龍
翌朝、夜半から降り出した雨がより一層激しさを増し、空は真っ黒な雲に覆われていた。
強い風が山裾から吹き上げる様に天に昇っていき、大きな雷鳴が轟く。
「凄げーな…これを見れただけでもここに登って来た価値があるぜ。」
「全くだな。素晴らしい光景だ。」
時折、視界を白く染める稲光が走り、山小屋を揺らすほどの雷鳴が襲って来る。
「痣持ちの事をよく知らないって事は、お前…龍の事もよく知らないだろ?」
「そんな事知らなくて当然だろ?でも、世間で描かれている様な龍は違う気がするよ。何ていうか、龍ってのは『力そのもの』なんじゃないかな…。」
「あん?なんだよ、分かってるじゃねぇか。『力そのもの』こそが『龍』だ。龍が暴れて暴風雨が起きている訳じゃ無い、これが『龍』なんだ。」
「あぁ…そうか…だからこんなに胸が高鳴るのか…。」
「そして、お前も『龍』だよ。」
その瞬間、景色は真っ白に染まり、空間が裂けるほどの雷鳴が轟いた。
「ハハッ!宮川にしては、面白いジョークだな。」
「良い機会だから、ドン亀での問の答えを聞かせてやるよ。お前…自分の名前を言ってみろよ。」
「あ?いや、俺の名は…えっ…いゃ…。」
「お前はな、何かの代償として、自分の名前を差し出したんだ。だからこの世に、お前の名はもう存在しない。」
「……。」
「そして、名前とは単に便宜上付けられているものでは無い。人として、最も重要な言霊なんだよ。」
「…そうか…。」
「人である事を捨て、自分を捨ててまで、お前が何を望んだのかは分からないがな。」
「そうか…なら、その望みがかなった時には…もうここには居られないだろうな…。」
「…俺には、そこまで分からんよ。」
俺達はそれっきり交わす言葉も無く、荒れ狂う窓の外を見つめていた。




