組織
「石黒です。お久しぶりですね。一度、本部の道場でお会いしましたが、覚えておられますか?」
石黒と名乗ったその男は、人の良い笑顔で握手を求めてきた。
「ああ、覚えてるよ。まさか、あんただったとはね。」
「初めまして、宮川です。」
サラリーマン…宮川は、綺麗な礼をすると、サラリーマンらしく名刺を出した。
「宮川さん、宜しくお願いします。早速ですが、場所を変えましょう。」
俺達は石黒の車に乗り込むと、港に停泊していたクルーザーへと移動した。
「多少強引な手を使いましたが、知事とは話を着けました。議会は解散、残留している自衛隊との調整も終わっています。ロシアとの水面下での話し合いも、概ね予想通りの展開になっています。現在、あちらが提示していた条件の8割は達成しました。」
石黒は俺達の組織が用意した外交担当だ。以前に一度本部の道場で会い、核戦略理論の話で意気投合したのを覚えている。ロシア人の母を持ったナイスミドルだ。
「中国側の動きはどうなんだ?」
「統理が本土を押さえましたから、北海道は飛び地になるでしょう。ロシアが実行支配している今、中国が領土を主張するのは考えにくいです。しかし、ここは既にかなり中国の手が入っていますから、一掃する事は困難ですね。」
「そうだな…。」
「ロシアも、今は中国との関係を維持する必要があります。中国と我々では天秤にも乗りませんよ。」
「だから、あんたが来たんだろう?期待してるよ。」
石黒は軽く頷いてニヤリと笑うと、立ち上がった。
「そうそう、女神様の御名前は聞けましたか?」
「…いや、今度会う時までには聞いておくさ。」
「では、楽しみにしていますね。」
石黒の屈託のない笑顔に見送られ、俺達はホテルへと戻った。




