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恋愛魔法はじめました。  作者: 奈屋一郎
入佐ツインズ
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2-3 浮かれたつくし

 穏やかな陽が射し、風のない春のような暖かさで冬が小休憩した昼休みの中庭。

「どういうことよこれ」 

 その暖かさを忘れさせるようなツンドラの瞳をした明石桐花と、ペンギンのように口を尖らせた常陸衣の視線の先。そのベンチには、女子三人に囲まれハーレムを作るつくしの姿があった。

 弁当を食べあいきゃっきゃうふふする女子に異分子が紛れているのでさわやかさと華やかさが微塵もない。

 つくしの表情はとろけるチーズのようになっていて、気分良さそうにニヤニヤと気味の悪い変態的な笑みを浮かべている。そのつくしにべったりな三人の瞳は紫に光っている。

 当然だ、つくしに近づく女性にろくな人はいない。利害関係がなければスクールカースト下層で友達のいない不細工に近づくわけがないのだから。

 四人が座るベンチから少し離れた草むらから隠れて見る桐花と常陸の表情には軽蔑の文字が浮かんでいた。

「あんた言ったよね、「不知火は桐花の味方」ってさ」

「似てないモノ真似は不快だからやめて。衣はそんなニャンチュウみたいなだみ声じゃない。もっとスウィートな声してる」

「似てるって。あんた自分の声聞いたことないの? ほら喋ってみ、レックしたげるから」

「衣に現実を突きつけないで。桐花は向こうの現実見ろ。衣は確かに不知火から決意表明を聞いた。でも結局は恋愛魔法の前に屈したというのが答え」

「くっそ。そういやあいつ毎日マジ告白してたのよね。それだけ火がつきやすいってことか」

「そう。それにあの三人に寄って集ってこられれば浮かれるのも無理もない」

 つくしを囲む三人。その内の一人は、つくしと同じクラスで昨日恋愛魔法で誘惑した敏馬玉藻と、残り二人は二年の竜田夏衣、同じく二年で入佐会の副会長の太秦青海。

「竜田がBランクで太秦は最近Aランクになったから中々厳しいメンツね。こりゃ入佐の本気度が知れるわ」

「その通り。入佐会の二番手といってもいい。もうあと二週間足らずで最終登校日がくる。こんなギリギリで夢を阻まれると後悔一生もの。ノーヒットノーランをあとワンアウトで逃すようなもの。西口のように」

「てかさ、それじゃあの一年のとしうま? って子も有望ってこと?」

「あれはみぬめって読む。当然優秀。一年で三人しかいないBランク」

「Bが二人とAが一人じゃやばいね」

「そんなことより邪魔しなくていい? 衣はすんごく邪魔したいんだけど」

 常陸はその辺に落ちている石を拾って、つくしに体を向け大きく振りかぶった動作を取る。ワインドアップモーションのようだ。

「気持ちはわかるけれど今はこのままでいいわ。夕方まで票の変更は出来ない。あたし達が手を出さないことでビビってると思わせることが重要……なんだけど」

 二人の会話につくしの笑い声が被ってきたので、桐花と常陸は耳をすませる。

 気を良くして気が大きくなっているからか、つくしの声は普段よりも大きく五メートルほど離れていても聴き取ることが出来た。

「いやあ、こうしてかわいい女子達に囲まれてお弁当食べるの夢だったんだよ。みんなのお弁当綺麗だね、まさに女子って感じ。僕の知ってる人でさ、酷い裁縫する人がいるんだよ。女子力の欠片もない縫い方でさ、折角のかわいい猫のイラストがただの野良猫って感じ」

 つまらなさの最果てを行く話題に愛想笑いを浮かべる三人。高笑いをするつくし。

 冷ややかな視線で見つめる桐花は投げる仕草を取る。常磐はこくりと頷いてから西口を思い起こさせる柔らかいワインドアップを繰り出すと見事に命中し、ゴツンと大きな音の後につくしの悲鳴が響いた。

 それを見てざまあみろとほくそ笑む桐花と常陸であった。


 つくしが入佐由美の名前を名札から消して四十七時間と三十分が過ぎ、変更できる四十八時間後を三十分前に迎えた頃。内面魔法第二教室、通称入佐会第二室にてつくしのハーレムタイムは続いていた。

 四つの机を向かい合うようにして、机にはティーポットとかわいい花をあしらった小さな皿にイトウのチョコチップクッキーが置かれていた。教室内を包む紅茶の品のいい香り。そしてかしましい女子三人のとりとめのない会話。

 ゆるふわ日常系アニメの世界に憧れていたつくしには異世界のような素晴らしい空間が広がっていた。

 ただ違っていたのはかしましい少女たちが純粋な気持ちできゃっきゃうふふしているわけではないということ。

「久々に男子とお茶会をしたけれど、こういうのも悪くないですね竜田さん(なんで不知火とお茶飲まないといけないんだよ。昨日といい今日といい最悪)」

 表情が引きつりまくりだが、なんとか外見魔法で微笑に保つ敏馬。

「そうね。いつもの紅茶やクッキーの味がなんだか濃い感じがする(この男が触った周辺のクッキー食べたくないな。あのカップもこのお茶会が済めば割ってやる)」

 ジッとクッキーを凝視し、つくしの存在を心から消そうとがんばりつつ、内面魔法で楽しそうな雰囲気を醸し出す竜田。

「つくし。他にも食べたいクッキーあったら持ってくるわよ(早くこの場から立ち去りたい。あと三十分我慢。こいつをここから出さなければ入佐姉様から褒めてもらえる。でももう限界。同じ空気を吸いたくない。こいつの唾がかかっているかもしれないクッキーを口に入れたくはない)」

「そうですね。ジンジャーが食べたいです。ちょっとしゃべり過ぎて喉が痛くなってきたので」

 なんていう図々しさ! と三人は地団太を踏む。しかも喉が痛いという。たった一時間の会話で。普段どれだけ人と話してないのだろうか。想像を絶する。

「では隣の部屋にあるかもしれないから見てくるわ」

 いち早く席を立つ太秦。それに続いて敏馬も席を立つ。

「いえ、ここは後輩のわたしが」

「あんたはつくしと楽しんでなさい。ここ最近で一番楽しそうよ」

「え、そんなことありません!」

 声を震わせて絶叫する敏馬。目で脅す太秦。

 恋愛魔法を含ませた太秦の目力に、敏馬はかなわないと悟り、ため息をついて席をつくことにした。気を落とすなと竜田が優しく肩を叩く。

 あるはずのないジンジャークッキーを求め教室を出て行った太秦を見送り、敏馬は再び大きなため息をついた。

「もういいんじゃないですか、竜田さん? リーダーの太秦さんも逃げたことですし。絶対きませんよ明石会。入佐姉様がいる隣の教室なんですよ、ここは。警戒しすぎじゃないですか」

「確かに気持ちはわかる。けれど気を抜いてはいけない。明石会には常盤というミステリアスな人がいるから。それにあなたはいずれ人の上に立つ逸材。これはいい勉強になるはずよ」

「何の話してるの? 僕も入れてよ」

「この状況がいい経験になるとは到底思えませんけどね。ていうか太秦さんが逃げてなければ心折れなかったけれど、逃げたから心折れたんですけど」

「逃げたって? クッキー取りにいたんじゃないの?」

「あら、敏馬も逃げようとしたじゃない。後輩の行いを全うしますみたいな雰囲気で。そういうのが一番卑怯よ」

「そんなあ。タダコウハイトシテトウゼンノオコナイヲシタマデデスヨ」

「ふふ、感情こもってないよ敏馬ちゃん。あっそういえばこの紅茶美味しいよね。でもさ、僕が入れればもっと美味しくなるはずだよ。だって君たちのお茶の入れ方なってないよ。まずカップとポッドを湯でくぐらせて熱してからじゃないと。それにお湯を沸騰させすぎ。沸騰前じゃないとちゃんと香りが広がらないよ。ポッドの中を茶葉がくるくると――」

「うるせーつくし!」

 と叫んだのは敏馬でもなく竜田でもなく、隣の部屋にクッキーを取りに行った太秦でもなかった。

 唐突に開けられた扉の先に腕を組み仁王立ちして経つ女子が一人と、扉から顔をちょこんと出す女子一人。

「あっ、桐花さん!」

「待たせたねつくし! 至福の時はここまでよ!」

 桐花の顔はワクワクした少年のようで、自信に満ち満ちていた。

第四回登場人物紹介


万葉高校二年/太秦青海/うずまさ おうみ

二年で二人しかいないAランク保持者。

万葉高校最大派閥の入佐会の副会長であり入佐第二会の会長。

先にAランクに上がられた明石桐花に嫉妬心を抱いている。


万葉高校二年/竜田夏衣/たつた なつえ

入佐第二会の副会長であり太秦のパートナー的存在。

真面目で冷静沈着。

能力が高くないのに同じBランクにいる常陸衣のことが気になっている。


万葉高校一年/敏馬玉藻/みぬめ たまも

入佐第二会に属している。

一年に三人しかいないBランク保持者で将来を有望視されている。

エブリデイヒステリック。

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