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クレーマーキラー  作者: 大窟凱人


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7/10

エコな木

 遺伝子操作の研究に成果が出た。二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出すという特性を最大限に高めた植物が完成した。


 それは盆栽のように佇みながらも、強化ガラスケースの中に充満していた二酸化炭素やスモッグを一瞬で吸い尽くし、酸素を放出。新しい二酸化炭素を求めてうねうねと動いている。すごい生命力だ。


 


 名付けてソラキ。我が国は新興国ゆえ、大気汚染が凄まじいのだ。これで出世間違いなし。研究補助金もどっさり出るに違いない。これまで私を見下してきた学者や世間を見返してやる。私はこの研究結果のレポートをまとめるため、実験室を出た。


「……く……あ……?」 実験室でPCに向き合っていると、妙な違和感に襲われた。視界の端がチカチカと火花が散ったように明滅し、指先が勝手にピクピクと震えだす。喉の奥が焼け付くように熱く、激しく咳き込んだ。「空気が……濃すぎるのか?」 肺が飽和し、全身の細胞が過剰な酸素に悲鳴を上げている。


「まさか」


 私は急いでソラキの元へ向かった。


 ソラキは強化ガラスケースを破壊して成長し、さっき見たときの10倍以上の大きさになっていた。


 触手のように伸びたツルが蠢き、二酸化炭素を吸収し続けていた。さっきの症状はやはり酸素中毒か。


 これほどとは。


 ソラキの進撃は止まらない。実験室の壁を突き破り、根は部屋を埋め尽くした。


 逃げるしかなかった。


 研究施設の外へ出て、振り返ると、外壁に亀裂が入った。


 その亀裂は施設全体へ広がり、中からソラキが飛び出した。


「ば、化物……」


 ソラキは我が国の汚染された空気をぐんぐん吸い込んでいった。そのたびに大きくなり、動きが鋭敏になる。


 私は軍隊を要請し、ソラキを葬ろうとした。


 しかし遅かった。


 ツタが人間まで襲い始めたのだ。


 屈強な兵士たちの銃火器による猛攻をもろともせず、彼らを突き刺し、巻き取り、潰す。


 近寄るのは危険すぎる。軍部は後方からの爆撃に舵を振り切った。


 これには一定の効果があったが、それも束の間。


 突如、地中からソラキの枝が飛び出し、軍隊の本拠地にいる兵士たちを拘束した。


 枝と根は地中を這い、音や振動を頼りに獲物に忍び寄っていた。


 それも信じがたい速度で。


「メーデーメーデー! 応援をたの……ぐあああああ!!!」


 軍隊は一人残らず潰され、ソラキに吸収された。   これに味を占めたのか、ソラキは拡大しながら、国中のあらゆる人間と動物を栄養源にした。我が国の人口は世界でもトップレベルだったから……。


 加速度的に成長し、もはや自国だけでは止めることはできなかった。


 国の機関に属しているため私は国外へと逃れることができたが、国民はほとんど死に絶えた。


 


 汚染された空気と死肉を喰らいながら、ソラキは国外へと勢力を伸ばす。


 国連はこれを世界大戦規模の緊急事態だと宣言し、アメリカをはじめとする大国がソラキの殲滅へと踏み切った。


 ドローン兵器を大量投入し、何ヶ月もの時間を経てソラキは我が国もろとも焼き尽くされた。


 この悪夢のバイオハザードの原因は、もはやうやむやになり、誰にも特定されていない。


 だが、私は罪悪感で潰れてしまいそうだった。


 ソラキに、世界中のあらゆる食虫植物と貪欲な繁殖力を持つ植物、それに加えて私の……人間のDNAを混ぜてしまったばかりに、大勢の人が死んでしまったのだから……。

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