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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編 後編
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大神官




 レーツの魔術師ギルドは、貴族街の中にあっても、おかしくないほどの高級な造りだった。

 中に入ってもそれは同じで、他の街にくらべて品のある造りをしていた。

 

 しかし、魔術師たちの服装は高貴というよりもラフなものだった。

 それを見ると、いくら外見が高級そうでも、やはりギルドに来たのだということ感じられた。


 とはいえ、ここのギルドは他のギルドよりも静かだ。

 ふつうならワイワイガヤガヤと噂話や商談をしたりしているものだが、ほとんどの者が押し黙っていた。


 ファミアはなんとなく不思議に思って、あたりを見わたしてみた。


 魔術師たちはなにかを取り囲んでいて、それに気をとられているようだった。

 受付嬢までも、その『なにか』に注目している。


 人が多く、肝心のなにかは見えない。

 しかし、あきらかに、なにかが起こっている。


 ファミア以外の三人もおなじ空気を感じとったようだ。

 早く受付で手つづきを済ませてしまいたいところではあるが、なんとなく、やりにくさがあった。


 しかし、ヤマトはそんなふうに空気の読める人間ではない。

 どちらかといえばぶっ壊す側の人間だ。


 ツカツカと受付まで歩いていって、机に手帳を置き、嬢に話しかけた。


「これ。確認してくれ」


「え、えーっと……?」


 受付嬢は、他のことに気を取られていたので、突然はなしかけられて驚いていた。


 確認してくれと言われたので、とりあえず手帳を受けとった。

 しかし、なにを確認すればいいのかわからない。


 ヤマトの背後から、三人が足早に追いかけてきて、申し訳なさそうに付け足した。


「すみません、言葉たらずで。

 私たち今日レーツに来たばかりなんです。

 3人分の移動の確認を、おねがいできますか?」


「はい、かしこまりました」


 受付嬢は、追加で2つの手帳をうけとる。

 ファミアとシェルネスのものだ。

 慣れた手つきで手帳と名簿を照らしあわせ、必要事項を一つひとつ確認していった。


 手つづきの最中、手持ち無沙汰になり、シェルネスが受付嬢に話しかけた。


「今ギルドで何が起こっている?」


 とつぜん高圧的な口調になり、ファミアはびっくりしてシェルネスを見た。

 しかし、表情が険しいというわけではない。

 特に怒っているというわけではないそうだった。


 あくまでも、こっちがシェルネスの素なのだろう。


 受付嬢は、口調のことなど気にすることなく、作業を続けたまま答えた。


「一週間後の聖誕祭のことで、大神官様がいらっしゃっております」


「大神官? なんだ、それ?」


 ヤマトの幼い声は、自然とギルドに響いた。


 一部の人の注目が、『なにか』からヤマトの方に向く。

 ある者はヤマト嘲笑い、ある者はヤマトを侮蔑した。


 受付嬢は、その者たちを無視して、ヤマトに対して、誠実な態度で説明をはじめる。


「神聖魔術の使い手には、主に2つの区分わけがあります。

 中級以上の神聖魔術が使える人は祭司、それ以外のディオ教の信者は神徒。そう呼ばれています。

 神徒の中には神聖魔術が使える人も、使えない人もいますね」


「そのくらいは知ってるぞ」


「そうでしたか。それは失礼しました。

 説明に戻りますと、大神官様は祭司の中でも、特にすばらしいお方が選ばれるんですよ」


「なるほどなるほど」


 ヤマトが説明を聞いている間にも、周囲の者たちの、ヒソヒソとした嘲笑は広がっていった。

 大神官様の前で何を、とか、まだ子どもじゃないか、とか。


 しかし、それは受付嬢の一言でひっくりかえってしまった。


「わかっていただけましたか? ()()()()()()様?」


 瞬間、ヒソヒソがザワザワに変わった。


「嘘だろ!? あの怪鳥を倒したっていう!?」


「なんでも、大魔術を一人で使ったとか!」


「まず7歳で学院を卒業とか、頭おかしいだろ!?」


「あのペイロン伯爵を一蹴したとも聞くぞ?」


「バカみたいなメイド服を着て苦しめたんだってな!?」


 さっきまでシンと静まっていたのが嘘のように、ギルドは騒然となってしまっている。


 その時、ある男が、人混みを堂々かき分けてヤマトの前に姿を見せた。

 喧騒はピタリとやんだ。


「君が最年少魔術師か。うわさはかねがね」


 ヤマトのくもりなき眼が、男を捉える。


 男はスラリとした長身の好青年だった。

 赤い髪に、一房だけ黒い髪。

 ひとみの色は髪色と同じ、苛烈な赤だった。


 男がヤマトの目の前に手を差し伸べる。


「僕はルージュ。大神官なんて呼ばれてる。よろしくな」


 ヤマトは差し伸べられた手を握り返した。


「ヤマト。よろしく」


「フフッ、君とはなかよくなれそうだ」


 二人は固い握手をかわす。

 男は人好きのする笑顔をうかべて、ニカリと笑った。




「で、おまえ強いんだよな?」


 しょっぱなからお前呼ばわり。

 ギルドにいた全員がざわついた。


 しかし、ルージュに気にした様子はない。


「強いほうだと思うよ? でも、大神官がみんな強いわけじゃない」


「そうなのか?」


「多くの弱き者を救ったら、そいつぁもう大神官だ。

 僕は魔物を狩ってたら、いつのまにか大神官になってただけだ。

 僕はそんなに高尚な人間じゃないのにな」


「そんなことはありません! あなた様はこの国の英雄にございます!」


 ルージュの付き人の一人が声を上げた。

 ギルドの者たちも同様、コクコクとうなずいて同意している。


 ルージュは苦笑して謙遜しつつ、ヤマトに向き直った。


「とにかく、魔物を狩るのは得意分野さ。

 で、強さなんて聞いてどうしたんだ?」


「俺に神聖魔術を教えてくれないか?」


 ヤマトは声音(こわね)こそいつも通りだったが、目がキラキラしていたので興奮しているのはバレバレだった。

 ルージュは苦笑しつつ、首を横に振った。


「残念だけど、聖誕祭の準備で忙しいんだ。

 聖誕祭の後でなら構わないんだけど…………あっ、そうだ。ちょうどこれから教会に行くんだけど、ついてくるかい? そこでなら教えてくれる人がいるよ?」


「行くぞ!」


 ヤマトはすぐさま踵を返し、ルージュのすそを引っ張った。


「そんなに焦らなくても……わかったって、行くから行くから」


 ヤマトに引っ張られるがままにルージュはギルドの出口に向かった。


 出る時に、ヤマトの相手をしていた受付嬢を一瞥(いちべつ)した。

 するとニコリと笑いかけられて、ルージュは胃を抑えて出ていった。




「ちょっとヤマト、待って!」


 ファミア、オロネス、シェルネスの3人は、ズンズン進んでいくヤマトに、やっとのことで追いついていた。


「はいこれ手帳。忘れていっちゃだめでしょ」


「ああ」


 上気する頬に、減速を知らない足。

 ヤマトはファミアを見向きもせず、片手で手帳を受け取って、無造作にポケットに突っ込んだ。

 これは何も聞いていない。


「君たちは、ヤマト君の、仲間かい?」


「あっ、申し遅れました。ファミアです」


「オロネスと申します」


「シェルネスです」


「シェルネス? どこかで、聞いたことが、ある気が、するな……」


「ルーネス伯爵の息子にございます」


「ああ、ルーネス、様の……いつも、よく、お世話に、なって、ますよ……ってヤマト君、ちょっと速度ゆるめられないかな!?」


 ヤマトに引きずられて、ルージュは息が上がりかけていた。

 他人のペースで引きずられていくのは、思ったよりも体力が削られるものだ。


 しかしヤマトの知るところではない。

 ヤマトはそんなことないと言って、速度をゆるめることなく進んでいった。





 清らかな白。

 斜面が急な屋根。

 カラフルなステンドグラス。

 へたり込む人。


「はぁ、はぁ、はぁぁ……。

 ひどい目にあった……」


 一行は、通常よりもよっぽど早い速度で教会に到着した。


 その頃には、ルージュは肩で息をするくらいにはへとへとになっていた。

 ヤマトの奇行に慣れている二人でも、息が上がっている。


「すいません、うちのヤマトが……」


「いやいや、いいんだよ」


 そう言いつつ、ヤマトに目をやる。

 他の人はみんな疲労を見せているというのに、ヤマトだけはピンピンしていた。


 どこからその体力が出てくるんだ、と内心ぼやく。


 ヤマトは有無を言わさず教会内に入っていった。


「待って待って」


 ヤマトを追いかけて教会に入ると、そこには多くの人が出迎えに来ていた。


「「「おかえりなさいませ」」」


「ああ、ただいま」


 ルージュは玄関で、あたたかく迎えてくれる人たちに、笑顔を向けた。

 大神官のすてきな笑顔を見て、場はなごんだ。


「その方々は……?」


「僕の大事なお客さんだよ。神聖魔術を教えてほしいらしくてね」


「なるほど……」


「でもあいにく、僕は仕事でいそがしいからね。

 メイが代わりに教えてやってくれないかな?」


「へっ? 私ですか?」


 メイと呼ばれた女性は、ひときわ小柄な人だった。

 顔立ちからして20代なのに、痩せていて、子どもみたいな体型をしている。


 メイは間が抜けたような顔で、自分の顔を指さして唖然(あぜん)としていた。


「君なら適任だと思うよ」


「ムリムリムリムリ! 無理ですぅぅぅぅぅ!

 わ、わたしなんかがルージュ様のお客様のお相手など務まるはずがっ!」


 涙目になり、フルフルと首を横に降るメイ。

 ルージュはメイを見て、フッと目を細めた。


「期待してるよ」


「へ?」


 犬のように顔を振り回していたメイは、一瞬かたまった。

 ルージュはそれだけ言い残すと、疲れを感じる遠い目をして、奥のほうに行ってしまった。


「はやく神聖魔術を教えてくれ!」


 呆然と立ち尽くすメイをヤマトが急かす。

 メイは我にかえって、涙目になった。


「ひっ……あっ、あの、と、とと、とにかく奥へいきま、しょう……」


 引きつった声で、メイはヤマトを奥へ案内した。

 ファミアとシェルネスは、なんだかメイを応援したい気分になった。




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