第十六話
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「ヴァレンシュタイン男爵、ヴァレンシュタイン子爵、随行者は前へ」
名前を呼ばれたのでウーゼルさんの前に出て、カラードさんに倣って膝をつくと、
「ヴァレンシュタイン男爵はヴァレンシュタイン子爵の名代として軍を率い、危険を顧みず単独で街へと潜入、その際に今代の雷と遭遇し戦闘を行い、これを撃退。子爵軍は男爵の指示に従い、ファブール軍の複数の拠点を制圧。その後、連合軍と戦闘を繰り広げているファブール軍の背後を取り、連合軍勝利のきっかけを作るという活躍を成した。これにより軍功第一位とし、ヴァレンシュタイン男爵を子爵に、ヴァレンシュタイン子爵を伯爵とし、ヴァレンシュタイン家に金貨二千枚を与え、今年度の税を二割免除とする」
俺は褒美に関して何も聞かされていなかったので、当然驚いたのだが……それ以上に、周囲で聞いていた貴族の驚きはすごかった。
俺が子爵になりカラードさんが伯爵になることで一度に二つの爵位が上がったので、領地や収入の規模は変わらなくとも、影響力はかなり上がったことだろう。
「ありがたき幸せにございます。今後、より一層陛下と国の為に精進してまいります」
カラードさんに合わせて頭を下げると、元の位置に下がるように言われたので移動したが、前に出る前と戻る時では、周囲の俺たちを見る目が変化したように感じた。
敵対派閥からの警戒や敵意が増したのは当然だが、味方のはずの同派閥の貴族からも、妬みの視線が向けられていた。
「フランベルジュ伯爵、エリカ・フランベルジュ、随行者は前へ」
俺たちの次は、エリカと伯爵たちだ。
流石に伯爵は慣れているようで足取りはしっかりとしているが、エリカとエイジはやはりどこか足元が危なっかしい。まあ、先程のエイジのように、足をもつれされることは無かったのでかなり気合を入れていたのだろう。
「フランベルジュ伯爵は、連合軍を十全にまとめあげ、侯爵家の暴走によって後手に回ってもなお引かず、これを撃退しファブール軍を王国内より追い払った。エリカ・フランベルジュは、膠着状態になりかけた戦場を少数で突破しファブール軍を混乱させながら背後に回り、ヴァレンシュタイン子爵軍と共に挟み撃ちにした。これにより軍功第二位とし、フランベルジュ伯爵家に金貨五千枚と今年度の税を三割免除とし、エリカ・フランベルジュには名誉男爵の位を与えるものとする」
フランベルジュ家への報酬は、ある意味ヴァレンシュタイン家よりも破格と言えるだろう。
与えられた金貨と免税額はうちよりも多いが、元からこれは率いていた軍の規模の違いも関係しているからだと思う。
ただ、それに加えてエリカまで名誉とはいえ男爵位を得るとなると、違ってくる気がする。
何せヴァレンシュタイン家は、俺が今代の雷を撃退したことで子爵に上がりはしたものの、カラードさんは前々から伯爵に上がるという噂が出ていたのだ。
ウーゼルさんとの関係などを考えれば、カラードさんの陞爵は元からの既定路線で今回でなくてもよかったはずだ……と、他の貴族はいぶかしむだろう。
詳しい理由は分からないが、ウーゼルさんがカラードさんに対してフランベルジュ伯爵家に劣るような褒賞出すくらいなら、素直にヴァレンシュタイン家を第二功にするだろう。
もっとも、そう言ったことを抜きにするなら、俺とカラードさんが同時に陞爵しているので、多分多くの人はヴァレンシュタイン家の方が上だと見るだろう。
「次に軍功第三位のカルナディオ家とカレトヴルッフ公爵家だが、こちらはまだ戦場にいることを理由に来れないとの返事をいただいている為、戦功の発表だけにいたします。カルナディオ伯爵家は戦場で目立った功績はないものの、連合軍の副官として主に裏方を務め、物流等に不備がないように活躍し、カレトヴルッフ公爵家は万が一に備え待機し、現在は連合軍の後を引き継いでファブールを警戒。主にこれらの功績をもって、軍功第三位とする」
本人たちが来れないのは仕方がないにしても、代理すら寄越さないというのは驚きだった。
見方によってはウーゼルさんに対する不敬と取られてしまうかもしれないが、公爵はウーゼルさんの義弟なので許されているというところなのだろう。
それと、未だに公爵家に対して強引に連合軍に加わったとの見方をする者もいるので、それらに配慮したという可能性もある。
「その他、連合軍に参加した者たちには軍功第四位と言う形で、金貨千枚と今年度の税を二割免除とする」
最後に他の貴族にも功績があったという形で報酬が出る聞かされ、一気に盛り上がったのだが……
「陛下、先陣を切ったフルハリィ侯爵家の功績はどうなるのでしょうか⁉」
空気の読めない一人の貴族が、ウーゼルさんに異を唱えた。しかもあろうことか、戦場から逃げ出した侯爵家の失態を、先陣を切ったと歪曲している。
この発言に、フランベルジュ伯爵を始めとした連合軍の貴族たちは怒りの表情を浮かべ、周囲の貴族の多くは嫌悪するような顔をしていたが、その中でウーゼルさんはというと、
「先陣? 余はそのような報告は受けておらぬな」
無表情で発言をした貴族に答えた。
「カミーユ・フランベルジュ伯爵! フルハリィ侯爵軍は、戦場でどのように行動していた!」
「はっ! フルハリィ侯爵軍は、連合軍が到着する前よりファブール軍と対峙する形で陣を張っており、連合軍の協力要請を無視しておりました! フルハリィ侯爵軍が動いた時、我々はヴァレンシュタイン男爵……子爵の報告を待っており、警戒はしていたものの戦いの準備が完全であったとは言い難い状態でした!」
「ジーク・ヴァレンシュタイン子爵! フルハリィ侯爵軍が動いた時、子爵は敵陣に潜入していたと聞いたが、その時の様子を話せ!」
「私はその時、今代の雷の様子を窺っていたのですが、隙が見当たらず一度フランベルジュ伯爵に報告に戻ろうとしていました。その途中でファブールの陣地の近くを通っていた時に、兵士たちが侯爵軍が攻めてきたと騒ぎ始め、続々と飛び出していくところを目撃しています。恐らくですが、ファブール軍は侯爵軍の動向をスパイを使って詳細に集めており、襲撃が近いと見て準備をしていたのだと思われます。その際、私は予定通り連合軍に戻るかどうか悩んだのですが、このまま戻るとファブールは侯爵軍を打ち破った後にそのままの勢いで連合軍に攻め立てると予想いたしました。そうなれば、今代の雷が後詰めとして参戦する可能性が非常に高く、連合軍は非常に不利な状況に追い込まれると愚考し、私は単独で今代の雷と戦う決意を固めました」
あの時のことを思い出しながら話すと、ウーゼルさんは難しい顔をしながら頷いた。
「成程、ただでさえ勢いづいている相手に、今代の雷という戦力が加わるとなると、負けは濃厚になるであろうな……ところで、連合軍としてはどうやって今代の雷を相手にするつもりだったのだ? まさか、ヴァレンシュタイン子爵が単独で押さえることを前提に作戦を立ててようとしていたわけではあるまい?」
ウーゼルさんは、分かっていながらあえて聞いてきたみたいだが……流石に事情を知らない人ばかりのところ「はい、その通りでございます!」などと言うわけにはいかないので、伯爵と打ち合わせていた通りに返答することになった。
「陛下、そのことについては私からご説明いたします。まず、ヴァレンシュタイン子爵は、隙あらば今代の雷を仕留めるつもりではあったのですが、流石にそれは難しいということで、あくまでも大きな隙があれば襲い掛かるという選択肢を持ったまま、今代の雷やその周辺のファブールの陣地の情報収集にあたり、我々はその情報を基に作戦を立てるつもりでありました。一応、最初の報告では、連合軍と侯爵軍で足並みを揃えて襲い掛かり、今代の雷が戦場に出る前にファブール軍を蹴散らし、余力を大きく残した状態で今代の雷に全軍をもって当たる、もしくは不利な状況を悟らせて撤退させるという風に考えておりました。しかし……」
そこで伯爵は一度区切り、発言をした貴族やその派閥がいる方を睨みつけ、
「侯爵はこちらの話を全く聞こうとせず、送った使者を門前払いにしました。その為、我々はあの場で出来る最上と思われた作戦を変更することを余儀なくされました。そしてその日の夜中、侯爵軍は我々に何も知らせずにファブール軍に攻撃を仕掛けたものの無様にも敗北し、そのまま戦場を離脱いたしました。その際、我々のいる方角に逃げたせいで、ファブール軍はその途中で準備の整っていない連合軍に攻撃目標を切り替え、それまでの準備が無駄になる形での戦闘をする羽目になったのです。ただ運のいいことに、ヴァレンシュタイン家が軍内での自らの信用と評判を落としてまで行った作戦のおかげで、ファブール軍の奇襲部隊が機能することなく、更には子爵自身が命を懸けて単独で今代の雷を抑えたことで、練度で勝る連合軍が勝利を収めることが出来たのです! 結果だけを見れば完勝と言えるでしょうが、実際は薄氷を踏むかのようなギリギリの勝利であったことは間違いありません!」
伯爵が睨みつけながら話すと、睨みつけられた貴族たちは黙って下を向いていた。
「確かに、余に上がってきた情報とほぼ変わりないな。もっとも、余の知っている情報では、ジーク・ヴァレンシュタイン子爵に今代の雷は負けて敗走し、ヴァレンシュタイン軍が敵陣を突破してきたエリカ・フランベルジュの部隊と合流したことで、ファブール軍は切り札であり最大戦力の後詰めを失った上に挟み撃ちにされる形となり、それがきっかけで連合軍の勝利となったという話が加わっているがな」
これで、フルハリィ侯爵軍がやったことは無駄で邪魔で最悪の行動だったと、この場に居る誰もが理解したはずだ。
まあ、ファブール軍との戦争での論功行賞の場に、フルハリィ侯爵家の関係者が誰一人として呼ばれていないという時点で、王国がどういった評価を下していたかというのは分かり切ったことだっただろう。
もっとも、侯爵家のお仲間としては、分かり切っていたことだとしても異を唱えなければいけない立場だったのだろうが……そのせいであの発言をした貴族は、空気が読めないどころか現状が全く理解できていない奴だと、誰からも認識されることになってしまった。この先は無いか真っ暗だろうな。
「そんなことよりも、本来なら盛大に祝い宴を催したいところではあるのだが、勝利を収めはしたものの完全にファブールの脅威が去ったとは言えない状況である。よって、今回はささやかながら昼食会という形で皆をねぎらいたいと思う。この後、特に用事がないのであれば、参加して貰えるとありがたい」
サプライズ的な言い方をするウーゼルさんだが、俺たちはここに来る前に聞かされていたので全員参加が決まっている……と言うか、全く知らずにこの後予定を入れていたとしても、国王にああいった言い方をされれば、どうあってもこちらを優先させるしかない。
そのまま、論功行賞は終わりということで、俺たちは係に案内されて会場へと移動すると、ウーゼルさんはささやかと言っていたが、どう見ても学園の卒業パーティー以上の規模の料理が用意されていた。
流石にこの人数でこれだけの量では残ってしまうだろうと思ったが、どうやらこれは最初に見せる為に集めているそうで、この後で各料理を取り分けてこの場で食べる分と参加者への家族への土産の分と、王都にある孤児院などに送る分とに分けられるとのことだった。
貴族はこういった時、見栄の為に食べきれない量を用意して、残ったら捨ててしまうと思っていたが違うようだ。
まあ、ヴァレンシュタイン家やウーゼルさんが他の貴族と違う考えであったり、孤児院などに分け与えることで評価を高めようという目論見があったりするのかもしれないが、どちらにせよただ捨てるのはもったいないのでこの考えには賛成だ。
というわけで、少し遅れてやってきたウーゼルさんの乾杯の音頭の後で、俺は係が参加者用に取り分けた料理に向かっていき……
「ジーク、それは私が狙っていたのよ! 返しなさい!」
「いや、ディンドランさん、すでに自分の分確保しているよね!?」
ディンドランさんとの醜い死闘を繰り広げることになってしまった。
今回は連合軍で知り合った面子がほとんどで、楽しめるようにと立食パーティーだったので特に問題は無かった……
「二人共、いい加減にしろ!」
と思ったのだが、流石にはしゃぎ過ぎだとカラードさんに叱られてしまった。
まあ、少しディンドランさんに合わせて調子に乗ってしまったのは事実なので、カラードさんに恥をかかせてしまって申し訳ないなと自分でも反省したのだが、何故か周りからほほえましいものを見るような視線を向けられているのに気づき、少し困惑してしまうのだった。
特に連合軍に参加していた貴族たちからは、自分が食べて美味しかったものや、住んでいる地域の名物や特産品を教えてくれるなど、ファブール軍と対峙していた時とは真逆と言っていい程にこやかに話をすることが出来たのも驚きだった。
「それにしても、エリカが大人気だな」
「あら? ジークはエリカが気になるの?」
今回、爵位が上がったのは俺とカラードさんに、少し言葉の使い方が違うかもしれないがエリカを含めた三人だけだった。
その中で、カラードさんは元から近々伯爵に上がるだろうと言われていたし、俺もアーサーとの関係から将来的に上がると見られていたようで、パーティー中に話しかけてくる人たちは割と大人しくしていた。
それに対し、エリカが名誉男爵位を与えられるとは誰も予想していなかったからか、話しかけて行った人たちの熱量がすごかった。主に、息子や親族の嫁やその候補にしたいと言った意味で。
意外にも、そう言った話に慣れていないエリカを守る為に、伯爵は常にエリカのそばについて防波堤となり、ついでに別方向から切り崩されないようにする為なのか、エイジもすぐ近くに置いて目を光らせていた。
「それはそうでしょ。俺もあれと似たような場面に遭遇したことがあるから、多少はその大変さを理解しているし」
俺の場合は卒業パーティーで相手は同い年の女子たちだったから対処は割と簡単だったけど、それでも対処した後のことを含めて面倒だったのだ。
それがエリカの場合、話しかけてくるのはほとんどが貴族の当主かそれに近い立場を持っているし、相手の中には伯爵位かそれ以上の人も含まれているので、俺の時とでは対処の難しさが段違いだ。
「ん? ……伯爵、さっきから俺の方をちらちら見ているけど……あれは助けろってことなのか?」
「そうじゃないの? ジークは連合軍内で、エリカとエイジとセットみたいに思われていたからね」
それは初耳なのだが……まあ、エリカとは同級生だし、エイジは後輩で俺の代わりをやってもらっていたので、少しは手助けになるようなことをやってもいいだろう。
念の為カラードさんにそのことを伝えると、
「そうだな。フランベルジュ伯爵もそろそろ休憩を入れた方がいいだろうし、ここで一度エリカ嬢をジークが預かるのも悪くないな。それに、エリカ嬢はまだアーサー殿下に挨拶できていないだろ? ジークが連れて行ってやると言い」
確かに、王家主催のパーティーでまだアーサーに挨拶していないのは問題だろう。
今ウーゼルさんは席を外しているみたいなので、アーサーだけの状態なら双方の顔見知りである俺が仲介するのは問題ないはずだな。
そう言うわけで、伯爵たちの方へ歩みを進めると、
「……何か、皆避けて行くんだけど……何でだ?」
俺に気が付いた貴族たちが避けてくれて、自然と伯爵たちのところまで道が出来た。
「多分、ジークの前を塞ぐと何をされるか分からないから、先に離れておこうとか言う感じじゃない?」
「成程……とは言わないよ? それよりも、なんでディンドランさんまで付いてくるの?」
歩き出すと、当然のように俺の後ろについてきたディンドランさんだけど、カラードさんのそばに居なくてもいいのかと思ったら、
「こういった場では下手に護衛を連れていると、話し相手に自分は信用されていないのではないかと思われることがあるのよ。今回、カラード様は飛び入り参加したみたいなものだしね。その点、ジークのそばだと、連合軍に参加していたからついていても問題は無いと見られるだろうし、何よりも何かあった場合、すぐに止めに入らないといけないからね」
いや、こんな場所で襲い掛かってくる奴なんていないだろ……と言いかけて、多分ディンドランさんが言っているのは、相手ではなく俺が手を出す可能性があるので、いざという時は俺の方を止める為だろうと理解して口を閉ざした。
「フランベルジュ伯爵、良ければエリカとエイジをアーサー殿下に紹介したいと思うのですが、どうでしょうか?」
どうやって声を掛けるのが正解なのか分からなかったので、とりあえずカラードさんに言われたことを理由にしてみると、
「おおお、そうしてくれると助かる! エリカ、くれぐれも殿下に失礼のないようにな!」
と、伯爵が即座に反応するとほぼ同時に、周囲の貴族たちがざわついた。
「流石にジークと違って、殿下に失礼な態度はとりません」
少し不貞腐れた様子でエリカが返していたが、エイジの方は先程の失敗があるので少し自信なさげな様子だった。
まあ二人共、特にエリカは他の貴族に囲まれるのには辟易していたようで、伯爵にぶつくさ文句を言いながらも、俺たちと一緒にアーサーのところに行くことになった。
「アーサー……殿下、ご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、構わない。あちらの方で話そうか?」
俺が声を掛けると、アーサーは吹き出しそうになったのをこらえ、他の貴族から離れた場所を指定した。
その場所へ向かっている間、アーサーの肩が何度か小刻みに揺れていたが、最後の方はかなり収まっていたので峠は越えたのだろう。まあ、
「殿下、どうかなさいましたか? 何かに耐えていたようですが、お腹でも痛いのですか?」
「ぶふっ! や、止め……く、苦し、いぃっひっひっ!」
立ち止まって振り向いた瞬間に、アーサーの目の前に移動してそう言ってやると、ついにアーサーはこらえきれずに吹き出して、大笑いを始めた。
勝った……そう思った瞬間、
「ジーク、流石にふざけ過ぎよ!」
後頭部を鈍器のようなもの……みたいな硬さの拳で殴られてしまった。
「は、犯人は、エリ……カ……いたっ!」
「何度もふざけない!」
「ぐふっ! ふっふっふっ!」
エリカはアーサーの為を思って行動したのだろうが……逆にそれがアーサーを追い詰めていた。
「殿下、申し訳ありませんでした! ジークに嵌められてしまい、つい……」
「いや、いい。私としても珍しいものを見ることが出来たからな。ジークがヴァレンシュタイン家の関係者やエンドラ殿以外で、あんな風に怒られるところを見たのは初めてだった」
ひとしきり笑い終えて落ち着いたアーサーに、エリカは自分も俺の術中に嵌められてしまったと勘違いして謝罪していたが……俺としてはそんなつもりはなかったし、何なら俺はエリカに殴られた被害者だと声を上げて抗議したい……が、それをするとまた殴られそうなので、ここは黙っておくことにした。
ただ、このままだと居心地が悪いので、
「アーサー、こちらはフランベルジュ伯爵家のエリカだ。エリカとは何度か会ったはずだから知っているな? それでこっちがエリカの弟で、フランベルジュ伯爵家嫡男のエイジ・フランベルジュだ。今回の戦争で、俺の身代わりとして待機していた」
話を変えようと思い、二人を紹介することにした。
「ああ、エリカ嬢のことは知っている。少し前のジークの卒業試験でも顔を合わせたしな。ただ、弟の方とは近くで顔を合わせるのは初めてかな?」
「そ、その節は、大変失礼いたしました! 多大なご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした!」
アーサーがエイジに顔を向けて笑顔を見せると、エイジは顔を青くしながら腰を直角に曲げて謝罪の言葉を口にした。
途中で舌をかまなかったのは、これまでに何度も練習をしたからなのかもしれないが……アーサーはその様子を見て苦笑いを浮かべていた。
「あ~あ……アーサー、後輩をいじめてやるなよ。ウーゼルさんとアナ様にチクるぞ」
「いや、私はそんなつもりは……ごほんっ! エイジ、顔を上げなさい」
俺がふざけた感じで言うと、アーサーは否定しようとしたが、すぐに俺が仕切り直すきっかけを作ろうとしていると気づいたようで、居住まいを正してエイジに声を掛けた。
「確かにあれは浅慮な行動だったかもしれないが……」
そして、アーサーはそこで言葉を区切り、何故か俺に視線を向けると、
「姉の周りにあんな得体のしれない男がうろついていたら、過剰に反応してしまうのは仕方がないのかもしれないな。それに、落とした評判はすぐに取り返したのだ、気にすることは無い。そして、今回の功績もある。今後、あのことで馬鹿にしてくる輩がいれば、戦争で勝利の一因とも言えるような功績を上げてからこいと言ってやれ」
などと、俺に仕返しをしながらエイジを鼓舞していた。
「アーサー、お前なぁ……」
助け舟を出してやったのに……と言おうとした俺の言葉を遮ってアーサーは、
「ところで、ジークはエリカ嬢との婚約はいつ発表するんだ?」
訳の分からないことを言い出した。




