【幕間SS】11話に続くサイドストーリー②: 長谷川孝也
11話に続くサイドストーリー②です。
恋人の進展過程。
・手を繋ぐ。
・抱きしめる。
・キス。
パソコンの画面に映し出されるプラン表。
仕事が始まれば、じっくり考える余裕がなくなる。
東京に戻った俺は、連休最後の一日を有意義に使うべく、パソコンを立ち上げた。
新規作成した「一穂さん攻略」ファイル。
白紙の文書に、思いつくまま打ち込んでいく。
「キスの次は……『同衾』」
キーボードから手を離して腕を組む。
早すぎる?
ロマンチックなシチュエーションを、待った方がいいのか?
でも、どんな?
クリスマス?
先が長すぎるだろ!
絶対にそこまで、理性がもたない。
誕生日?
そういえば聞いてなかった。
1月だったらいいのに。
早急に確認しよう。
もし過ぎてたら?
1年も待つのか……。ワンチャン、今からでも……?いやいや、さすがに……。
部屋に響くため息。
直近のイベントは……
「ホワイトデー!」
そう声に出して、すぐに肩を落とした。
「……3月なんて遠いって。そもそも、バレンタインにチョコを貰えなかったらどうするんだ」
俺はAIに話しかけた。
「29年間、彼氏がいなかった彼女と、恋愛を進展させるための近道と、同衾までの期間は?」
抑揚が不自然な音声が、淡々と話し始めた。
『不安をひとつずつ解消し、安心できるという信頼関係を築くことが、結果として一番の近道となります』
「理想的な期間は?」
『交際開始から半年。無理のないペースで段階を踏むのが理想的です』
「半年!?最短は?」
『最短のタイムラインは以下の通りです。
・1~2回目のデート:手を繋ぐ・ハグ
・3~4回目のデート:キス・お家デート
・1か月~2か月:お泊りデート』
「なるほど」
『焦りすぎると、「体目当てかも」と警戒され、関係が白紙どころか、マイナスになる場合もありますので、彼女の言葉や表情から読み取ることが重要です』
「マイナス!?それだけは絶対にダメだ!」
『マイナス評価からの挽回は、新規構築よりも難易度が大幅に上昇します。まずは「手を繋ぐ」から始めることを推奨します』
「抱きしめた時、理性が持つかな……。体は正直だぞ。今だって……」
『性急すぎる振る舞いは、相手の不信感を89%上昇させます。最初のハグの目安は、最大10秒です。タイマーをかけますか?』
「短っ!」
AIは勝手にタイマーをスタートさせた。
「くそ、人の気も知らないで!5年もご無沙汰なのに……。なんて残酷なんだ」
スマホを手に取り、タイマーを切った時、「会社」と表示され電話が鳴った。
「もしもし?」
「お休みの所すみません!部長が提案された保守システムの件で、再度説明を聞きたいとクライアントの上層部から連絡が来ました」
「すでに資料は渡してあるんだ。営業だけで十分だろ?」
「それが、営業の牧原係長たっての要望なんです。今日の説明の際に、契約を取り交わしたいそうで……」
「はあ」とため息を吐く。
すでに、実務スケジュールは作ってあるし、すぐにでも着手できる。
今日決まれば、今季中に運用開始できる。
「分かった。何時だ?」
「15時です」
「承知したと、係長に伝えておいて」
「分かりました!」
マウスを動かし、シャットダウンをクリックした。
今まで、休日だろうと関係なく出勤してきたことが、仇となった。
今後、一穂さんとのデート中に呼び出されたら、きっとがっかりさせる。
自分でやった方が早いと、部下に任せずにきたけど、このままじゃまずいな。
最短距離を成功させるためには、二人の時間が必要だ。
業務分担を見直そう。
シャワーを浴びて、時計を見ると、12時を回っていた。
一穂さんは、昼休憩かな?
俺はメッセージを送って、スーツに着替えた。
ノートパソコンをビジネスバッグに入れ、スマホを見る。
「まだ、既読にならない?」
忙しいのか?
そう言えば、仕事の話はしなかった。
確か電気部品メーカー。
「男性社員が……多そうだな」
もやもやとした思いが湧いてくる。
いや、大丈夫。
どうせ今まで、一穂さんの魅力に気づかなかった、節穴男ばかりなのだから。
フッと笑みがこぼれた。
一穂さんの「初めて」は、全部俺のものだ。




