小樽
「日本政府の連中、國外へ逃げてったらしいぜ。」
「ああ…沖縄を土産にしたんだろ?クズだな。」
俺とサラリーマンは小樽運河を見下ろすホテルにいた。この辺りは電気も復旧を終えて、街灯が夜の運河を照らしている。人影こそ疎らだが、少しずつ落ち着きを取り戻しているようだ。
北海道には、資源や食糧が豊富にある。平時であるならインフラさえ復旧すれば、十分に道内で経済が回るだろう。
苫小牧には、日本の石油備蓄の二割が貯蔵されている。電力も発電所のメンテナンスを考えても、1年は問題ないだろう。電力が生きていれば、食糧は足りるはずだ。
道北や道東の混乱を考えると胸が痛むが、札幌周辺の安定には、今後の北海道の生き残りが掛かっている。
都市部の住民の多くは、早い段階で親戚や知人を頼り郊外へと移動した。有事の際に取るべき行動としては、的確な判断であった。首都圏に比べると移動距離はあるものの、受け入れる側にそれだけの余裕があった事が、大きな要因だと思う。
「奴らは北海道の事なんて…とうにロシアに取られてしまった…と忘れてしまったんだろうな。」
「まあ、結果として中国に売られなかったんだ。余計な事をされるよりはマシさ。」
そう言うと、俺はポケットからシケモクを取り出し火を着けた。
「全く、もう少し買いだめしとくんだったぜ…。」
「ふん…おい、あの車じゃないか?」
如何にもといった感じの、黒塗りの車がホテルに横付けされ、身なりの良い中年男性が降りてきた。
「あいつは…そうか、あいつだったのか。」
「時間通りだ。行くぞ。」
短くなったタバコをもみ消すと、薄暗い廊下へと消えていったサラリーマンの後を追った。




