ボヤき
「あ〜、暑いな〜気持ち良いな〜よいしょっと。」
俺は、畑で新しい畝を作る為にスコップで土を起こしていた。俺にとって農作業とは生き方そのものだ。一つ一つが大切な御神事であり、祈りであった。
先日六十六歳の誕生日を迎えていた俺は、八十歳のおばあちゃんから「まだまだ若くて羨ましいね。」などとお祝いされたが、俺の頭の中では、「まだまだ元気なんだから、シャキッと働きなさい。」と翻訳されて聞こえてくる。
「女神様、俺はちゃんと役に立っているでしょうか…。」
不安になって、ついついそんな弱音も出てくる程に、顔には深いシワが刻まれている。
最近は常國の人々の生活も安定して、笑顔が多くなっている。様々な祭りが開かれて、季節ごとの祈りも定着して来た。
アイヌの人々も本来の文化を取り戻そうと、途絶えていた祈りを復活させている。
新しい世代が育つにつれて、國の在り方が次第に形を見せてきていた。
石黒が目指したのは、支配する事の無い統治である。
混乱の中から、数百人規模の集落が自然と形成されて、集落と集落の関係がそれぞれ作られて行った。
争いが無いとは言えないが、俺はそれが悪いとは思わない。違いを認め合い、譲歩し、相手との距離を決めて行く。その事に意味があると思うからだ。
「俺も道場で師範とかやりたいな〜。もうおじいちゃんなんだからさ、弟子とか育ててみたいよな〜。」
「はははっ!そんな事言ってたら、耄碌しちまうぜ?仕事だ、巫女さんが呼んでるってよ。」
宮川が、バイクで迎えに来たようだ。
「…これ終わってからじゃ、駄目なのか?」
笑いながら首を横に振る宮川を、恨めしそうに横目で見ながら、ついつい溜息を溢してしまう六十六歳であった。




