22話 激甘彼氏とお泊りデート
それからの一週間。
驚くほどあっという間に過ぎていった。
仕事は忙しかったけれど、毎日届く孝也さんのメッセージに癒された。
帰り道、もしかしたらまた会える?
と期待して辺りをきょろきょろ。
残念ながら、そんな運命的なことは起こらず、待ちに待った週末を迎えた。
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ベッドの上に服を広げて、うーんと腕を組む。
がっつり荷物を持っていっても迷惑だろうし……。
こういう時、みんなどうしてるの?
「最悪足りないものは、あちらで買い足せばいいか!」
そうよ、服や化粧品なんて何とでもなる。
それより……心の準備の方が重要だわ。
きっと、今日、私は本当の意味で大人になる。
生理は終わった。
初めてだけど……上手くできるかな?
少しは勉強しておくべきかと思って、漫画アプリで「大人な漫画」を試し読みしてみたけれど……
なんと一コマ目から過激爆発……。
危うく鼻血が出そうになったけど、何とか堪えた。
あんなふうに、「溶けちゃいそう」になるの?
「こんなの初めて!」ってどんな感じ?
「もう何も考えられない!」ほどのことが、本当に起こるの?
やっとファーストキスを経験したばかりの私には、
その先の「営み」が、ものすごく高い壁のように感じられた。
それに、漫画とリアルは違うんだろうし……。
かといって、リアルなR18動画を見る勇気はない。
毎日、ぐるぐると頭で考えてばかり。
結局、たいした予備知識もないままに、孝也さんの家へと向かうことになった。
うちまで迎えに来ると言ってくれたけど、丁重にお断りして、孝也さんの家の最寄り駅で待ち合わせ。
到着したのは、住みたい街として人気のエリア。
ネットや雑誌で見たことはあるけれど、実際に訪れるのはこれが初めて。
改札の向こうに、嬉しそうな顔で手を上げる孝也さんの姿を見つけた。
「電車は混んでなかった?」
「全然。初めから座れたよ」
「お昼ごはんを食べてから、家に行こう」
さらりと放たれた「家」という言葉に、ビクッと反応してしまった。
心のどこかで、「する」ことだけが目目当てなの?
と問いかけてしまった。
あー、私のバカ!
せっかくの幸せな時間を、自分自身で台無しにしちゃってる。
孝也さんのことを信頼していないような気がして、罪悪感まで湧いてきた。
ダメだ!
別のことを考えよう!
私は、一旦頭の中を無にした。
孝也さんは、お泊まりセットの入ったバッグをスマートに受け取ると、開いた方の手を差し出した。
必死に笑みを作って、その手を握った。
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昼食を済ませても、孝也さんはすぐに家に向かうことはなかった。
街を案内するかのように、あちこちを見て回る。
私の緊張は、緩やかに解けて普段通りに笑えるようになった。
もしかしたら、孝也さんは私の心を見透かしているのかもしれない。
ごめんね。
一瞬でも不安になって。
もう、大丈夫だよ。
繋いだ手にきゅっと力を込める。
すると孝也さんも、優しく握り返してくれた。
アーケード街を歩いていると、雑貨屋さんの前で孝也さんは足を止めた。
食器やカトラリーをじっと見ている。
「孝也さんは、お料理をするんですか?」
「全然。できなくはないけど、いつも外食ばかり」
「じゃあ、夕食は何か作りましょうか?」
「ええ!て、手料理!?すごくうれしい!……あ、でも、うちに何もないな」
孝也さんは、残念そうに苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、スーパーに寄って行きましょうか?」
「うーん……、それが、食器とかも最低限しかなくて」
なるほど。
そこからだったんだ。
孝也さんは目をキラキラと輝かせて、「一緒に選んでくれる?」と聞いてきた。
「もちろん。お手伝いしますよ!」
そう返した瞬間、繋いだ手がくいっと引っ張られ、孝也さんの胸に引き寄せられた。
「一穂さんの好みの食器を揃えたい」
そう言うと、つないでいた私の手に、そっと口づけを落とす。
「これからの二人の生活のために」
私を見つめる目が、甘く揺れる。
多くの人が行き交う街の中。
私たちの周りだけが、時間が止まったような感覚。
孝也さんがゆっくりと顔を近づけてくる。
ま、まさか、こんなところでキス!?
ど、どうしよう!
困り果てた私は、目をぎゅっとつぶった。
「そろそろ、家に行こう」
耳もとでそう声が聞こえて、目を開けた。
ふっと笑った孝也さんは、私の肩に腕を回して歩き出した。
今日の孝也さんは、大胆だ。
心臓をバクバクさせていると、いつの間にか、閑静な住宅地に足を踏み入れていた。
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「おお……」
予想外の事態が起こると、人間は変な声を出してしまうらしい。
目の前には、おしゃれな低層マンション。
ロビーの向こうに見える中庭に、噴水が見えた。
どう見ても、賃貸ではなさそう。
もしかして……持ち家なんですか?
と聞きたかったけれど……さすがに、そういうことを聞くのは早いよね?
ロビーですれ違った、幸せそうな家族。
子供までもがブランドの服に身を包んでいる。
私は気理に押されつつ、孝也さんの後をついて行った。
「どうぞ」と言われて、玄関に足を踏み入れた。
どう見ても、子育て世帯が暮らすレベルの広さ。
「三部屋あるけど、使ってるのは寝室と書斎だけなんだ」
口から出たのは、「素敵ですね」と月並みな言葉。
廊下の先のリビングは、私のアパートの三倍はある。
けれど、あまり生活感がなかった。
使われた形跡のないキッチン。
リビングには、ダイニングテーブルと椅子、ソファーがぽつんとあるだけ。
こんなに広くて贅沢なのに、「寂しい部屋」と思ってしまった。
「地元に帰りたくなくて、両親にこっちに来てもらうために買ったんだ。でも、こんな都会じゃ落ち着かないって、一回来ただけ」
そう言った孝也さんの横顔は、少し寂しそうだった。
「一穂さんが来てくれて、うれしい」
孝也さんはそう言うと、ゆっくりと顔を近づける。
重なり合う唇。
固まった私の体に、孝也さんの腕が回された。
求められる嬉しさと不安。
腰に回された孝也さんの腕に力が入り、グッと体が密着する。
初めての時よりも、濃厚で丁寧な口づけ。
ゾクゾクとした快感が、襲い掛かる。
唇が離れたわずかな隙に、深く息を吸った。
「可愛い」
孝也さんは、親指で私の唇をそっとなぞると、もう一度、唇を重ねた。




