと願う生徒がいても不思議じゃない。

 平和な学校生活を送れているのは入佐ツインズが過半数以上の恋愛魔法使いを味方にしたからだ。その道をどうして桐花が潰そうとしているのか理解しがたい部分もある。しかし今はそれを考えていても仕方がない。まずはソイラに謝罪しなければいけない。

 つくしは太秦の姿が消えても視線で追い続ける竜田の元に寄って声をかけた。

「おはようございます、竜田さん」

「ひゃい!」

 暗い夜道で突然声をかけられたような驚き方をする竜田。振り返ってつくしの姿を確認すると、げんなりとした表情をあからさまに浮かべた。

「不知火さん……なんですか突然」

「あっ。すみません。大津さんを探しているんです」

「大津? ああ、ソイラなら休んでいるわ。意外ね、友達? それともおっかけ? あなたなら十分あり得るだろうから」

 一年間告白し振られた実績を持つつくしを怪しむ目で見つめる。

「友達ですよ! 失礼ですね。大津さんは体調不良ですか?」

「そうらしいわ。でも一年からクラスメイトだけれど欠席は初めてよ。だから少し不安ね。不知火さんもしかしたら何か知ってる?」

 ニヤリと笑ってごまかそうとした瞬間に背中にじわりと汗がにじむ。桐花が占い結果を遠慮なしに言った結果かもと正直に言ってしまえば楽になるのだろうけれど、そんなこと言えばまた争いになるかもしれない。

「知りませんね。休みなら仕方ないですね、さよなら」

「ちょっと」

 呼び止める竜田は逃げようとするつくしの腕をつかむ。

「あなたもソイラと同じ道を辿っていた人でしょう? 良い相談役に、友人になってくれることを願うわ」


 朝から校門を通る生徒たちにじろじろと見られながらまちぶせること二日目、つくしはやっとソイラに出会うことができた。彼女の姿が見えた瞬間、胸がほんわかと暖かくなり、少し目柱が熱くなる。

 今すぐ抱き寄せたい気持ちを抑え、ソイラを見つめてにやにやする。が、肝心のソイラはつくしの姿には気づいていないようで、斜め下を憂鬱な表情で歩きながらつくしの前を通り過ぎていった。

 二日間待ちわびたのは自分だけだったのかと寂しい気持ちがつくしを襲う。このままただ二日間校門の前で登校する生徒を見つめるよくわからない存在のまま終えるのは残念すぎる。つくしはソイラを追いかけ、彼女の顔が少しでも晴れるようにとにこやかにあいさつをした。

「おはようございます、大津さん」

 その声でやっと気づいたのかソイラは少しビクリと肩を震わせて驚いた後、明らかな作り笑いをつくしに向けた。

「あら、こんなところで。おはようございます不知火さん」

「少し話したいことがありまして」

「そうですか。奇遇ですね」

 そういうとソイラは踵を返し、校門の方とは逆に足を向けた。

「どこ行くんですか?」

「一日休んでしまえばどうでもよくなりますね、案外。気分が向かないので学校ではないところで話しましょうか」

 登校時間に通学路を逆走するソイラにつくしも続いた。明らかにつくしたちを見つめひそひそと話し合い人や、敵視する目線に耐えながら駅まで向かい、切符を買うとやっとソイラは自然な笑みをうかべた。

「なんだかワクワクします。サボタージュしてどこかに行くなんて初めてです」

「僕もです。ところでどこまで行くんですか?」

「和歌までです。海が見たいので」

 二百四十円を投入しながら、二人で海を見ながら語らうなんていかにも青春っぽいとつくしの胸はここ数年で一番高鳴った。もう泣きそうだった。どん底だったこの一年。灰色で塗りつぶし続け真っ黒に近いこの一年は今日バラ色に塗り替えられる。そんな予感に心が躍った。 

 しかしそんなとんとん拍子に理想の青春がくるわけがない。

 一つ山を越えると天気は一変し、灰色の空が覆った。和歌駅に着くころにはポツポツと雨が降り、二人は駅前のコンビニで傘を買い、海岸沿いの道を歩いた。

 和歌町は広いビーチがあるので、テラス付きのカフェが海岸線の道路にポツポツとある。雨で足元を濡らす前に店を決めないとと焦るつくしだが、ソイラは全く慌てた様子がなくつくしの少し先を歩く。

「もしかしておすすめの場所があるんですか?」

「ないですよ。ただ匂いにつられて歩いています」

 ソイラはクスリといたずらに笑うと海岸線の道から逸れて少しきつい坂道を登り始めた。三分ほど進むと木に囲まれた古民家の前で足を止めた。

「ここがいい匂いですね。不知火さんいかがでしょうか」

 いい匂いとはどういうことだろうか、ここは店なのかと疑問に思いつつも古民家に向かって鼻をくんくんとさせてみる。かすかにコーヒーと何かわからない甘い匂いがした。そもそも店を匂いで決めていいものかと疑問はあるけれど、ここまで来たのだから拒否するわけにもいかない。

「そうですね。ここにしましょう」

 ソイラは嬉しそうに笑った。今日一日この笑顔が見れるのならイエスマンでいようと思えるほど、その笑顔はつくしを釘付けにした。

 店内はオレンジの薄暗い電灯で灯していて、手作り感あふれるテーブルと机が並んでいる。十五人ほどが入れる広さの中、真ん中には学校にあるような大きなガスストーブが置かれていた。

 入口の反対側は窓が大きく、さっき歩いた海岸線の道路とビーチが広がっていた。ソイラは綺麗とつぶやき、瞳をとろんとさせた。そんなソイラを察して店員のおばちゃんは窓際の席を案内してくれた。制服を着ているから何か言われるかと少しビビっていたつくしだけれど、何も問題はなくメニューを渡してくれた。

「かわいい彼女さんですね。外国の方ですか?」

 ソイラは風景に夢中で聞いてはおらず、つくしは女性を連れていて他人に言われたいひとことのトップ三を言われたことによる感動でトリップしてしまった。

 店員はそんな二人を苦笑いし「決まりましたらお呼び下さい」と去っていく。二分後に正気に戻ったソイラは「すみません」と軽く手を上げて店員を呼んだ。そしてくんくんとにおいを嗅ぐ。

「この苦みの強そうなコーヒーのにおいはどれでしょうか?」

「苦み? もしかして向こうのお客さんが飲んでるものかしら?」

 ソイラは店員が手で示す方をくんくんとする。

「はい。確かにあの匂いです。それととびきり甘い匂いのするパンらしきものがあると思うのですが」

 店員さんは今度は逆方向のお客さんを手で示すと、ソイラは「間違いありません」と首を縦に振った。

「すみません、面倒な注文方法で」

「いいのよ。やっぱり外国人は感性が違うね」

「あ、わたくしはハーフなので日本人ですよ」

「そうなの? ごめんなさい。ハーフの人って本当綺麗よね、羨ましい」

「いえいえ、たまたま両親の容姿がよかっただけです。ありがとうございます」

 などと店員とソイラが軽い談笑をしていても全く反応を見せないつくしに、ソイラは不安になって声をかけた。

「あの不知火さん。ご注文はどうなさいます?」

「へっ。ああ、ああ、そうですね。えっと、大津さんと同じものでいいです」

 店員は軽く会釈をすると厨房の方に戻っていった。

「不知火さんも同じ匂いを感じていたのですか」

「いや、ちょっとボーっとしていて。だから大津さんの鼻を信じました」

「そうでしたか。確かにこのお店は少し眠くなる音楽が流れていますね」

 店内はオルゴールの音楽が流れていて、外からの風で揺れる木の音がかすかにする、それが妙に心を和ませる。そんな音をしばらく聞いているとコーヒーとこんがりと焼き目のついた分厚いトーストに蜂蜜がかかったものが運ばれてきた。

 つくしはコーヒーをすするとあまりの苦さに顔をゆがませた。

「これすごい苦いですね」

「ええ。でもこのトーストを食べてから飲んでみてください。きっと丁度いいはずですよ」

 トーストはもちもちとした食感で小麦の香りが強く、蜂蜜は特有の甘さが口に広がった後、しつこさはなく口の中で解けるように消えていく。思わず顔がゆるむほどの美味しさ。そのあとに苦いコーヒーを口の中に含むと、ソイラが言う通りコーヒーは苦みだけではなく、蜂蜜の甘さが残っていて砂糖を入れないでもちょうどいい苦みになっている。

「大津さんの鼻はすごいですね。本当美味しいです」

「はい、想像以上においしいです。これも食べる人と場所の相乗効果でしょうか」

 ソイラは幸せそうな顔をしてトーストを小さくかじり、コーヒーを少し口に付ける。このペースだと三十分はかかるなとつくしは苦笑いを浮かべた。

 ソイラは半分ほど食べ終えると、少し緊張した表情を見せ始めた。たまに海を見つめてはつくしが気づかないくらいの小さいため息をつく。少し大きく息を吸ってから覚悟を決めたのか口を開いた。

 雨は強さを増してきて、海の方は風も強いのか白波が目立つようになってきた。

「きっと不知火さんとわたくしは恋愛魔法の考え方が違うと思います。そしてそれを正そうとかいうことではなく、ただわたくしの考えとして聞いてくれるとありがたいです」

「どうぞ。僕も恋愛魔法に対する異なった見解を聞けるのなら楽しみです」

 そしてまた少し大きく息を吸ってから口を開く。

「恋愛魔法はどうして持つ者を選ぶのでしょうか?」

「選ぶ? うーん。僕は一般的な解釈と同じです。思春期の前期までに恋を成就するための何らかの壁やトラウマができ、自分ではどうにもできないという精神のストレスが極限まで高まった際に生まれるんじゃないかって。だから持つものを選ぶのは一言で言えば自分なのかもしれません」

「不知火さんもそう言うのですね」

 つまらなそうな表情を浮かべるソイルは続けて口にした。

「一般的な時期は十四歳まででしょう。しかし東海のある女子は十六歳で使えるようになったと言います」

「それは体の成長が遅れていたからじゃないですか?」

「いえ、体の成長は一般的でした。しかし恋愛魔法は十六歳から使用できるようになったそうです。その他にも世界をみればたくさんの事例はあります。現状の恋愛魔法学ではまだ初動時期を確定できていないということです」

 つくしは恋愛魔法使いになることを願っていた日々のことを思い出す。恋愛魔法の初動年数の割合は過去十年間の統計だと、十四歳までに九十五%が初動を迎えることとなっている。

当時は一日が過ぎるたびに苦痛を感じ、朝が来るたびにため息を吐き、、夜眠るのが苦痛で、時計の秒針がやたらうるさく感じることもあった。陽が落ちることを恨み、嘆き続けた。

 未知な可能性を信じようとするソイラに共感するつくしだが、十七歳ならばもう諦め時ではないのかという思いもあった。その年齢の初動率は一%を切っている。

つくしは夢を見ようとするソイラにどう言葉をかけていいか戸惑っていると、ふふふと自虐的な小さな笑い声をソイラはあげた。

「わたくしは恋愛魔法はヒトの進化と考えています。つまりその魔法を使えないわたくしは進化の可能性を与えられなかった、価値のない人間だと思えるのです」

「それは違います。恋愛魔法を使える人も使えない人もそれぞれに価値があるはずです。僕は恋愛魔法は進化ではなく、生殖競争に勝つための新たなる武器だと考えています」

「生殖競争がヒトの進化ではありませんか?」

「確かにそういう考え方もできるでしょう。しかし、恋愛魔法を使える人は、精神や容姿や能力に明らかな欠陥がある場合がほとんどです。学校にいる恋愛魔法使いを思い出してみてください。彼女たちはどこかしらに欠点があり、一般生徒との生殖競争に負けてしまうような人ばかりだ」

「つまり不知火さんは、恋愛魔法使いは人として優れていない者が、それを持つことによって対等になると言いたいのでしょうか?」

「実際は対等以上になってしまっているけれど。僕はそう考えてます」

「ではどうして人として欠けてしまっているのに、恋が成就するとその能力を失ってしまうのでしょうか?」

「こういう話を聞いたことがあります。人は他人がいることで自分を認識する。僕たちは自分が何であるか、社会でどう生きていくか、それを知らなくては成長できないと思う。きっとその成長を促してくれるのが恋であって、恋人なんだと思う。自分、つまりアイデンティティを知るための方法。人としての羽化するための繭の状態が恋愛魔法使いなんじゃないかって僕は考えます。だから恋が成就すると能力を失ってしまうんです」

 ソイラはポカンと口をあけたまま、しばらくつくしの顔をぼうっと眺めていた。

 これほどまでの考えの相違があるなんて思ってもいなかったのだろう。そしてつくしの恋愛魔法についての考えにロマンはないが、現実味が感じられた。コーヒーを啜るようにして飲んで、苦みで気持ちを入れなおす。

「わたくしとは全く違った考えですね。恋愛魔法をヒトの進化の鍵と考えないで、まさか劣ったヒトが生殖競争に勝つための能力と考えるとは。感嘆いたしました。きっと明石さんと宇治さんも不知火さんと似た考え方なので、魔法にそこまで固執していないのですね」

「いやあ、照れます」つくしはデレデレと表情を緩ませ、頬をポリポリとかく。しかし褒めるソイラだが、表情は硬く怒っているようにも見えた。

「しかしです。つくしさんの説は、持たないものが持つものへの劣等感から生まれたものだとも考えられます」

「恋愛魔法使いに嫉妬してるってことですか」

「はい。失礼だとは思いますが。だって不知火さんの話を今日まで聞いてきましたが、わたくしと同じように感じました。恋愛魔法を知りたい側ではなく、使いたい側だと。明らかに使用側に知識が傾いています」

 そして体をグイッと前に倒し、つくしに近づいて力強い目で見つめた。

「不知火さんが恋愛魔法使いというのなら信じますが」

 そうなんですよ、と目をつい紫に変えてしまいそうになるつくしだが、ソイラの目が明らかに憎悪に変わったので思わず息を止めてしまう。

「それならそれで嫉妬で殺してしまいそうですけれど」

 言った後に一瞬素の顔になってから笑ってみせるも、もう遅い。つくしにはソイラの目と言葉が焼き付いて離れない。が、こんなソイラも悪くないと妙に心が高ぶる。

「男性なのに恋愛魔法を授かるだなんて、無駄もいいところです。使えないのならわたくしに与えてくれてもいいですのに。神様は理不尽です」

 そう言って軽く膨れるソイラはいつも通りの可愛らしい笑顔を向けた。

「そうですね、使えないならもったいないですもんね。もしかして大津さんは男性が恋愛魔法を使うことに反対ですか?」

「正直なところわかりません。神に選ばれた者なのですから使ったほうがいいとは思いますが、報道で男性の恋愛魔法使いが事件を起こす例をたくさん見てきたので……。ただ、女性の恋愛魔法の事件もあるはずなので、報道の規制、偏向の可能性もあります。ただ、やっぱり嫉妬してしまいます。わたくしは流されやすい人間なので、恋愛魔法は男性より女性が持っていた方が美しいと感じてしまいますから。こんな返答ですみません」

「いえいえ。ありがとうございます」

「不知火さんはどう思いますか?」

「僕は……。女性の恋愛魔法使いが世間から認められる要因となったのは、春日あさひという素晴らしい人がいたからと考えています。だから男性にもそれくらい素晴らしい人が現れれば変わるのだろうと思っています」

 それはつくしの目標でもあったし願いでもあった。

 雨が上がってからカフェを後にし、海岸線の道に出るとあまりにも高い青空と海が綺麗なので、二人は吸い寄せられるように砂浜に向かった。

 冷たい浜風と潮の匂いはどこかいびつだけれど悪くはなかった。冬の海は心を静かにしてくれる。

 雨でぬれた砂浜で砂遊びをしたり、絵をかいたり、ただぼうっと海を眺めて一時間が過ぎた頃、ソイラは「そろそろ学校に帰りましょうか」と立ち上がった。

「あ、あの大津さん!」

 つくしは勢いよく立ち上がって、ソイラの前で背筋をピンと伸ばし、真剣な目で見つめた。

「なんでしょうか改まって?」

 ソイラは怪訝な表情を浮かべながらも微笑を崩さない。

 つくしは舞い上がっていた。二人で学校をさぼりカフェで軽食し砂浜で遊ぶ。雰囲気は上々。ならば思いを伝えなければならない。告白三百六十五敗の経験がそう訴えていた。

「大津さん、いいえソイラさんと呼ばせてください」

「ええ、構いませんよ」

 どうも告白の雰囲気に気づいていないのか、ソイラは変わらず微笑を浮かべる。

「ソイラさんは僕にとって恋愛魔法使いよりも優れています。竜田さん、太秦さん、常陸さん、桐花さん、入佐姉妹、そんな人たちよりも僕はソイラさんに魅力を感じています。だから気を落とさないでください」

 ソイラはそんなつくしの言葉にふふっと小さく上品に笑った。

「慰めて頂けるのですか? 大丈夫です。その言葉で少し気持ちが軽くなりましたから。でもわたくしは諦めきれません。恋愛魔法使いは夢であり、希望です。そしてその先の白馬の王子さまを射とめるため、諦めません」

 これはいつものやつだ。三百六十五回経験したやつだ。

 これから一人寂しく電車に乗って、学校に行く気力などなくして家で一日中泣いて、ソイラとの思いでを一日ずつ忘れていきながら、関係を薄めていく日常が始まるのか。

 そう思うと今日の幸福度につくしは涙があふれてきそうになる。涙をぬぐおうと顔を手にあてようとするつくしの手が掴まれた。

「へっ?」

 つくしは間の抜けた声を出した。

「さあ帰りましょう。その、つ、つつ……つくしさん」

 つくしの名を呼ぶことに照れ、顔を隠すように俯きながら言うソイラに、つくしは振られたというのにまた恋の谷底に落ちていってしまった。

 この小悪魔めと叫ぶ心は全力で笑っていた。

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