両親は大罪人
「………うん、どうやら私は疲れているみたいだな。きっとそうに違いない。」
シェラルは現在、両親の私室にある隠し部屋にいる。その部屋には脱税、横領、他国への情報漏洩など、国家反逆罪で一族諸共処刑されても文句を言えないレベルの証拠が揃っていた。
「見間違い……きっと、見間違い……最近まともに寝てなかったから……ついでにまともに食べてなかったから……そのせいで、健全な書類が国家転覆を隠す気すらない、お粗末すぎていっそのこと哀れな書類に見えているだけ…」
シェラルは現実逃避の言葉を呟きながらもう一度、暗号化された文章が綴られた書類に視線を向けた。
(見間違いじゃない……まずさぁ、隠し部屋に隠すなよ。んなもん、好奇心旺盛な子供が興味を示さないわけないだろうが。)
もし、ここにシェラルの心の声を聞いた者がいたら、間違いなくこうツッコんでいる。「普通の子供はそもそも隠し部屋を見つけない」と。
シェラルがなぜ、隠し部屋にいるのか。
――それは、数分前に遡る。
「《魔力感知》」
シェラルは屋敷全体に、薄く、魔力を広げていく。それによって、屋敷の構造や内部にいる生物の情報などが分かるのだ。
(ん?これ、明らかにおかしいよね?)
シェラルは入り口がない不自然な空間を見つけた。
正確には、入り口に何らかの仕掛けを施された部屋である。
「隠し部屋か……?これは行くしかないよな。」
シェラルは久しぶりに図書室の外に出た。隠し部屋を見つけて気分が高揚していたのか、わざわざ身体強化の魔術を施してから廊下を駆けて行く。
辿り着いたのは、両親の私室だった。魔力感知によって、中に人がいないことは確認済みなため、躊躇いなく中へと入った。
両親の私室は贅が尽くされたいかにも貴族らしい、豪奢で悪趣味な部屋だった。ただ、己の財力を見せつけるためだけにその部屋は作られていた。彼らの性格がよく表れている。
もしかしたら、シェラルの両親にはそんな意図すらなく、美的センスが非常に独特なだけ、という可能性もある。シェラルはその辺りに興味を示さずにまっすぐ、仕掛けが施されている本棚の前まで行った。
(本棚……定型的すぎる。今時、クソゲーでももう少し捻ったギミック出すぞ?)
シェラルは前世で散々プレイしたゲームを思い出しながら、本棚を調べる。何冊か本を取り出すと、本棚の奥の壁に微かに、魔力を感じた。
シェラルは眼に魔力を流す。その状態で本棚を視ると、そこには魔術式が刻まれていた。
(ビンゴ…にしても、つまんねぇ……円形にして魔力を節約する以外は確か……魔術を教えてる学園の初等科だっけか?そこで習うような基本術式……)
シェラルは魔術式を一瞬で読み解き、その式に魔力を流しながら特定の本を取り出し、戻す、という作業をする。
何度かそれを繰り返すと、本棚から「カチャリ」という音が聞こえた。シェラルが本棚を奥へと押すと、狭い通路が現れた。
(……こんなに単純な仕掛けなら隠しているのは子供の遊び程度の物か。)
こうして、シェラルは不正の証拠が山積みになった隠し部屋へと入って行った。
この後、自分の想像を遥かに超えるレベルで両親が愚かだったと知ることになるとは欠片も思わずに。
―――――
「ふざけんな。」
両親の犯罪が現実のことだと受け入れたシェラルの感想はそれだった。
(これがバレたら一族諸共処刑コース……奇跡的に私だけ見逃されたとしても平民落ちは確定………)
シェラルは両親が犯罪に手を染めていたことについて即座に受け入れた。そして、別のことへと思考が移っていく。
(平民になったら魔術の研究ができなくなる……!アイツラはマジで一回死んだ方がいい。それが私のためであり、ひいては世のためだ。魔術の研究ができなくなったらマッドサイエンティストになって国から追い出される未来しか想像できねぇよ……?私。)
魔術の研究を今後も続けるにはどうすればいいか、という思考にシェラルは陥った。彼女にとって「好奇心を満たす環境」は両親の生死よりも大切なことなのである。
「国にとって、私を生かすことが最大の利益になると思わせればいいんだ,……」
結論を導き出すと、隠し部屋の扉を閉じて、両親の私室を飛び出した。
執務室の質素な扉の前に着くと、シェラルは一度、足を止めた。部屋の中に人の気配があったからだ。
「スゥー…ハー…」
(大丈夫。中にいる人は殺気立ってない。少なくとも、中に入った瞬間に私を殴ってくるような人間じゃないはずだから……)
シェラルは呼吸を整え、コンコンコン、とノックをし、返事を待たずに中に入った。
執務室内の光景はある意味で圧巻だった。床は足の踏み場もないほど書類で埋め尽くされ、地層のように天井付近までそれらが積み上がっている。ほんの一瞬「よく倒れないな」と、シェラルが現実逃避を選んだほどである。
「お嬢様……?」
執務室の机にはスティウム侯爵家の家令である、白髪に淡い水色の瞳をした初老の男性、ギルバートがいた。彼はどう考えてもこの場に不釣り合いな幼い令嬢の登場に困惑を隠せず、ポカンと口を開けたまま硬直した。




