鎮石
「車で行けるのは、ここ迄だ。この先は沢に入って上流を目指す。熊と男鹿に気を付けてくれ。」
この時期には、男鹿がハーレムを奪い合う為に気性が荒く、出会うと非常に危険な存在になっている。
俺達は周囲の気配を探りながら、縦に並んで沢を登って行く。だが半刻も歩くと、倒木が沢を覆うようになり、中々思うように進めなくなった。
「俺もこの先には行った事が無いんだが…。」
「もう少し進みましょう。この先です。」
「そうだな…。」
そして、草木を掻き分けるように暫く進むと、大きな岩から水が滴るような場所に辿り着いた。ここがこの沢の源流であった。
その大きな岩から滴る水が、地に落ちる丁度その場所に、こぶし大の黒い石があった。宮川の視線は、その石に釘付けになっている。
「これは…」
突然、宮川の気が膨れ上がり、その手がスゥっと石に触れる。
『…パンッ!!…』
宮川が触れたその黒い石は、粉々に砕け散った。
「これは、鎮石だ。隕石を使ってやがる。クソッ!!」
「宮川さん…術を不用意に破ると不味くないですか?」
石黒の言う通りだ。何時もの慎重な宮川らしくない。
「大丈夫ですよ。俺ならね…。コイツラの術は効かないんですよ。」
「…そうですか。でも、今のは私達に説明してから行動するべきだったと思いますよ。」
「そうですね…すいません。冷静さを欠きました。」
俺達はその隕石の破片を幾つか回収して、沢を下った。
「…加護か…。なあ、宮川。お前、龍の痣持ちか?」
宮川は、俺のその言葉に余程驚いたのか、阿呆な顔をして暫く俺を見つめていた。
「…はぁ…何でお前が知ってるんだよ。でも、まあ、お前には、伝えて置かなければな。石黒さんにも聞いて欲しい。」
そして、諦めたかのように話し出す。
「俺の一族は、龍を祖先に持ち、代々龍に仕えてきた家だ。そして数百年に一人、體の何処かに龍の痣を持つ先祖返りが生まれる。俺のようにな。」
宮川がシャツを脱ぐと、心臓辺りに手の平程の細長い龍の形の痣があった。
「この痣が全身に広がると、その龍に食い殺されるそうだが、俺のはまだまだ赤ん坊さ。でも、これのお陰で、俺には術も呪いも効果がないんだ。」
「成る程。ですが先程の様子ですと、術を掛けた者との因縁でも有りそうでしたが?」
「そうです。奴等と我等一族は太古の昔からの宿敵のようなもの…成る程。巫女様たちが、二人の役目と仰った意味がようやく分かりました。」
石黒は大きく頷くと、大きくくしゃみをした。
「こ、これは失礼しました。しかし、流石に冷えてきましたね。今日はもう、祠にご挨拶して帰りましょう。」
くしゃみの反動でズレた眼鏡を直しながら、鼻をすする石黒。
「あははっ!こりゃ大変だ。帰りに温泉でも入って行こうぜ。」
暗雲立ち込める状況であったが、俺達三人は温泉で背中を流し合い、暫しの休息を楽しんだのだった。




