山小屋
「邪魔になるが、太刀を履いていくか。」
宮川が、珍しくそんな事を言い出した。
俺達は機動力を優先しているので、通常太刀を履くことは無いのだが、なんでも、巫女様に助言されたらしい。
「そうだな…俺もそうしろと妻に言われたよ。」
俺も家を出る時に、妻に真顔で太刀を手渡されたのだった。
「登山だと杖の方が扱いやすいんだがな。それだけの敵が来るんだろ。」
「足場が悪いしなぁ…太刀は不利だと思うんだが…。」
そして色々迷った挙句に、結局両方持って行く事に決めたのだった。
晴れた風の無い穏やかな日であった。
俺達は何事も無く九合目の山小屋まで到着する。
数日前から登山者を規制しているので、現在羊蹄山には俺達しか居ないはずである。滞在期間中の物資はオレンジに依頼して山小屋に用意してもらった。
「山頂の祠が数十年も行方知れずだなんて、違和感しかないね。」
「ああ、意図的に登山道を変えたかのか…結界によって近付けない、又は認識出来ないようにしてあるのかだな。」
山小屋の周囲を確認してから、中の様子を伺う。気配を探るが、何も感じられなかった。
それでも慎重に中へと入って行くと、小屋の隅々まで調べていく。違和感のあるものは無かったが、外は濃い霧が出て来て視界が遮られてしまった。
「あんなに天気が良かったのに、山の天気は予測出来ないものだな。」
俺達は、オレンジが用意してくれた荷物を解いて、食事の準備にかかる。
「霧の中には龍が居るのだと聞いたことがあったな。ほんとうなのか?」
「ああ、必ず居るというわけじゃ無いが、間違っちゃいない。」
「そうか…。龍神様、いつもありがとうございます。」
俺は、外の霧に向かってお祈りをする。
宮川は、そんな俺をじっと見つめていた。




