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勇者とお見合い~お相手は、本屋で見かけた強面の勇者!?~  作者: 夏生たえ


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10話 恋心

通りの街灯がともり始めた頃、


「この先、三百メートルで目的地に到着します」


とナビが告げる。


実家が近づくにつれ、私の心はぎゅっと痛んだ。


あんなに楽しかったのに、どうして今はつらいんだろう?


初めて感じる、切ない胸の疼き。


みんな、こんな思いを抱えながら恋愛しているの?


水中で溺れているかのような息苦しさに襲われて、思わず孝也さんに甘えたくなった。



――もう少し一緒にいたい。



私は、グッと両手を握り締め、そんな気持ちを押し殺した。


余裕のある女性でなくちゃ、孝也さんには釣り合わない。

うざい女だって思われたくない。




私は重要な会議に臨むときのように、自分を奮い立たせた。


「今日は本当にありがとうございました」


顔に張り付けた、きりっとした営業スマイル。



私は感情に勝った。

これこそ大人の恋愛。


心の中で自分をほめたたえた。




「明日……何時の新幹線ですか?」


「十二時三十分の……」


「じゃあ、十時に迎えに来ます」


「えっ!?」


「駅まで送りますよ」



感情に勝ったはずの私の心が、グラグラと揺らぐ。



「いえ、そんな……」


さすがに、そこまで甘えるわけにはいかない。

次に会った時には、私がスマートにリードしようと……思っていたのに。


家の前で車を停めた孝也さんは、こちらを見てフッと笑顔を見せた。



「迎えにきます」



張りぼてだった「大人の女性」は、簡単に崩れ去った。



「ありがとうございます。……うれしいです!」



気の利いた言葉を見つけることができず、私は素直にそう言った。

孝也さんの目が、優しく細められる。


一瞬でもこの人を怖いと思った自分が、今は信じられない。



もう一度お礼を言って、車を見送る。



「明日も……会える」



この約束は、私の不安定な心を柔らかく包み込んだ。



****



「一穂ちゃん!お見合いうまくいったんだってね」


玄関を開けると、弟祐樹の婚約者、葉月ちゃんが顔を出した。


七年前から付き合っている二人は、今年の秋に結婚する。

葉月ちゃんはよくうちに遊びに来ていて、いつの間にか本当の姉妹のように仲良くなった。



「そうなの!あのね……」


舞い上がったこの気持ちを分かち合いたい!

と話し始めた時、リビングの扉の隙間からこちらを見ている母を発見。




こ、怖い!




「葉月ちゃん、私の部屋に行こう!」


「うん?いいけど……」


母に気付いていない葉月ちゃんを連れて、そそくさと二階に上がる。



****



「連絡先、交換したんだ!彼に合わせて、アニメ映画を選ぶなんて優しいね」


「私も興味あったし……」


「いやいや、ポイント高いよ!だから、メールアドレスと電話番号を教えたんじゃない?」


「そうかな?」


「間違いないって。明日も迎えに来てくれるんでしょ?相手は本気だね」


「そ、そう思う?」


「間違いない!親同士が知り合いなんだし、適当なことできないよ。来年には結婚してたりしてね」


「ま、まさか!まだ、付き合ってもいないのに……」


葉月ちゃんは、ずいっと私に詰め寄った。


「付き合ってるも同然じゃん!」


そうなの!?

大人の恋愛は、告白をしないのかな?


恋愛漫画を思い出してみると、大人の恋愛は……大人の展開から始まることも多いわけで……。


経験値0の私の顔が、カッと火照った。


ま、まさか明日、大人の展開に発展する?

いやいや、時間ないし……。


脳裏によみがえる記憶。

街で見かけた大人向けのホテルの壁にぶら下がっている、「ご休憩 一時間 ○○○○円」の看板。


うちから新幹線の駅までは、電車を乗り継いで一時間。


孝也さんは十時に迎えにくるって言った。


ボンッ

と一気に全身が熱くなる。



「二人ともご飯よー」


一階から聞こえる母の声。



私の妄想がこれ以上膨らまずに済んだ。


心臓が……もたないよ。



****



着替えをするために残った私は、スマホを手に取る。


もう、家に着いたかな?

お礼のメッセージを送る?

それとも電話がいいかな?


さっきの妄想を引きずってる私の胸が、ドキドキとうるさい。


やっぱり、まだ電話はハードルが高い。

東京に帰ったら……、かけてみようかな。


アプリを開いて、メッセージをタップ。

たった一言のお礼の言葉を、何度も書き直す。


だって、頭に浮かぶ言葉は、業務用の畏まった言葉ばかり……。

恋愛に関しての語彙力が低すぎる。



ようやく送信ボタンを押した時には、十分も経過していた。



部屋着に着替えていると、ピコンと通知音。


「今日は楽しかったです。また明日」


はぁ……幸せ。


私は、スマホをぎゅっと抱きしめた。



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