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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編 前編
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いざ




「ヤマト、これどういうこと?」


 ファミアはシェルネスを踏んでいた足をどけ、靴を地面に擦り付けてシェルネスの唾液を拭った。

 その目には明らかに困惑の色が混ざっている。


「仲間になるって……?」


「仲間にしろと言われたから、仲間にした。それだけだ」


「え? ……で、でもこの人、ヤマトにも私にもあたりが強かったよね?」


 ファミアの記憶が正しければ、シェルネスはヤマトを恨みがましげに睨んだり、戦闘中にファミアに敵意を向けて叫んでいたはずだ。

 少なくともあまり良い印象は持っていなかった。


「それについては、私から説明しよう」


 怪訝な顔をするファミアに、伯爵が話しかけた。


「後で本人からも説明させるが、ざっくり言うと、ヤマト君と戦って考え方が変わったらしい」


「『後で』って、今説明してもらったら良いんじゃないですか?」


「いや、こいつ気絶してるぞ」


「え!?」


 ファミアは慌ててシェルネスに駆け寄って肩を叩いた。

 しかし、『起きて』とか『大丈夫?』とか声をかけても、シェルネスは気持ち悪い笑みを浮かべるだけで返事はなかった。


 ギギギと顔を伯爵に向けて、土下座する。


「すみませんでした!」


「頭を下げずとも良い。こいつの自業自得だ。

 それに見てみい。幸せそうな顔してやがる。

 ひょっとすると気絶してるのはお主の暴力ではなく、幸福すぎたことかもしれんな」


「え? いやいや流石にそれは……」


 言いかけて、昨日のシェルネスとの戦闘を思い出す。

 シェルネスは火球がかすったくらいでは気絶しなかった。

 シェルネスはそこまで簡単に気絶するような玉ではない。


 それに、シェルネスの表情は歪んだ笑顔だ。


「…………」


 ファミアのシェルネスを見る目がゴミを見る目に変わる。


 伯爵は笑いながらメイドを呼んでシェルネスを医務室へ運ばせた。

 ヤマトはシェルネスが運ばれる様子を見て、名残惜しそうに「飛行魔術……」と呟いていた。

 なんだか切ない。


「先の話の続きだが、我らレグラット家は皆好奇心旺盛でな。皆揃って、自分が好きなものに徹底して打ち込むのだ。

 少々気持ち悪いのは認めるが、悪いようにはしなかろう。それはコヤツの父として誓おうぞ」


 伯爵はファミアにニカッと豪快に笑いかけた。

 それでもなおファミアは不安そうな顔で口を開く。


「でもこの人、冒険者パーティーのリーダーなんですよね。パーティーを抜けて大丈夫なんですか? それともパーティー揃って仲間になるとか……?」


「コヤツはパーティーを抜けると言っておるが、本当に大丈夫なのかはわからんな」


「……もしそうなったら、ルーネス様は許してくださるのですか?」


「ああ、もちろん許すぞ」


「そう、ですか」


 ファミアは顎に手を当てて、うつむきがちに考え出した。

 数秒経って、伯爵が立ち尽くすファミアに声をかける。


「なに、今直ぐに結論を出せとは言わん。いくらでも話し合ってくれ」


 伯爵は優しくて迫力のある笑みをファミアに向けた。

 ファミアはその眼差しを見て、意を決したように口を開く。


「ヤマト、ちょっと三人で話し合お?」


「分かった……」


 シェルネスが運ばれていってご機嫌ナナメなヤマトは渋々頷き、三人は屋敷の中に入っていった。






 三人はヤマトの自室へと足を運んだ。

 セルメに来た初日に三人だけで相談するときに案内されたのもこの部屋なので、秘密の話をするのにはうってつけの場所である。


「ねえ、シェルネスが私たちの仲間になるのは、ヤマトは良いと思ってるの?」


「ああ。俺は飛行魔術を習得できればそれでいい」


 ヤマトの言葉に、つい数時間前のことが思い出される。


 ヤマトがシェルネスを瞬殺して、伯爵家から観客がいなくなった後のことだ。

 ヤマトは庭に出て、飛行魔術を試していた。


 ヤマトは詠唱を聞くだけでその魔術の本来のカタチを理解することができる。

 そのため、想像(イメージ)の工程をすっ飛ばして、初見で普通の人よりも高精度な魔術を行使することができるのである。


 だが、ヤマトは飛行魔術の制御に苦戦していた。

 おそらく飛行魔術には魔術以外の、魔力操作の仕方や体勢も関連してきて、制御は一筋縄では行かないのだろう。


 ファミアがメイドに聞いてみると、ヤマトはファミアが泣きつかれて寝ている間も飛行魔術の練習をしていたそうだ。

 夜にも練習しようとしていたので流石に止めたらしいが、それほど悔しくて、制御したかったのだろう。


 ヤマトが制御に苦しむほどの魔術はどのようなものかと気になって話しかけてみると、ヤマトは先程の戦闘で得た情報を元にもう一度練習していたらしい。

 だが、飛び上がることこそできていたものの、膝くらいの高さになると体勢が崩れ、ボテッと地面に転がっていた。


 本人曰く、これでも昨日より飛べたとのことだったが、結果としては失敗と言わざるを得なかった。


 四時間ほど続けてこれ以上は進展がないと思ったヤマトは、シェルネスが起きるのを真横で待つことにしたのである。


 やはりヤマトの魔術に対する入れ込み様は異常としか言いようがない。

 確かにそれならば、飛行魔術のためにシェルネスを仲間に引き入れても良いと考えている、というのも納得だ。


(でも、それなら仲間にする話を断っても良いんじゃない?)


 あのシェルネスの様子からして、仲間にする話を断っても飛行魔術を教えるくらいしてくれそうだ。


 そう思っていると、ヤマトがおもむろに口を開いた。


「それに、シェルネスは伸びるぞ」


「……理由を聞いても?」


「あいつは努力家タイプだ。魔術を見れば分かる」


 ファミアの目から見ても、シェルネスの魔術に対する姿勢は一目瞭然だった。


 シェルネスがファミアと戦った、一番はじめの時、シェルネスは完璧にファミアの技を見切っていた。

 あれは相応の努力がないと、実践では安定してできないものだ。


 それにヤマトと戦ったときも、ファミアが使った戦術を直ぐに取り入れていた。

 普段から自分の戦闘スタイルを見直しているのかも知れない。


 何より彼が得意とする飛行魔術についてだ。

 ヤマトが習得に苦労するほどの魔術だ。

 あそこまで使いこなせるようになるまでどれだけの努力をしたか、ファミアには想像もつかない。


(つまり、ヤマトは飛行魔術だけじゃなくて、あの男自身にも興味があるってことね)


 ファミアは「はあぁ」と深くため息をつき、諦観の混じった優しい目でヤマトを見た。


「シェルネスが仲間になるって話、別に私はいいよ。

 ヤマトは魔術が絡むと誰でも受け入れるっていうのは分かってたことだし。

 でも、ちょっと相談くらいしてほしかったな。

 そうじゃないと、ほら。オロネスみたいな悪魔がいつの間にか仲間になったとかありえそうだし」


 ファミアがオロネスをジト目で見る。

 オロネスは慌てて口を挟んだ。


「その説は……」


「別に私にヤマトの配下になったことについて、オロネスを責める権利なんてないよ。

 先に言いだしたのはオロネスだし、ヤマトが嫌がってないなら私が文句を言うのは筋違いだよ」


「…………」


 確かにその通りだ、とオロネスは思った。

 ヤマトの配下になったのはオロネスのほうがタッチの差で先だった。

 そこでオロネスを責めることはできない。


(もしかしたら、ファミア様は許してくれたのか? 私の愚かな行いを)


「でもオロネスが私の故郷を破壊しようとしたのは忘れてないからね?」


「ぐっ……申し訳ございません」


 胸を抑えて猛省するオロネスに、ファミアは軽く視線を送った。

 下を向いているオロネスは気づいていなかったが、ファミアは少し楽しげだった。


 数週間の付き合いしかないが、ファミアは旅をするなかでオロネスのことが少し分かってきていた。


 もちろんオロネスのことは未だに許していない。

 だが、だからといって仲間の一人として信頼が築けないわけではなかった。

 過去のことさえなければ、オロネスはいつの間にか信頼の置ける仲間になっていたのである。


「ヤマトも、これから気をつけてね」


「ん」


 ヤマトは無表情で首肯していた。

 即答であれば本来信用するものだが、ヤマトの場合は逆に信用できない。


(ほんとに大丈夫かな……)


 思わずため息をついて、二人を見る。


 確かに今回の件はいつの間にか知らないところで話が進んでいて、腹が立たなかったと言えば嘘になる。

 だが、二人は自分を素敵なところに連れ出してくれた大切な仲間だ。

 これくらいのことは許そう。


 ファミアは立ち上がってシェルネスの様子を見に行った。





 その夜。


 ヤマト、ファミア、オロネス、ルーネス伯爵、ネル、シェルネスは夕食の席を囲んでいると、伯爵からある提案があった。


「今度の聖誕祭、我らと一緒に行かないか?」


 ファミアはそんな提案をされて、ぜひお願いしますと即答しそうになったが、こればかりはヤマトの意志に委ねるしかない。


 ヤマトは食事の手を止めて、微動だにしなくなっていた。

 いつもヤマトはじっくり考える時、何もせずに動かなくなるのである。


 ふとネルとシェルネスの顔を伺ってみると、二人も事前には知らされていなかったのか、少し驚いた表情をしていた。

 だが、特に嫌な顔はしておらず、むしろ目を輝かせて期待していた。


 そこから30秒ほど沈黙が続いた。

 その間ヤマトは全く動いていなかったし、他の者達も食事どころじゃなくなっていた。

 たった30秒でも、長い時間だった。


 その沈黙を破ったのは、執事のログネスだった。


「ヤマト様、少々意見を述べてもよろしいでしょうか」


「ん、いいぞ」


「もしやヤマト様は、道中で新しい魔術が見れるのではないか、と思っていらっしゃるのではないですか?」


「ああ」


 ファミアは内心、密かに驚いていた。


 ヤマトが特異特殊魔術のために旅をしているとは言っていなかったはずだ。

 だが、ログネスはいとも簡単に言い当ててみせた。


(さすが伯爵家執事長……!)


 ファミアの中でキラキラフィルターのかかったログネスが口を開く。


「道中の街及び村には、複数の特殊魔術があることを確認していますが、()()特殊魔術は確認していません。なので心配しなくても……」


「乗ってく」


 ログネスが言い切る前にヤマトは即答した。


 相変わらずヤマトの世界は魔術を中心に回っているらしい。

 その場にいる全員が苦笑いを浮かべ、生暖かい目でヤマトを見ていた。


「出発は3日後だ。準備を整えて置いてくれ」


 伯爵の言葉に、全員が首肯した。




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