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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編 後編
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レーツ




「おぉ、ここがレーツか!」


 ヤマト一行は伯爵家の馬車に乗って、神聖国家ルーナレーンの中心部、レーツに来ていた。


 ながながと続く田園風景を抜けた先にあるレーツは、セルメ以来はじめての都市部だ。

 ツヤのある、木造の建物が、ぽつぽつとならんで、いかにも貴族街というかんじだ。


 聖誕祭が近いこともあって、通りには人が多い。

 そこそこ賑わった街。

 しかし、セルメのように商店が並んでいる、というわけではなく、商人の声はない。

 人々は立ち話に花を咲かせていた。


 続いてファミアとオロネス、シェルネスも馬車から出てきて、レーツの光景に三者三様の反応を見せていた。


「うう、腰が痛い……」


 前の馬車からネルが降りてきた。


 いくら伯爵家の馬車とはいえ、まるまる2日間も乗っていれば疲労も溜まる。

 今にもへたりこんでしまいそうなネルを横目に、伯爵とログネス、つきそいのメイドも降りてきた。

 

「はっはっは、ネルはいつもそんな調子だな!」


「だって、ずっと座ってるの、きついじゃないですか」


「そうか……?」


 父がまわりを見たので、ファミアも他の者達を見る。


 ルーネス、ログネス、ファミア、ヤマト、シェルネス、オロネス。

 皆、ながいたびの後なのに、余裕そうにレーツの町なみを見ていた。


 全員が冒険を経験した者で、それなりにきたえている。

 彼らは歩き旅の怖さを知る人間だ。

 だからこそ、このくらいの移動であれば文句を言うことはない。


「え……?」


 自分だけこんな状態なのか、仲間はずれじゃないかと呆然とするメル。

 後ろから付き人のメイドが降りてきた。


 メイドは若く、きっちりとした、いかにも使用人らしい人だったはずだが、猫背で老人のように腰をさすり、小さなうめき声を漏らしていた。

 メルの顔が自然とほころぶ。


「大丈夫? 移動はきついよね? そうだよね? ねー?」


 メルの顔が怖い。

 なんか怖い。

 よくわからないけど、怖い。


 えも言われぬ恐怖を前にして、メイドはコクコクと頷いた。






「では、また」


 一行はヤマト、ファミア、オロネス、シェルネスのファシヤオグループ(ヤマト命名)とそれ以外の伯爵家グループに分かれた。


 ファシヤオグループは魔術師として、ギルドへの顔出し。

 伯爵家グループは高級宿に向かい、部屋をとることにした。


「小さい頃に、レーツには何度も来てましてね。

 この国は特殊なので、説明させていただきます」


 ヤマトはいつもどおりの無表情でシェルネスを見た。


 感情が読めず、怒っているようにも見えるが、そうではない。

 無反応なだけで、これは続きを促しているのである。

 めんどくさいが、それすら愛らしい。


 至上のリーダーのために、シェルネスは街の説明を始めた。


「ルーナレーンは神聖国家で、共産主義をとっています。

 国民はみな平等です。仕事も、給料も、食料も、すべてが平等です」


「へー、それはすごいですね……」


 ファミアの目に暗い光が宿った。


 王都で迫害の対象となり、貧困層としてスラム街で過ごした日々。

 すごく、苦しかった。


 この国が平等ならば、ここにはそれがない。

 ファミアには、それが羨ましかった。

 もしこんな国に生まれていれば、あるいは。


「すごいですよね。でも、ふつう共産国家は破綻するものです」


「なんでですか?」


「すこし考えてみてください。

 一生懸命に働いた人と、一切はたらかなかった人。ふつうなら給料に差が出たり、クビになったりしますよね。

 でも、共産国家ならみんな平等。給料は同じなんです」


「そんな……」


 やっぱり理想にすぎなかったのか、とファミアの顔が暗くなる。

 オロネスが間髪入れずに口を挟んだ。


「では、なぜこの国は共産国家として成り立っているのですか?」


「それはこの国が神聖国家だからですよ」


 ファミアが顔をしかめる。

 オロネスはうつむきがちに2、3度うなずいて顔を上げた。


「……つまり、信仰することで、競争がなくても意欲がわく、ということですか」


「……! さすが、ヤマト様の配下なだけありますね。いまの言葉だけでそこまで理解できるとは」


「ねえ、どういうこと?」


 ファミアは不満げに声を上げた。


 さもわかって当然かのように話が進んでいるが、わかっているのはオロネスだけで、ファミアにはわからない。

 ヤマトは無表情を貫いているが、おそらくわかっていない……はずだ。


 シェルネスはファミアに向き直り、説明をはじめた。


「みな平等であれば、働いた人と働かなかった人とで、悪い意味で差が生まれない。これでは不満がたまります」


「それはわかります」


「そしてもう一つ。差が生まれないと、働こうという意欲がわきません。

 全体的に意欲が低下すると、技術というものは進歩しにくいのです」


「……?」


 ファミアが小首をかしげて疑問を呈する。

 シェルネスの説明に乗っかってオロネスがつけ足した。


「例えば、魔術戦で負けたら、悔しいですよね。悔しくて悔しくて、相手を倒したくて、魔術を練習しますよね。

 でも、みな平等だと、魔術戦、すなわち競争がなくなるんです。

 すると、技術――ここでいう魔術がいつまでたっても進歩しない」


「なるほど」


「解説ありがとうございます。

 ではファミアさん、共産国家を成り立たせるにはどうすればいいか、わかりますか?」


「…………」


 しばしの間、沈黙が流れる。

 しかし、考えても考えても答えは出なかった。

 それを見て、シェルネスが苦笑まじりに答え合わせを始める。


「正解は、競争がなくても意欲がわくようにすることです。

 ルーナレーンの宗教、ディオ教の教えでは、極端に言うと、働くことは神のためになり、あの世で幸せになることができる、というものがあります。

 ほかにもたくさんありますが、数えればきりがありません。

 とにかく、ディオ教のお陰でこの国はなりたってるんですよ」


「……でも、神様を信仰しない人もいるんじゃないですか?」


 ファミアの雰囲気が変わる。


 ファミアは見た。苦しむ人達を。

 のたれ死ぬ人たちを。

 神なんていない、と言う人達たちを。


 ファミアは生で見てきた人間だ。


 シェルネスはそんなファミアに気圧(けお)されつつも、言葉をつむいだ。


「ルーナレーンは、長い永い時間をかけて、みながディオ教を信仰する国をつくったんです」


「……わかったような、わからないような……」


 ファミアの雰囲気がもどった。

 はりつめた緊張感が解け、シェルネスはフッと口元を緩めた。


「私もよくわかりません。わかりませんけど、この国はそうなんです」


「ふーん」


 納得はいかないかったが、ファミアはそういうものだとむりやり納得した。


「共産国家であるルーナレーンは、中心部以外に目立った都市がありません。セルメのような重要拠点であれば別ですが、基本的に農村部だけです。

 中心部には聖地と、外国の貴族向けの宿場町があるだけです。

 ほら、商売してる人がいないですよね」


「たしかに……」


「そんな共産主義のルーナレーンは、明確なランク分けがあるギルドとの相性がよくありません。

 農村部にギルドを置けば、国民は格差というものを覚えてしまいます。

 下手すれば、ルーナレーンが滅びかねません」


「……よくわかりませんが、とにかくギルドはルーナレーンと相性がわるいんですね」


「そういうことですね。

 とはいえ、全世界に展開しているギルドを拒絶する、というのはよくないことです。

 ルーナレーンは共産主義から外れた場所である、貴族向けの宿場町にギルドを造りました。

 ……ちょうど見えてきましたね。あれがルーナレーン唯一のギルドです」


 シェルネスがある建物を指さした。


 貴族街の建物にまけず劣らずの、品のあるレンガ造りの建物に、龍と杖の紋章。

 魔術師ギルドだ。




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