投降
更に半月経った十一月下旬、旭川と帯広に防衛線を引いていた自衛隊は、武装解除してロシア軍に投降した。
石黒が新政府を立ち上げ、条件の全てをクリアしたのだ。
ロシアの条件を達成する為に、石黒が一番苦労したのは、意外にも警察組織の解体であった。
既に腐敗の温床であった警察組織は、法という縛りが無くなると、極端に二つの勢力に分裂していた。
一つは、この非常時に道徳的、倫理的に柔軟に人々を守ろうとする勢力。彼等は各地でコミュニティでの役割を担い、頼られる存在となっている。
そしてもう一つは、今迄の法に従い、それを振りかざして理不尽を強要する勢力だ。まるで『自分が法だ』といった感じである。
勿論、石黒が対立したのは後者であり、実際に矢面に立ったのは…俺達だ。
「このままだと、留置所が警官で溢れそうだな。」
宮川は本当に可笑しそうに、檻の中を眺めて皮肉る。
「余り挑発するんじゃねえよ。ただでさえ厄介な連中なんだ。改心してくれれば、それでいいのさ。」
俺がそう嗜めると、宮川は肩をすくめてみせる。
「お巡りさん、悪いようにはしないさ。ロシアとの交渉が終わるまで、もう少し辛抱してくれな。」
俺は拳銃をチラつかせながら、言葉とは裏腹に強い眼差しを檻の中に向ける。
実際にコイツラは、権力を傘にして難民に非道なことを繰り返した。「殺しても良いのではないか」と、宮川に提案していたのは俺だった。
「それにしても、今朝は随分と冷えるな。ここの暖房壊れたんじゃないか?風邪ひきそうだからもう行こうぜ。」
檻の中のその警官は、薄い毛布に包まりながら、何も言わずに俺達を睨んでいた。




