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クレーマーキラー  作者: 大窟凱人


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8/10

常連さん

 俺のやってる床屋の常連さんに、杉本さんっていうおじいさんがいた。60代くらいだとは思うが、俺よりも20歳は年上だ。


 でも髪の毛はこの年齢の人にしてはふさふさで、よく通ってくれていた。


 2ヵ月に一度くらいかな? マッサージや、毛穴の掃除みたいなオプションも毎回つけてくれてる上客ってやつだな。


「ここに髪切りに来るのが楽しみでね」


「へえ。そりゃよかったっすわ」


「きみは腕もいいし、店は奇麗でおしゃれだし、いい感じにしてくれるから助かるよ」


 にこにこしながらそんなことを言う。うれしいねえ。


 杉本さんは毎年通い続けてくれた。でも、少しおかしいんだ。 


 10年目に差し掛かっても、まったく老けない。


 最初は、そういう人もいるんだなと、若さの秘訣なんかを聞いたりしていたんだけど……俺もとうとう還暦が近くなってきた。


 20年、杉本さんは俺の床屋に通い続けている。


 しかも、髪の毛の量も見た目も変わらない。俺の方がじいさんみたいだ。


「杉本さん、そろそろこの店、若いもんに譲ろうと思ってます。十分に働かせてもらいましたから」


「ほうか。ちと寂しいけど、しかたないのう。今までありがとうな」




 それから、たまに店に立ち寄って新店長に杉本さんは来てるか聞いてみたら、2,3回通ってそのあとはさっぱりだそうだ。


「店長、不甲斐ないです」新店長が言う。


「いいよいいよ。気にすんな」





 さらに月日は経ち、俺もいよいよご臨終ってな歳になった。


 地元で長すぎるぐらい床屋をやっていたから、最期が近いって時に、たくさん人が来てくれたんだ。


 床屋やっててよかったと思った。


 そんな時。


「久しいのう。店長さん」


 杉本さんが会いに来てくれた。


 見ると、最初に会った50年前とまったく変わらない見た目をしていた。


 まるで健康体で、背筋は伸びてて歩き方もしなやか。髪もふさふさ。俺なんてもう片手で数えられるくらいしか生えてないのに。


 ざっと計算して、110歳以上のはずなのに。


 俺がボケてると思っているならそれは違う。健康なまま大往生するとこだ。


「店長さんにはいい時間を過ごさせてもらったよ。ありがとうな」


「き、きてくれて……こちらこそ、あ、ありがとう……ございま……す」


 杉本さんはあの頃と変わらない口調で礼を述べ、俺はよぼよぼの声で返した。


 なあ。あの人、ほんとに人間だと思うか?

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