咲夜
「初めまして、咲夜さん。私は石黒といいます。」
「…こんにちは…。」
右手に包帯を巻いた少女…咲夜は、ベッドに横になったまま石黒をチラリと見ると、顔を背けた。
「少し話をしたいのです。そのままで構いません。」
石黒は、見舞いの花を持参した花瓶に生けると、部屋の椅子を引き寄せてベッドの横に座る。
「貴女の事は聞いています。あの二人は私の仲間です。ですから、そのつもりで話を聞いて下さい。」
石黒は、優しくゆっくりとした口調で話始めた。
「咲夜さんには、右手首の接合手術を施しました。術後の経過は今の所順調だと聞いています。これから治療を進めつつリハビリをして行くことになるでしょう。咲夜さんの行動に制限を設けるつもりはありませんが、護衛を付けさせて頂きます。」
石黒の後ろに控えていたカジュアルな服装の若い女性が進み出た。
「初めまして、柳沢です。咲夜さん、よろしくね。」
「治療には半年程の入院が必要となりそうです。退院後は、私達の札幌道場にてリハビリと修練をする事になるでしょう。申し訳ありませんが、これに関して咲夜さんに選択権はありません。」
咲夜は石黒に振り返り、その目をじっと見つめた。
「…私にあんた達の犬になれってこと?」
石黒は、笑顔でもない優しい眼差しで咲夜を見ていた。
「そうではありませんよ。貴女は命を狙われている存在です。咲夜さんが入院してから、既に三人の刺客を返り討ちにしています。貴女には最低限自分を守る力が必要ですよ。」
咲夜はハッとした顔で、暗い表情で視線を下げた。
「私が…その力をあなた達に使うとは思わないの?」
石黒は、少し間をとって咲夜と目線を合わせると、
「咲夜さんがそうしたければ、そうしたら良い。この常國とは、そういう國です。」
そして、石黒と柳沢は黙り込む咲夜を残し、病室を出て行った。




