式神
「…風が止んだ。」
唐突に静けさが押し寄せ、厚い雲の切れ間から日差しが見え始めた。
山小屋の外に出でみると、山頂の一部に突き刺さるその光は、まるで何かを指し示しているかの様である。
「あそこだな。」
「ああ、行ってみようぜ。」
俺達はその日の光を頼りに、山頂への道を登って行くが、案の定途中から登山道を大きく外れていかなければならなかった。
「見つけた。あれだ。」
岩の陰になる様に作られた祠は、切れた標縄は地に落ちて、鳥居も半ば朽ちて倒れる寸前であった。
「どう思うよ。俺は嫌な感じがしないけどな。」
もっと、おどろおどろしい気配を想像していた俺は、正直言って肩透かしされた気分であった。
「そうだな…だが、巫女様が言ってたのは、間違いなくこの祠だ。」
「調べてみようぜ。」
俺達は作法通りに鳥居を潜り、祠にご挨拶をする。
宮川は祝詞を唱え、柏手を3拍打つと、祠の扉を開けた。
「これは、人の髪の毛か?」
『シャン…シャン…シャン…シャン…』
突然、祠を囲む様に四方八方から鈴の音が響き渡る。
『シャン…シャン…シャン…シャン…』
「こいつら何処から湧いて出たんだ?」
俺達は、既に十数人の山伏に完全に包囲されてしまっていた。
「これは奴等が使う式神だ。術者は他に居る。侮るなよ。そこそこ強いぜ?」
そう言うと、宮川はふっと気配を消した。
「ああ、こいつ等は任せとけ。」
俺は太刀を抜くと、ゆらゆらとその一体に歩み寄る。
式神達は人の形をしているが、人では無い。姿に惑わされると斬られてしまうだろう。
「…ふっ…」
案の定、俺が斬り掛かったその式神は、体制もそのままに横にズレて躱して来た。
「成る程な。足を使って移動する訳でも無しか。」
俺は、後から振り下ろされたもう一体の鉄杖を半身に躱すと、その胴体を斬り上げた。
確かな手応えと共に、その式神はただの紙切れとなって消えていく。
そして、それが合図であったかのように、一斉に俺を中心に回り始めた。
「面白いね。かごめかごめ…か?」
思わず口元が緩んでしまうのは、決して余裕があるからでは無い。
俺は深く深く呼吸を沈め、気を練って行く。そして、更に深く…
「…来い。」
一斉に向かって来る式神に、俺は太刀を前方へ水平に一太刀、返す刀で後方に一太刀を浴びせた。
「ふん…大した事ねぇな…でも、ちょっと無理しすぎたぜ。」
式神は、全て紙切れとなって風に舞って行った。
『カランカラン』
俺の腕の血管は、所々破れて血が噴き出ている。もう太刀を支える力も残っていないようだ。
大技を使ったお陰で、俺の手足の筋肉と血管はズタボロになっているだろう。もう、満足に動けなかった。
「まあ…後は、宮川がうまくやるさ。」
俺は、近くの岩に腰を下ろすと、使い切った気を再び静かに練って行った。




