常國
新政府は『常國』を名乗り、法を定めないままに統治を始める。國家の形ではないが、ただ一つ『お天道様に恥じぬ生き方をすること』という宣言が成された。
既存の國家の条件を満たしてはいないものの、ロシアと中国が認めた中立都市国家となる。
現代社会で初めての『道徳を基盤にした國』の誕生であった。
それに納得出来ない道民は殆どいなかった。
侵攻の際に日本政府が何の助けもせず、恐怖と絶望に押しつぶされていた時、彼等は難民を助け、人々に生きる勇気と生きる道を示してくれた。
ロシアと交渉して、道民の生活を…命を守ってくれたのだ。
「今日から三ヶ月間、希望者は本土に移動する事を認めます。ただし、再びこの常國に入る事は許可しませんので、良く考えて決めて下さい。」
石黒は、体制に不満のある者や、この地に骨を埋める覚悟の無い人々を國外に追い出すことにした。事実上の鎖国政策を取ったのだ。
自衛隊が治安維持部隊として機能した為に、以前に比べると治安はかなり向上している。しかし、建国間もない國の先行きに不安を抱えるのは、至極当然かもしれない。
「石黒は、以前から理想主義者だったのか?」
訝しげな表情を浮かべながら、宮川がボソリと呟く。
「あいつは国際政治学と哲学を学んでいる古典主義者だ。夢見がちなボンクラではないよ。あいつの頭の中には、明確な国家のビジョンがあるはずだ。これは、そのプロセスの第一段階だろうな。」
「全く…頭のいい奴の考えは分からんね…。」
実際にこの後、それぞれが様々な理由から、國民全体の三割以上が常國を去る事を選択したのであった。




