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クレーマーキラー  作者: 大窟凱人


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4/10

正夢日記

 夢日記をつけるのが趣味なのだが、最近どうも、夢で見た出来事が現実に起き始めている。


 昨日の夜に見た夢は、職場で密かに憧れている先輩とランチを共にするという内容だった。それが現実に起きたのだ。部署も離れていて、ほとんど接点なんかなかったのに、向こうから誘ってきた。


 これだけじゃない。昔の友達と居酒屋で飲んでいる夢を見た。それも現実になった。他にもたくさん。


「おかしい気がする」


 と、俺は独り言ちた。


 普通夢はもっと支離滅裂だ。過去の夢日記を読み返してみても、アクションゲームをやり込んだ日の夢なんかもう、機械を乗り回している重力無視の夢だったし、ストレスが溜まっている時の夢は悪夢だ。そういう夢はめっきり見なくなった。実際に起こり得るものに限定されている。


 なにか恐ろしくなって、俺は夢日記をつけるのをやめた。すると、夢の出来事は現実にならなくなった。日記を書くことが重要だったのか。


 それからも夢は見続けた。甘い夢ばかり。俺の心の奥底の願望をかなえてくれるような。彼女が出来たり、絶世の美女と一夜を過ごしたり、仕事で出世したり、宝くじが当たったり。


 意図的な何かの誘惑だと思った。もし俺がこれらを日記に書いたら、すべて現実になる。大きなしっぺ返しが来るんじゃないかと。


 耐えた。でも、それも二週間程度が限界だった。


 その日は、2億円が入ったアタッシェケースを拾い、それがバレないという夢を見た。ちょうど、仕事量と責任は増えるのにまったく上がらない会社の給料にうんざりしていた俺は、正夢日記を書いてしまった。


「一度くらい、いいだろう」


 夢は現実になり、俺は億万長者になった。反動で悪いことが起こるんじゃないかとビクビクしていたが、そんなことはなかった。この正夢は、もしかするとただの幸運かも。


 俺はこのありとあらゆる願いが叶う正夢日記を毎日書いた。欲望はすべて叶い、毎日遊んで暮らすようになった。


「あは。あはははは。最高だ」


 それから三年の月日が流れた。すると今度は、退屈が俺を襲った。 当初の興奮は、いつしか薄れていった。毎晩、派手な夢を見て、書いて、翌朝にはそれが予定された出来事として淡々と消化されるだけ。ありとあらゆる願いは正夢日記を書けば叶い、達成される日々。大豪邸で、金だけのつながりのある友人とも呼べない仲間たちとビリヤードやゲームをして遊び、世界旅行もした。豪遊だ。だが美しい景色も美味い料理も次第に飽きてくる。妻は正夢日記によって寄ってきた女。自分の意思や愛があるなんて信じられない。


「つまらない。退屈に殺されそうだ」


 一本600万円もする味のしなくなったワインを、水のように飲みながら呟いた。


 そんな矢先、かつての平凡な生活を送っている夢を見た。鬱々とした表情で満員電車に揺られる、よれたスーツを着た俺だった。富も、夢も希望もない若者だ。


 目が覚めて、こう思った。


「これだ! これこそ、俺が求めていた姿だ! この最悪な状況こそ、張り合いがあり、戦いがいがある人生というもの。少なくとも退屈はするまい」


 その日の夢を日記に書いた。  


 翌日、目が覚めたのは豪華なベッドの上ではなく、狭いアパートの布団の上だった。


 俺は元の人生に戻った。 以前と違うのは、苦労も娯楽として楽しめるようになったのと、どんなに幸運な夢を見ても、夢日記をつけなくなったことだ。あんな人生はもうこりごりである。


 ただひとつ気がかりなのは、今のこの人生は果たして、正夢日記によって与えられた偽物なのか、それとも本当に戻ってこられたのか、まったくわからないことだ。だが、よく考えてみれば、それは今も昔も似たようなものだから偽物だろうが本物だろうがどちらでもいいことだろう。

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