2-4 明石桐花&常陸衣VS敏馬玉藻&竜田夏衣
夢を覚ますような桐花のはつらつとした声とドヤ顔。
部屋の空気は一瞬にして変わる。四文字のタイトルで形成される日常は終わりだ。
女と女の戦いが始まる。
「桐花さん。折り入って話しが」
そこに割って入るつくしはまるで空気が読めていない。
「話しって何よ? そんな時間ないわよ」
乙女が告白直前にモジモジするような仕草をつくしがするものだから、あまりの気色悪さに無言で蹴飛ばす常陸。
太ももの急所に入ったのかうずくまりながらも頬を染めてつくしは言った。
「明石会を抜けて入佐会に入りたいなと思いまして」
そんな戯言に耳を傾ける訳がなく、他四人は向き合い戦闘態勢を取り合った。戦闘魔法でやり合う意思を四人は確認する。
凛とした真剣な瞳でちらりとつくしの方を見て、敏馬は言った。
「ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ。あんたは黙ってみてなさい」
続けて竜田が冷たく言う。
「これは不知火の為に戦うのではない。入佐姉様達の為の戦いということを理解しなさい」
竜田は至って真剣なのだが、つくしはツンデレなセリフと勘違いしニヤリと不快な笑みを浮かべた。
「つくしのコトなんかよりこっちに集中した方がいいんじゃない? あんたらで勝てると思ってる?」
挑発を含ませた微笑みをみせる桐花。向かい合う敏馬は歯を強く噛み締め、鈍い歯ぎしりを響かせる。
「わたしはこう見えてもBランクなんだからね。舐めないでよ」
「あんたあたしがどう見てるかわかるの? すごい感知能力ね。このあたしだってわからないわ。何とも思ってない相手にどう見られてるかなんてさ」
敏馬の眉間にヒビが入る。
「一丁前に挑発して明石さんのくせに。あんたなんて高倉と鬼ごっこしてるだけじゃない。偽りのAランクなんて怖くないわ」
「はあ?」
「感知能力のおかげAだって言ってんの。他は下の下だって知ってるんだから。そんな明石さんがわたしに戦闘魔法で挑むなんて舐められたものよ」
挑発し合う二人の隣では、静かににらみ合って威嚇し合う常陸と竜田。
無駄な挑発に乗る敏馬が気がかりで竜田は声をかける。
「気をつけなさい。他はダメでも感知はS級と言われ――」
忠告を最後までさせるほど常陸はぼうっとしていない。剣状の戦闘魔法を手に持ち竜田の首の辺りを狙って常陸は振り下ろした。少し首元をかすめただけなのに、思った以上のダメージを負った竜田は深呼吸をしてから常陸を見つめた。
「中々の太刀筋。それに戦闘魔法の質も中々」
戦闘魔法とは手から溢れ出す煙のような魔力をコントロールすることで、円状にしたり糸状にしたり剣状にしたりして自分が扱いやすい武器にして戦い、奪い合い相手への好意を喪失させあう魔法だ。中でも常陸が繰り出した剣状の恋愛魔法は円状や糸状のものよりも難易度が高い。溢れ出る魔力を剣状にするコントロール、それを保つ集中力、常に魔力を放出し続けなければならないので魔力の回復速度が高くなければいけない。
しかし剣状が円状や糸状よりも強いという訳ではない。ただ自分が扱いやすいかどうかの問題だ。
常陸は無表情でピースサインを作る。
「元剣道二段」
魔力の高度な制御能力を持ち、剣道の経験者。思っていたよりも楽しい戦いになるかもしれないと竜田の口の端がピクリと上がる。
「ずっと不思議に思っていたわ。どうして感知魔法がそこそこ得意なだけで私と同じランクなのかって。でもこれで納得がいった。その魔力のコントロール能力がみそだったのね」
「今時のJKがみそだなんて使わない。ゲンナリ」
「ふん。雑談はここまで。さあ楽しみましょう」
竜田は手から円状の魔法を四つ繰り出し常陸に向かって放出する。それぞれが一定の速度、トントントンと向かうのではなく、トントトンとリズムを変えて向かう。しかし意外とリズム感の良い常陸はステップを踏むように顔面に向かってきた円状の魔法を避ける。
四つの魔法を同一にコントロールすることは難しいことではないが、それぞれを違ったようにコントロールするには高い制御能力と器用さが必要となる。複数のことを同時に行う難しさは料理とドラムの演奏を足して二で割ったものと言えば一番近いのかもしれない。
しかし高度な魔法と頭の器用さを見せつけても避けられては意味がない。
常陸はステップを駆け足に切り替えすぐさま間合いを詰めにかかる。
しかし二歩進んだところで足を止めた。
前後左右、四方の宙に魔力を感じたからだ。
四つ。それはさっき常陸が避けた円状の魔法と同じ数。つまり竜田は常陸に当てにいったのではなく、絶対に命中させるために常陸の四方に戦闘魔法を位置取りしたまでだ。
四つ全て当たれば常陸の好意は喪失するだろう。一つでもそこそこのダメージを負ってしまい、二対二のうちにケリを付けたい明石会としては大きな痛手だ。
「少しでも動けば当てにいくわよ」
竜田は冷静を装いながらも内心は焦っていた。
挑発に乗る敏馬、そして想像以上に能力の高い常陸、何よりもつくしとの会話で消耗した魔力。
心もとない魔力で乗り切るには太秦が戻ってくるまでの時間稼ぎが一番有効だと判断した。
そして今のところ作戦は順調に遂行できている。常陸の四方を囲う玉を放出出来る時間は十分くらいだろう。それまでになんとかサボリをすませてくれと祈る竜田。
竜田が戦いから少し気を逸れした時だった。常陸の足が竜田に向かう。
「動いたら当てると言っている!」
集中力を欠いて当てにいけなかったことを誤摩化す咆哮。
しかし常陸の足は止まらない。
竜田は集中力をさらに高め、四方の魔法に力を注ぐ。動く動かないにしろ四方に位置取ったときに勝負はついていた。
あとはピリオドを打つのみ。
竜田は常陸を睨み付け、右腕を高くあげた。
「この右腕が降りたときに終わる」
「お好きにどうぞ」
「もう少し楽しみたかったけれど仕方ない」
絶体絶命でも無表情を崩さない常陸は、一歩進んだ。竜田はニヤける。
勢いはなくゆっくりと下がる竜田の右腕。
そしてその体はゆっくりと倒れた。
それを見て敏馬は叫んだ。
「卑怯者! 最低! バカ!」
作戦通りと高笑いし腕を組み、勝者の雰囲気を醸し出すのは常陸ではなく桐花だった。
竜田が攻撃を繰り出す直前、敏馬と対峙していた桐花が攻撃の対象を瞬時に切り替え、竜田に全力の恋愛魔法をぶつけたのだった。いくら戦闘魔法が苦手でも近距離で全力なら効果テキメン。
「そっちがバカよバーカ! これは能力モノの少年漫画じゃないのよ。リアルよリアル。二対二が対峙したからって一対一になるわけないじゃない」
「展開的に一対一だったじゃない! 空気読みなさいよ!」
「これは戦い。奪い合い。平和ボケした入佐会こそ空気を読みなさい。だいたいあんたがあたしに竜田を攻撃させる隙を与えるから悪いんじゃない」
ぐぬぬと唇を噛み締め、涙を貯めながら敏馬は構えを取った。
「入佐姉様に言いつけてやるんだから」
そんな敗北フラグ一直線のセリフを吐いた敏馬は戦闘描写の必要がないくらい一瞬でやられ、気力をなくし教室の隅でぐでんと横たわった。竜田も同じように教室の真ん中でぐでんとなっていた。
「長居は無用。さっさと行くわよ」
桐花はつくしを取り戻したので明石会に戻ろうと踵を返し教室の出入り口を見つめた。
そこには放心状態の太秦がいた。




