星の兄妹
夜になると、世界は静かにひらかれました。
それは地上の夜ではなく、星空の奥にある、透きとおったもう一つの国のことです。
その国では、すべてがやさしく光っていました。道は銀の砂ででき、川は音もなく流れる光でした。そしてその上には、天帝の御座が、しずかに青く輝いていました。
兄と妹は、その天帝に仕える小さな官吏見習いでした。
【星の掃除】
兄は毎晩、星をひとつずつ磨く仕事をしていました。
星は遠くから見るとただの光ですが、近くで見ると、小さなガラス玉のようで、ときどき曇ってしまうのです。
「今日は少し曇り気味だな。」
兄がそう言うと、妹はそっと布を差し出しました。
「この星は、昨日泣いていた人のそばにありました。」
兄はうなずいて、ていねいに磨きます。すると星は、まるで安心したように、やわらかく光りはじめました。
妹はその間、星の記録帳をつけていました。
「悲しい涙の星、一つ。うれしい涙の星、二つ。」
その文字は、まるで歌のように静かでした。
【天帝のしごと】
ある夜、天帝から呼び出しがありました。
「今夜は、少し星が多すぎる。」
天帝はそう言いました。声は遠く、けれどはっきりと胸にひびきます。
「地上で、たくさんの願いが生まれているのだ。」
兄は空を見上げました。たしかに、いつもより星が増えています。きらきらと、少しせわしなく瞬いていました。
妹は小さく首をかしげました。
「願いが多いと、星は増えるのですか。」
天帝は静かに答えました。
「そうだ。だが、すべてが残るわけではない。」
その言葉に、兄は少しだけ胸が重くなりました。
【消えていく星】
その夜、兄と妹は、初めて「星を消す」仕事を任されました。
消えかけた小さな星が、兄の手のひらに乗っています。
それはもう、ほとんど光っていませんでした。
「これは……」
兄がつぶやくと、妹が帳面を見ました。
「届かなかった願いです。」
しばらく、二人は何も言いませんでした。
やがて兄は、そっと息を吹きかけました。
星はふわりとほどけて、見えない光になり、どこかへ消えていきました。
妹は、小さな声で言いました。
「でも、なくなったわけではない気がします。」
兄はうなずきました。
「うん。きっと、どこかに残るんだろう。」
そのとき、遠くで新しい星がひとつ、生まれました。
それはとても弱い光でしたが、たしかにそこにありました。
【そしてまた夜がくる】
仕事を終えた帰り道、二人は並んで歩きました。
「お兄さん。」
「なんだい。」
「もし私たちの願いも星になるなら、どんな光でしょう。」
兄は少し考えてから、答えました。
「たぶん、あまり強くはない。でも、長く消えない光だと思う。」
妹はうれしそうに笑いました。
その笑顔のそばで、小さな星がひとつ、また静かに瞬きました。
それが誰の願いだったのか、天帝でさえ、もうお答えにはならないのでした。




