14話 恋愛相談
部の飲み会でよく使う居酒屋さん。
店内は混雑していた。
「一穂さんは、アルコールに強いんですか?」
「そんなに強くないんですけど、お酒は好きですよ」
隣に孝也さんがいる。
それだけで舞い上がってしまいそうだった。
人前で、浮かれ過ぎないようにしなきゃ。
二十九歳の私が、高校生みたいにはしゃいだりしたら、いたいだけ……。
テーブル席に通されると、春香ちゃんが興味津々で話し出した。
「会社がこんなに近くなんて、すっごい偶然ですね!」
きらきらと目を輝かせる春香ちゃん。
「そうですね」
春香ちゃんを一瞥した孝也さんの目が冷たい。
なに?
どうしたの?
賑やかな店の中で、私たちのテーブルはしんと静まった。
「と、とりあえず、みんなビールでいい?」
佐々木君がそう言うと、止まった時間が動き始めた。
「一穂さんもビール?チューハイとかがいい?」
メニューを見ながら、孝也さんが体を近づけた。
「大丈夫です!私、ビール好きなんです。孝也さんは?」
「じゃあ同じで」
さっき感じた冷たさが嘘のように、孝也さんは優しく笑った。
とりあえずのビールで乾杯。
途端に佐々木君が溜息を吐いて、少しおどけたように話し出した。
「聞いてくださいよ。五年も付き合ったんです!結婚も見据えて、同棲し始めたばかりだったのに……。超エリートだったら、振られないんですかね……」
いたたまれない。
孝也さんに絡まないであげて。
「もしそうだったら……この歳まで独身じゃないですよ」
ん?
孝也さんに振られた経験が?
いやいや、普通はそうだよね。
今までのスマートさから考えても、彼女の一人や二人いたはず。
「でも」と孝也さんは話を続ける。
「そのおかげで……彼女に出会えたので」
キュン……。
人前なのに、堂々とそんなことを言うなんて……。
孝也さんが、好きすぎる!
嬉しさと恥ずかしさで頬が火照った。
「いいなあ!」
春香ちゃんはため息交じりにそう言うと、寂しそうな表情を浮かべた。
「あれ?付き合ってた彼氏さんは?」
「別れました」
「ええ!上手くいってたのに」
「半年付き合って、結婚前に同棲しようって話になったんです。一緒に住んでみないと、分からないこともあるじゃないですか」
佐々木君も孝也さんも頷いている。
恋愛上級者の集まりの中で、肩身が狭い。
「えっと……問題があったの?」
「しばらくは、私の部屋はキープしたままがいいかなって思ったんです。会社に近いし。でも彼は信用できないって……」
「ああ……」と男性陣から声が漏れた。
「それはダメなの?」
「価値観の違いかな。お互いの気持ちの温度差とか信頼とか……」
孝也さんは、苦いものを飲み込んだような顔でそう言った。
「そうなんだ」
と言いつつも、よく分からない。
なんだか、置いてけぼりにされたような気分。
孝也さんの言葉の端っこに見え隠れする、過去の恋愛。
私の心は、針で刺されたようにチクチクと痛んだ。
気にしたって、仕方がないことなのに。
そっと孝也さんを見ると、酔いの回ったうっとりとした目で、私を見ていた。
ドキン。
これまでと違う、熱を持った眼差しに、心がざわつく。
なぜか恥ずかしさが込み上げて、飲み物を飲むふりをして目をそらした。
これは……なに?
佐々木君が話し出すと、なぜだかホッとした。
「その彼氏の気持ち、僕も分かるな。あんまり頑なだと、さすがに不信感を持つよ。お金もかかるし」
しょんぼりと肩を落とした春香ちゃんが、ため息を吐いた。
「昔、同棲した彼に、追い出されたことがあるんですよ。それがトラウマで……」
「ええ!知らなかった!大変だったね」
「……また、出会いを探すのかと思うと、なんだか疲れちゃって」
「好き同士で付き合ったのに……難しいね」
佐々木君も春香ちゃんもいい人なのに……どうしてうまくいかないんだろう。
結婚って、やっぱりハードルが高いのかな?
「心配しないで。俺は……尊重するから」
私に聞こえる程度の、小さな孝也さんの声。
同時にテーブルの下で、そっと手を握られた。




