2-5 決闘
どうしてこうなった。そんな感情が太秦の心に渦巻く。
たったの五分サボっただけ。それなのに二人の仲間がモブキャラに負けている。これは穏やかじゃない。きっと奇襲、それも卑怯な手を使ったに違いない。太秦は決めつけていた。
それほどまでに明石会を過小評価していた。
感知系の能力が異常に高く、認定を春日ではなく自らの師匠にしてもらったおかげでAランクを与えられ、授業を真面目に受けない問題児な明石桐花。
友達がおらず、支持する男子もいないし積極的に恋愛活動しないがそこそこ成績は高いコミュ障でミステリアスな常陸。
この問題児が合わさったところでボヤは起きても、太秦率いる入佐第二会ならすぐに消火出来るとタカをくくっていた。だが力のある二人の仲間がやられた。これはもうボヤでは済まない。火が広がろうとしている。
このまま明石会に勝ったとしてもリーダーとしての責任問題を問われてしまう。サボっていた間に負けそうになりました、なんて言えるはずもない。それに仲間からの信頼度もガタ落ちだ。
それらをリカバリーする方法は、明石会が一時的につくしから手を引くだけではなく、永久に手を引くことが必要だと太秦は考えた。
「明石桐花に決闘を申し入れる!」
教室の真ん中でぐでんと気力をなくしていた竜田は『決闘』という言葉を聞いて飛び上がって起きた。
「本気なの青海?」
「本気で正気よ。この太秦青海、卑怯な奴らに負ける訳ないんだから」
明石会の優勢を卑怯と決めつけるその浅はかさに桐花は嘲笑う。
「あたしらがいつ卑怯な真似したって言うの? そうよね、竜田」
竜田は俯き頷きはしなかった。それを見て太秦は眉間に皺を寄せる。
「やっぱり卑怯なんじゃない」
「え? 自然と出来た一対一を崩して二対一に切り替えただけなんだけど。プロレスのタッグマッチなら反則なんだろうけどね。恋愛魔法ってプロレスだったっけ?」
「大体わかったわ、明石。やっぱりただの不良、問題児のようね。覚悟なさい」
「受けて立とうじゃないの。勝手にモラル押し付けられるのって嫌いなのよね」
にらみ合い対峙する二人を疑問の眼差しで見つめるつくしは常陸に訊ねた。
「常陸さんって質問されるの好きでしたよね」
「すきすきすきすき。超好き」
「決闘って何ですか?」
するとにらみ合う二人の間に常陸は割って入って「タンマ」と言った。
「この男が『決闘』の意味わかってないから説明する」
大きな溜め息をついてあからさまにうんざりする太秦。
「マジで? そんなことも知らないなんてどれだけモテないのよ」
桐花は太秦から視線を外さないでうんうんと素早く二回頷いた。
常陸は二人の間からつくしの横に戻るとコホンと小さな咳をした。
「決闘とは恋愛魔法における男の取り合いで最も公平なものと言われている。ルールは恋愛魔法を用いて対象となる男に最も好意を与えた者が勝者となる。一分を二回行い、三分を一回行う。一回終わるごとに二十秒の休憩が与えられる。二回終了時点で男はどちらが優勢か示さなければならない。そして三回目でどっちが好きかを決める。選ばれなかった方はこれからその男にアプローチすることは出来ない」
「嘘でしょ!?」
つくしは決闘の意味を知り思わず声をあげた。
「嘘じゃない。決闘は文字通り恋愛魔法使いの誇りと意地をかけた勝負。だから滅多に行われることじゃない。それくらいウズマサンはプライドを傷つけられたと見える」
「じゃ僕は入佐会がいいから青海さんに入れるよ」
「それは決闘が終わってから決めなさい」
常陸はつくしの肩をついて決闘を始めようとする二人の間に立たせた。
そして常陸は桐花の、竜田は太秦の三歩後ろに立つ。
「ついで説明すると決闘では一人アドバイザーを付けることができる」
つくしに向かって常陸が説明し、言い終わると同時に今度は竜田が声を上げた。
「それでは決闘をはじめます」
つくしはどうしていいかわからずキョロキョロと左右にいる桐花と太秦を見つめる。
「――開始!」
混乱するつくしを無視し勝負は始まる。
アピール開始の初手。
初手は大事で、ここで与えた印象は最後まで引きずる可能性が高い。しかし最初に決め技をしても効果は薄い。徐々にボルテージを上げていって決めが効果的である。スぺシウム光線、元気玉といった大技を初手で繰り出す馬鹿がいないのは誰もが知っていることだ。
最後につながり、会話の最中にその言葉がちらつくくらいの印象かつ好意を持たせる一言。それは魔法よりも恋愛のセンスというものが必要なのかもしれない。
そんな初手をまず取ったのは桐花だった。
つくしを指さしニヤリと笑い快活に言った。
「夢を叶えたいのならあたしを選ぶのが正解よ」
この言葉にいつも感情を露わにしない常陸は頭を抱えた。
そして当然のようにつくしは不快感を露わにした。
「なんですか。脅すんですか? さっきの勝負も見てて思ったけど本当に卑怯ですね」
つくしは桐花に背を向けて太秦に視線を合わせニヤリと笑った。
「青海さんは脅しとかしないでちゃんと僕を惹きつけることしてくれますよね」
「と、当然よ。入佐会は正直正義正確をモットーとしているのだから」
「愚直偽善変格の間違いじゃないの?」
「桐花さんは黙っていてください。もとより僕は入佐会に興味があったんですからあなたと話す必要なんてありません」
「へーい」
桐花は適当な返事をして唇を突き出しふてくされた態度を取った。
桐花は心が揺れ動きを確認し、太秦に大きく傾いていて鼻で笑った。つくしの言葉にツンデレ要素はなく、すべてまっすぐのようだ。
「さ、青海さん。僕に恋愛魔法を見せてください」
「で、でもさ、もう明石は白旗あげてる感じじゃん? わたし別に攻める意味ないよね」
「攻めないと僕明石さんの方を好きになってしまいます」
「冗談はよしなよ」
と笑いつつも念のため、太秦はつくしの好意を確認した。つくしの言葉通り、本当に桐花の方に心が少し向いていて、これは気が抜けないと気を引き締める。
「本気かよ。しゃあないな」
太秦は外見魔法によって頬を赤く声を少し色っぽく変え小さい声で言った。
「あんたに好かれたいのは入佐姉様の為なんだけど、その、わたしが恋愛魔法をかけれるってことは少しは気があるってのは理解してる? つまり少しは好きってことなんだけど」
これは決まったと浮かれ顔でつくしを見つめるも、つくしの表情はキョトンとしていた。
「知ってますよ。恋愛魔法は好意を持つ相手にしか使えませんよね」
「はあ? あんたさっき決闘の意味もわかってないって!」
「それとこれとは話は別です」
「入佐会のこともあんまりわかってないじゃない!」
「それとこれとは話は別です」
「何よそれ!」
イライラを全力で足に込めて太秦は地団太を踏んだ。スカートの捲れなど気にしないで。
それと同時に休憩時間を告げるタイマーが鳴った。
サポーターである竜田は素早く太秦に駆け寄る。対照的に常陸はゆっくりと歩いて近寄る。
太秦は駆け寄った竜田にイライラをぶつける。足にはすべて伝わらなかったようだ。
「何なのよアイツ! 全然つかみどころないんだけど」
「落ち着いて好意は優勢なんだから」
「どれだけ?」
「えっ?」
言いたくなさそうに竜田は顔をしかめる。太秦は自分で確認してもいいのだが、休憩中に魔力を少しでも回復するためにサポータに調べさせるのが一般的だ。
「言いなさいよ。あいつに全力で好かれようとするなんてなんか癪だわ」
「差はかなり。勝ってる。」
「マジで? うそ。全然わたしの話に食いついてなかったでしょ? どこにツボったの?」
「……地団太でパンツちょっと見えた時にぐーんて上がった」
思わずスカートを抑える太秦。そして振り返りつくしの方を見るとニヤケ面を浮かべていて全身に鳥肌が立つ。と同時に休憩が終わるタイマーが鳴った。
変わって明石陣営の休憩時間。
ゆっくりと桐花に歩み寄った常陸はぼそりと言った。
「やばいんじゃない。最後のパンツ」
「他は予想通りだけどパンツのおかげで予定が狂った。あの痴女やるじゃない」
「最初に脅してなかったらもう少しましだったのに。感知能力はあってもそういうのわかってない」
「うるさいわね。どうせ勝負は三回目なんだから」
「追いつけなくなるくらい離されなければいいけど」
と軽く嫌味を言われ、気分が悪いまま明石陣営の休憩が終わった。
そして二回目の勝負の火ぶたは切られた。
が、二人はつくしを見つめるだけで行動しようとはしない。
「あれ。どうしたの。僕に恋愛魔法使ってくれるんじゃないの?」
戸惑うつくしにいら立ちを見せた太秦は声を荒げる。
「うっさいわね。集中してるんだからちょっとくらい黙ってなさいよ!」
その言葉を聞いて桐花はニヤリと笑う。
「もしかして太秦はつくしのこと嫌いになったんじゃないの?」
「えっ? 嘘? どうして。僕嫌われるようなことしてないよ」
狼狽しキョロキョロと二人を見た後、目をそらそうとする太秦につくしは近寄った。
「ね、どうして? どうして僕のこと嫌いになったの?」
太秦の顔が赤くなる。今度は外見魔法を使っていない。もちろん好きだからというわけでもない。
「こいつパンツ見られて怒ってるのよ」
「うっさいわね明石!」
「えっそうなの? 理不尽じゃない? そんな嫌われ方理不尽じゃない?」
「そうよね。あいつが見せてきたのに。てかパンツ見せて気を惹くなんて恋愛魔法使いの風上に置けないわよね、つくし?」
「はい。確かに。もしかすると入佐会って勝てば何してもいいと思ってる集団なのかもしれません」
「ちょっと! 勝手なこと言わないでよ」
「ではどうして入佐姉妹は仲間から票を奪うんですか?」
「簡単なこと。生徒みんなの平和を願っているのよ。恋愛魔法によって一般生徒の恋愛を壊さないように、人間関係が拗れないように」
「そのためならパンツを見せて気を惹くなんてこともしてしまうんですね」
明らかに軽蔑の目で太秦を見るつくし。
どうしてつくしがそこまで恋愛魔法使いにモラルを求めているのかわからない太秦はただただ混乱し、つくしを好きになる余裕なんてなかった。
「そんなことない。そんなことないんだから」
と繰り返すことしかできず、二戦目が終わり、つくしが優勢者の名前を口にした。
「ドロー!」
意気揚々と輝いた顔で。
追い詰められた太秦は休憩時間をただつくしを好きになるために使い、桐花は魔力を溜め、一発逆転を狙う準備をする。
つくしはドローと口にしたが、まだ七対三くらいで太秦が優勢だ。しかしその状態でドローと言うことは、いつ気持ちが転んでもおかしくない状況ともいえる。
休憩終了のタイマーが鳴り勝負を決する第三回が始まる。
太秦は顔をとろけさせ、目の前に理想の男性がいると暗示をかけ、桐花は両手で頬を強く叩いて、つくしの前に立った。




