第十七話
「で、殿下! 何を言っているんですか⁉」
「アーサー、ちょっとすまん……熱は無いな。喉は……腫れているという程ではないみたいだが、ちょっと赤いか? だけど、風邪で錯乱していると言った感じではない……まさか、脳みそがやられたか? エンドラさんに相談してどうにかなるか? いや、まずはウーゼルさんに報告を!」
慌てるエリカをよそに、俺はアーサーがおかしいと感じ、すぐに額に手を当てて熱を測り、口を開かせて喉を見てみたものの、素人目ではもしかしたら少し荒れているかもしれない程度しか分からなかった。
そうなると、専門家に見せなければいけないが、俺にはそう言った専門家に知り合いは居ないので、エンドラさんなら知っているかもしれないし、もしかするとエンドラさん自身がアーサーの病気が分かるかもしれないと思ったが、まずは保護者であるウーゼルさんに報告しなければ! ……と考えてウーゼルさんを呼ぼうとしたのだが、
「いや待てジーク! 私は正気だ! むしろ、その反応をする二人の方がおかしい! まずは落ち着け! 他の皆が見てる!」
アーサーが必死になって俺を止めようとした……が、アーサーの腕力で止まるような俺ではなかったので、ついでに直接アーサーがおかしくなったのをウーゼルさんに見せようと思い肩に担いだところ、
「ジーク、少し落ち着きなさい」
後ろからディンドランさんに頭を鷲掴みにされて止められた。
「ディンドランさん、ハゲる!」
「ディンドラン、そのままジークを止めておいてくれ」
ディンドランさんが俺の髪の毛を掴んでいる間に、アーサーは俺の肩から降りて距離を取った。
「ジーク、まずは話を聞け。私は正気だ。病気でも頭がいかれたわけでもない。先に言っておくが婚約がどうこうという話は、今一部の貴族の間で出ていることだ。そして、その原因はジークとエリカ嬢自身にある」
そこまで言ってからアーサーは、
「ここだと人が多すぎる。別の部屋で話そう」
俺たちに注目している他の貴族たちを見回しながら言った。
「早速だが、何故そのような噂が出たかを話した方がいいだろうな」
「頼む」
「お願いします」
空き部屋に移動して椅子に座るなり、アーサーはすぐに本題に入った。
「ことの初めは、ジークの迎えにエリカ嬢が同行したことだ。普通なら、同級生と言うだけの異性の迎えに、他家の令嬢が同行することは無い。ただ、その時はジークの居場所の情報がフランベルジュ伯爵家からもたらされたものだったということで、もしかしたらその可能性があるのではないかと言う程度ではあった」
「ではあったとか言っているけど、そんな噂話を聞いた記憶がないんだけど?」
「私もありません」
そんなのを聞いたら、間違いなく話している奴をその場で尋問していただろうから、俺が忘れているということは絶対にない。
それに、俺だけでなくエリカも聞いたことがないとなれば、その初期の噂はアーサーの勘違いではないのだろうか?
「まあ、これはごく一部で流れた噂ではあったし、証拠と言えるようなものがない状況で、わざわざ危険を冒してまで本人たちに聞くようなことはしないだろう」
危険ってなんだ? ……と思ったが、ほんの数秒前に話している奴を見つけたらその場で尋問するだろうとか考えていたので、あながちアーサーの言っていることは間違っていないのかもしれない。
「次に、卒業試験でのジークのエイジに対する対応も噂の原因の一つだな。あの時のジークは、対戦相手の学生に対しては容赦なく心を折りに行っていたが、エイジに対してはかなり手加減しているように見えた。まあ、そう見えただけで、実際には一対一でやっている分だけきついものだったかもしれないが、それでも見ようによってはきつい稽古、それこそ試験にかこつけて、大勢の前でフランベルジュ伯爵の代理として躾けの一環でやったと言われればそうだったかもしれないと見る者もいた」
確かに、エリカからボコボコにするように頼まれたし、伯爵とも知り合いでフランベルジュ伯爵家がウーゼルさんの派閥と知っていたので、どうにかしようという気持ちがあったのは確かだ。
「それでも、伯爵家とジークの仲が少しでもこじれるような素振りがあれば噂などでなかっただろうが、実際は逆に近づいている。王都の地下に巣くっていた人攫い集団から子供たちを救い出したり、騎士団同士での合同練習などな」
確かに、エイジがきっかけでヴァレンシュタイン家とフランベルジュ家の仲が良くなったのは確かだ。
「さらには、ジークからフランベルジュ家に連合軍の話を持って行ったこと。しかも、自分はフランベルジュ家の下に進んで付いて連合軍設立の手柄を全て譲り、二番目の立場にすらならずにフランベルジュ家を目立たせた。まあ、それは全てジーク自身が目的の為に伯爵家を利用したというのが本当のところだろうが、それでも伯爵家に特に配慮していたというのが見て取れた」
まあ、利用させてもらう以上、伯爵家に出来る限りの配慮をするのは当然だろう。それに、ただでさえ作戦の都合上、たくさんの迷惑をかけてしまうことは確定していたので、配慮しながら結果を出さなければならなかったのだ。
そう考えたら、今になってまたあの侯爵家の行動に腹が立ってきた。
「そしてとどめに」
まだあるのか! と思うながら、他に何をやらかしたんだっけ……と考えていると、
「エリカ嬢が戦場であるにもかかわらず、朝早くから夜遅くまでジークのテントに入り浸っていたというのが一番大きい」
まさかの俺ではなく、エリカのやらかしだった。
「そもそもの話、戦場に貴族の令嬢が駆け付けるのがおかしいし、自分のところではなく他家のテントにばかり出入りするのはもっとおかしい。もっと言えば、同学年と言うだけの理由で、異性のところに朝から晩までとなると常識を疑ってしまう」
アーサーの辛辣な物言いに、エリカはすごいショックを受けている。
そんなエリカを見て、エイジは何か助け舟を出そうとしているみたいだが、何も言えないでいた。
「で、殿下、あれはその……ジークの代わりに待機していたエイジが心配だったからで……」
何とか言葉を絞り出したエリカだったが、
「そうだとしても、それを知っている者はあの時点ではほぼいないに等しい状態であったし、今でも多くの者は事情を知らないままだろう」
と返されて撃沈していた。
「ただ、そんな非常識だと言える行動も、ジークと婚約していたからだとなれば話は変わってくる。まあ、それでも非難してくる者はいるだろうが、自分の父親と恋人が仲たがいをしているとなれば、どうにかしようと動くのは当然だと見る者の方が多いだろう。だから私は、いつ正式に婚約を発表するのかと聞いたのだ」
確かにそう言った事情があるのなら、アーサーが気になって聞いてくるのも分かる……が、
「それにしては、かなり細かいところまで戦場でのことを知っているみたいだな……まさか、暗部を忍び込ませるだけじゃなくて、自分の目で直接確かめに来ていたとか言わないよな?」
俺の言葉を聞いて、エリカとエイジは驚いた表情になり、アーサーは苦笑いを浮かべていた。ただ、ディンドランさんに変化はなかったので、知っていたか途中で気付いていたのだろう。
「流石に私自身がこそこそと行くわけにはいかないさ。ただ、ジークは暗部を見つけるたびにからかっていただろ? だから暗部の連中が躍起になって、聞いてもいないことまで事細かに知らせてくるんだよ」
からかったとは失礼な! 俺はただ、王城で見たことのある顔を見つけるたびに、大変だろうからと食事と飲み物の差し入れをしただけだ。
まあ、警戒と注意喚起もかねて、出来る限り背後から話しかけるようにはしていたから、毎度驚かれていたけれど……もしも俺の勘違いで敵方の諜報員や工作員だった場合、痛い目に会う可能性があったからこそ、ちゃんと顔を確認した上で、念を入れて後ろから声を掛けただけの話だ。
そう答えると、アーサーは「それが彼らに火をつけたんだ」とあきれていた。
「まあ、実際には王家だけでなく、連合軍に参加していた貴族も各自で情報を集めていたみたいだから、そこから知り合いの貴族に広がったり、もしくは俺が気が付かないところに王国側の諜報員が紛れ込んでいたんだろうな」
例えば、カレトヴルッフ公爵家なんかはカルナディオ家以外にも人を入れて情報を集めていただろうし、他の貴族の中にも、公爵家と同じような方法を使っていたことだろう。
「それは当然だろう。ただでさえ連合軍などという珍しいものを作った上に、他国との戦争など久々のことなんだ。もし連合軍が敗れるようなことがあれば、次は自分たちが出なければならないかもしれないし、その時の為に連合軍の戦い方や敗北の原因、そしてファブールの戦力や戦い方と言った情報は生命線とも言えるものになる。出来る限り詳細かつ正確で信用できるものを欲しがるのは、当然の結果だ」
「それに、連合軍はその性質上、スパイを忍び込ませやすいしな」と言って、アーサーは笑っていた。
まあ俺も、情報は何よりも大事だと思ったからこそ、わざわざ味方の貴族たちの不評を買ってまで、秘密裏に今代の雷に探りを入れていた。
だからこそ、王国側であり味方と思われた諜報員に関しては、俺の邪魔になりそうな奴以外には手を出さなかったわけだし。
「まあ、私や他の貴族がそう言った情報を持っている理由は分かってもらえたと思うが……そう言った者たちのおかげで、ジークとエリカ嬢が婚約しているという噂が流れているというわけだ。そして、これは私個人の意見ではあるが……二人はこのまま婚約した方がいいと思う」
アーサーは真面目な顔でそう言うと、「ここから先は私個人の考えとは言え、両家の領分に入り過ぎる内容だ。ヴァレンシュタイン伯爵とフランベルジュ伯爵を呼んでからにしよう」と続けて、外で待機していた護衛に二人を呼びに行かせた。
「殿下、ジークとエリカ嬢のことでお呼びだと聞きましたが?」
「ああ、呼び出して済まない。二人の噂の件で、私の考えを伝えようと思ったのだが、伯爵たちも同席してもらった方がいいと思ってな。それに、これはあくまでも私個人の考えであり、王家として何ら強制するものでは無いことを理解してほしい」
アーサーは部屋に入ってきたカラードさんとフランベルジュ伯爵に席を勧めると、個人的な意見だと念を押した上で話を再開した。
「まず、二人には先に話したが、今回の二人の婚約の噂について、その原因は二人のこれまでの行動にあるというのは理解していると思う。その上で私は、このまま二人は本当に婚約した方がいいと思っている。その理由として、二人の距離が近すぎることだ。これが恋人同士であるというのなら問題になることは無いだろうが、ただの友人であると言うのなら、夜遅くまで同じテントにいたというのは問題になりかねない」
確かにそうなのだが……エリカが夜テントにいる時、俺は今代の雷を調べに言っていたので居なかったんだけどな。まあ、それが通じないというのは理解しているが。
アーサーは、カラードさんと伯爵が頷いたのを確認して、
「そして、今回の件でジークは子爵に、エリカ嬢は名誉男爵へと陞爵した。言い方は悪いかもしれないが、二人の価値が跳ね上がったのだ。そして二人共、婚約者のいない状態であるとなれば、その座を得ようと騒ぎが起こるのは明白である。それならばいっそのこと、気心の知れた者同士、これを機に婚約してはどうかと思うのだ」
アーサーは名案であるかのように言うが、俺たちの価値を跳ね上げさせたのはお前の父親なんだが……という言葉は何とか飲み込み、カラードさんと伯爵の方へと視線を向けてみると、
(まんざらでもなさそうな顔をしているな……)
どうやら二人としてはありだと考えているようだ。確かにヴァレンシュタイン家としては、伯爵家とはいえ成り立てなので同格以上の縁が一つでも欲しいだろうし、フランベルジュ家としては王家と懇意にしているうちの縁は魅力的だろう。
ただ、それが理由だとすると、俺としてはあまり賛成できないのだが……と思っていると、
「と言うのは、王族としての建前だな。ついでにその建前に加えるものがあるとすれば、私が王位に就いた時に、派閥の伯爵家同士が縁続きになっていれば、地盤の安定と強化に繋がるというのもあるな。そして、王族ではない私の考えとしては……この機会を逃すと、ジークに合いそうな相手が現れないような気がしているのだ!」
アーサーが暴走を始めた。
「考えても見てくれ! ジーク程の実力があり顔も整っていて、財力と将来性もある! その気になれば、相手はより取り見取りなはずなのに、ジークときたら女性に興味を示さない! そんなジークが、例外的に親しくしている同年代の女性が、そこにいるエリカ嬢なのだ! だからこそ、友人としてはエリカ嬢を逃すような真似をしてほしくないのだ!」
などと力説し、カラードさんと伯爵と、ついでにディンドランさんは同感だとばかりに拍手を送っているが……その話の中心人物にされている俺とエリカは、アーサーの熱量についていけていなかった。
いやまあ、確かに貴族としていずれは相手を見つけなければと思っているが、最悪養子でもいいと思う程度には先送りにしていい話だと考えていたので、いきなりそう言われても頭が付いていけないのだが……と思いながら、何となくエリカの方を見てみると、
「……何よ」
エリカとばっちり目があってしまった。そして見間違いでなければ、エリカの顔が少し赤い気がした。
「アーサー」
「何だ、ジーク?」
とりあえずエリカの反応は置いておくとして、熱弁を振るうアーサーを一度止めて、
「本心は?」
アーサーを睨むと、
「……いやまあ、私が結婚して子供が出来た時、ジークにも子供がいると嬉しいし心強いなと……それと、もしもまたジークが家出して国を出た時に、エリカ嬢と結婚していれば戻ってくる可能性がぐっと上がるだろ?」
俺の視線に耐えられなくなったアーサーが、あっさりと白状した。
確かに先程話していた内容も本心ではあるのだろうが、いつものアーサーの取るような行動ではなかった。もしもあれが酒で酔っていたからだとすれば、俺はそこまで怪しまなかっただろうが、そうでないのは知っていたので、他に何か隠しているだろうと思ったのだ。
「いや、流石に今の環境で家出はしないと思うぞ」
「その、『しないと思う』が怖いんだが……それに、私とジークの出会いは少し遅かったかもしれないが、私としては一番の親友だと思っているし、何なら兄弟に近い存在だとすら思っている。そんなジークだからこそ、子の世代も繋がっていてほしいと思うのは当然ではないか?」
確かに、俺にとっても一番の親友と言えばアーサーということになるだろう。それは、もし仮に俺の友人が数多くいたとしても変わらないだろうという確信はある。まあ、ウーゼルさんとの付き合いもあるし身分の差もあるので、俺としては兄弟というよりは従兄に近い存在と言った感じだが、アーサーの感覚とほぼ変わらないと言える。
「それと、ジークにはエリカ嬢しかいないだろうと言うのは、一番強く思っていることだ。私としてはジークが結婚する場合、その相手にはジークを止めることが出来る人物でいてほしいと思っている。それが出来てジークが心を許していそうなのは、エリカ嬢だけしか私は知らな……うん、知らない」
最後の間は気になったが、アーサーの言いたいことは理解できたし、そう言った意味ならアーサーがエリカを押すのは当然かもしれない。
ただ、友人としてではなく、結婚相手となれば俺とエリカの気持ちもあるし……と考えたところで、
「それにジーク、少し考えてみてくれ。もしもここでこの話が流れ、エリカ嬢が他の男性と婚約したとする。そうなった場合、ジークとしてはどんな気持ちだ?」
エリカのではなく俺の気持ちのことを聞かれたので少し考え、
「寂しい? いや悲しい? 分からないが……ただ、もやもやするような感覚はある」
そう答えた。
俺にとって同級生どころか歳が近くて交流がある人物となると、王都ではアーサーとエリカしかいない。
その内、アーサーは結婚したとしても王都から離れて暮らすということはまずないだろうし、結婚後もこれまでと同じとまではいかなくとも、今後も会って遊んだり話したりする機会は多いだろうが、エリカはそうはいかないはずだ。
エリカは結婚すれば相手の領地に行くかもしれないし、そうでなくても同級生だからと言って、家族でもない異性と会う機会は格段に減るだろうし、そもそも公式の場以外で既婚者が異性と会っていたと他に知られれば、貴族でなくとも様々な問題が湧いてくるだろう。
そこまで考えて俺の気持ちを言ったのだが……俺の答えに、アーサーどころかこの場に居る全員が驚いた顔をしていた。
「何だ?」
「いや、ジークがそこまで素直に言うとは思っていなくてな……正直言って、ジークのことだから、適当に誤魔化そうとするかと思っていた」
アーサーを軽くにらむと、アーサーは驚いた表情のままでそんなことを言い出した。
とても失礼な奴だな……と思って、カラードさんとディンドランさんを見ると、
「私も、殿下と同じだ」
「私もね」
二人もそんなことを言っていた。そして、視界の隅に入っているフランベルジュ伯爵も頷いているので、アーサーやこの二人と同じと言うことだろう。
ただ、エリカの方は見るのが躊躇われたので確認していないが、何となく驚いているような感じはするし、その隣のエイジは何となく不機嫌そうな雰囲気もある。
「ま、まあ、もしエリカ嬢が他の男と婚約すれば、ジークは今後その感覚を味わい続けることになるんだぞ。だから」
「フランベルジュ伯爵、エリカと婚約するにはどんな条件がありますか?」
アーサーが何か言いかけていたが、こんな感覚を味わい続けなければならないのなら、そうならないように動いてみようかという気持ちになった。
「ふんっ⁉ お、俺……としてはジークなら条件を付けないでもいいと思うが……いや、まずは私よりも、エリカに聞いてみたらどうだ⁉」
いきなり話を振られると思っていなかったのか、伯爵は慌てた様子を見せながらエリカに聞けと言った。なので、
「エリカ、婚約してもらえないか?」
「ふおっ⁉ えっ? 本気で言ってるの⁉」
何故そこで驚くのかと思ったが、普通なら貴族の婚約などは一家の長が決めるようなことだから、いきなり判断を任せられて驚いたのかもしれない。
「いや、流石にこんなことをふざけて言う気は無いぞ」
そんなことをしたら、間違いなく殴られるし……とは言わずにエリカの目を見ると、
「う~……ん~……む~……」
エリカは目をそらしながら唸り始めた。そして、
「分かったわ。その申し出受けましょう。ただ、婚約したからと言って、私はイチャイチャするような真似は出来ないわよ?」
「いや、それは俺も出来ないしする気もないし、期待もしていない」
と笑って返したところで、
「冗談だ! すまん!」
エリカが動く気配がしたので、即座に謝った。
「よし、それじゃあ、早速父上に報告して、皆にも発表しよう!」
すっかりその存在を忘れていたが、アーサーが嬉しそうに立ち上がり部屋から出て行こうとしたところで、
「「ちょっと待った!」」
何故かカラードさんと伯爵から待ったの声がかかった。
「え~っと……両伯爵は、何か問題でもあるのかな?」
アーサーが困惑した様子で、何故ここにきて待ったをかけたのかと問いかけると、二人はどちらが先に答えるかを譲り合っていたが、
「殿下、二人の婚約は私としても喜ばしいことでございますが……この場で正式に決めたとなるとですね、その妻が……」
「殿下、我が家もでございます」
カラードさんがそう答えると、伯爵も頷きながら同意した。
「あ~……確かに、奥方に相談もせずに決めるのは問題があるな。それなら、この話は一旦持ち帰り、奥方とよく相談するといい。私の方も、父上にそう言った話が出ていると報告するに留めて、両家から正式な報告があるまで大人しく見守るように言っておこう」
アーサーはフランベルジュ家のことはともかく、ヴァレンシュタイン家のことはよく知っているから、もしここでサマンサさんをのけ者にして婚約の話をまとめたとなると、後で面倒なことになるのがすぐに理解できたのだろう。
まあ、流石にサマンサさんが直接アーサーに文句を言うことは無いだろうが、話を聞いたアナ様がアーサーに……と言うことは高い確率であり得るし、その場合は俺にも矛先が向く可能性が非常に高いので、そうした方が安全だ。
「ではそう言うことで……フランベルジュ伯爵、しばらくの間騒がしくなると思いますが、よろしくお願いします」
「いや、こちらこそよろしく頼む。妻との話し合いは、恐らく明日までには答えが纏まるはずだ」
「こちらもでしょう。それでは、早ければ明日にでもご挨拶に向かわせていただきます」
それを聞いた伯爵が、自分たちが挨拶に向かうと言い出し、そこからどちらが挨拶に出向くとか言う話になったが、最終的に結婚するとなるとエリカが嫁入りするからということで、伯爵たちが我が家に来ることに決まった。
その間、俺とエリカはというと、
「どちらでもいいような気もするけどな」
「いや、普通に考えるならジークが家督を継ぐから、嫁入りする私の方が行くのが礼儀よ……多分」
と言った感じで、二人が譲り合っているのを少し呆れながら見ていたのだった。
ただまあ、エリカが『嫁入り』と言った瞬間、何故か無性に気恥ずかしくはなったけど。
補足として、アーサーがエリカを推したところで言いよどみましたが、アーサーが条件として出した『ジークを止められる』かつ『ジークが心を許している』人物が、エリカ以外にディンドランとエンドラが当てはまると思いついた後で、すぐに気が付かなかったふりをしたからです。




