17話 デート
「変じゃないよね?」
鏡に映る自分を念入りにチェックする。
待ちに待った週末。
孝也さんとの待ち合わせまで、あと一時間。
春はまだ先だけど、浮かれた私の心にぴったりな、薄いピンクのスカートを選んだ。
紺色のニットで浮かれ気持ちを抑える。
ショート丈のコートを羽織ってもう一度、鏡を見た。
うん。
大丈夫。
片付いた部屋に目を向けて、「よし!」と拳を握り締めた。
いざ、二回目のデートへ!
今日は孝也さんの好みを聞き出すという、大事なミッションがある。
電車に揺られながら、指を折りながら確認した。
・甘いものは好き?
・今、欲しいものは何?
これくらいかな?
それとなく、良い感じに聞き出そう!
****
毎日通っているオフィス街。
休みの日に、わざわざ来たことはない。
ごった返した改札を出ると、券売機の横で孝也さんが手を挙げた。
「おはよう」
「おはようございます」
今日の孝也さんは、白いセーターに紺色のズボン。
足元は黒のスニーカー。
カジュアルな服装だと、私と同じ歳くらいに見える。
毎日、メッセージでやり取りしているけれど、直接会うのが一番うれしい。
孝也さんと並んで歩き出す。
すると、そっと手を握られた。
ああ、幸せすぎる!
一週間の疲れが、一瞬で消え去った。
****
初めて孝也さんとすれ違ったあの本屋。
紙とインクの匂いは、あの日と同じ。
降ってわいたお見合い話に驚いたっけ。
あの時は、二十九歳の女性という、勝手に描いたイメージに近付けようと、自分を押し殺していた。
孝也さんとの出会いがなかったら、きっと今も……。
隣に立つ孝也さんを見上げると、あの日出会った人とは思えないほど、優しい目で私を見下ろしていた。
好きなものを好きと言える強さを持つ私の「勇者様」。
あの日の自分に、「その人が運命の人だよ」って教えてあげたい。
店内を進んで、コミックコーナーに向かう。
私のお気に入りの少女漫画は、まだあの場所にあった。
「この本を見ていた時、孝也さんとすれ違ったんですよ」
たった数週間前のことなのに、妙に懐かしい。
「全然覚えてない」と残念そうに呟く孝也さんと一緒に、コミックコーナーを見て回る。
ずらりと並んだ本を見ながら、お互いに好きな漫画を教え合った。
「私、いつもアプリで読んでいるんです」
「俺、社会人になってからは、忙しくてあまり読んでなかったんだ。最近また読み始めて……。でも、長期連載の漫画は揃えてるよ」
大人気漫画を手に取りながら、孝也さんはつぶやいた。
「わあ、これ集めてるんですね!私、五十巻まで読みました」
「ちょうど、第四章が終わったところだね」
「そうなんです!仕事が忙しくなって、暫く読まなかったら、相関関係が分からなくなっちゃって……」
「いつか……初めから一緒に読み直さない?うちに全部そろってるから……」
ハッ!
今、さらりと家に誘われた!
なんてスマートなんだろう。
なんて答えるべき?
「はいっ」て言ったら、軽い女だと思われちゃう?
チラリと孝也さんを見ると、耳が赤く染まっていた。
また、勇気を出してくれたんだ!
かわいい。
嬉しい。
大好き。
心の中が、感情の大洪水。
考えすぎて、すぐにがんじがらめになる心。
孝也さんの真っ直ぐな言葉は、いつも私を救ってくれる。
私も素直でいよう。
まだ、顔を赤くしている孝也さんを、まっすぐに見つめた。
「ありがとう。一緒に読みたいです!」
不安そうに揺れていた瞳が、見開かれる。
その後すぐに、つないだ手にぎゅっと力が込められた。
****
友達と食事したことのある、カフェレストランでランチ。
メニュー越しに孝也さんを観察する。
今がチャンス!
それとなく、聞くのよ。
「孝也さんは、苦手な食べ物ってあるんですか?」
ひねりがない!
でもこれが私の精一杯なんです!
「特にないかな。何でも食べられるよ」
おお!
上手くいったんじゃない?
ということは……。
「何かデザートも頼みましょうか」
今度は、さりげなく聞けた!
「そうだね。俺はプリンにしようかな」
「じゃ、じゃあ私は、チョコレートケーキで」
「それも、おいしそうだよね」
お!
これは「チョコレート好き判定でいいのでは?」
でも、もう一押し!
「じゃあ、半分こしませんか?」
「……え?」
孝也さんは片手で、口を押さえた。
おや?
「チョコは苦手でしたか?」
「いや……半分こって。可愛いなって思って……」
照れたように顔を赤くする孝也さん。
キュン。
そんな、孝也さんの方が可愛いです!
ってそうじゃなくて。
孝也さんはチョコが好きと分かり、一つクリア。
「半分こは、子供っぽかったですね」
「ううん。癒される。一穂さんは言葉のチョイスがかわいいね」
うっとりと細められる孝也さんの瞳。
ストレートな言葉が、私に自信をくれる。
この瞬間を、心の宝箱にそっとしまった。
「またね」のあとの寂しさを乗り越えるために。
****
食事を終えて、商業施設の中を手をつないで歩く。
ここで、もう一つのミッション、『今欲しいものは何?』をさりげなくチェックする。
とは言っても、孝也さんは私に付き合って歩いてくれているだけ。
何かに興味を示す様子はない。
困ったなと頭を悩ませていると、ふと目に入った雑貨屋さんの店頭に、スマートウォッチが展示されていた。
そうだ!
メッセージ通知機能の付いた時計を、買おうと思っていたんだ。
「ちょっと見てもいいですか?」
私は時計を選びながらも、ミッションを忘れたわけじゃない。
店内で、孝也さんが何に興味を示すのか、こっそりリサーチ。
孝也さんは、食器売り場のマグカップを手に取った。
そういうのもありだよね!
よし決まった。
これで必要な情報はゲットできた。
ミッションコンプリート。
肩の荷が下りて、ホッと息を吐いた。
お手頃価格のスマートウォッチを手に取って、レジに向かおうとしたとき、背後に人の気配を感じた。




