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下手の横好き  作者: クラッシー
第二章 神聖国家ルーナレーン編
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お着替え

 伯爵家に招かれたヤマト一行。

 伯爵にランチにしようと奥へ案内される途中で、ファミアが伯爵の娘ネルに連れ去られてしまう。

「ねえなんで服掴むの!?ヒャッ、そこっ、さわらないでっ、やめっ!」


「はいはいおとなしくしてねー」


「脱がす気!?」


「えっ、そうだけど?」


 レグラット伯爵家一階。

 ぽかぽかと暖かくなってくる昼時。

 ヤマト、オロネス、ルーネス伯爵、ログネスの四人は壁の向こうから聞こえてくる奇声に、ただ呆然と立っていることしかできなかった。


 数秒置いて、やっとのことでオロネスが我に返る。


「とりあえず場所を移してはどうですか?」


「そ、そうだな。すまんな、うちの娘が。可愛らしいものを見ると加減というものを失うのだ」


「ルーネス。お前が言えたことではない」


「はっはっは!それもそうだな!」


 ログネスが目頭に手を当てて、やれやれというように首を振る。

 伯爵は高々と笑いながらその背中をポンポンと叩き、ログネスを巻き込むようにして奥へ進んでいく。

 ヤマトとオロネスもそれに続き、奇声が響くなか、淡々と歩みを進めるのだった。




 男たち四人は奥の広々とした部屋で待つことにした。

 そこには一際大きなシャンデリアが中央にあって、その真下には細長い机が鎮座していた。

 机と椅子には所々に荘厳な装飾がしてあって、より存在感を引き立てていた。

 四人は机を囲んで、おしゃれな間食を食べながらファミアたちを待った。


 20分ほど経ったところで、廊下の奥から足音が聞こえてくる。

 四人の視線が自然と音の方向へと集中する。

 音は次第に大きくなっていき、ついに伯爵の娘、ネルが姿を現した。


「ごめんねえ、遅くなって。はあーい、ファミアちゃん、御披露目ー」


「え、えっと、どう、かな?」


 ファミアは伏せ眼がちに男性陣に自分の服をアピールする。


 ファミアは首もとに白いリボンが結んである、白のインナーの上に白い上着を羽織り、白いミニスカートを着ていた。

 白いニーハイソックスを履いているため、ミニスカであることによる露出は抑えられていた。


 要するに、ファミアは真っ白な制服に身を包んでいたのである。


「ファミアちゃん、一週回ってみて」


「あ、はい」


 ファミアは言われた通り、その場でクルリと一回転する。

 上着とスカート、白髪が同時にヒラリと舞った。


「おお、まるで雪が舞っているようだな。かわいらしいではないか!」


 伯爵が立ち上がって叫んだ。

 

「ええ、とてもお似合いかと」

「はい、お似合いです」


 伯爵の叫びに、従者たちも続いた。


「いいでしょいいでしょ?全身白じゃなきゃいけないって言われたから、どうなるかと思ったけど、やっぱり素材がいいね!単色でここまで似合うとは思わなかったよ」


 メルはそれはそれは満足気に語った。


「じゃあ次は……。そこのお兄さんから先に行こうか!」


「私もですか……!?」


 ヤマトの真後ろに立って控えていたオロネスが狼狽える。


「そりゃそうでしょ。行くよー」


「ですが、私にはヤマト様の後ろにいるという義務が――」


「いやそんな義務ないぞ。はやく行け」


 オロネスはげんなりして、生き生きとしたメルに連行されていくのだった。


 オロネスとすれ違って、ファミアがヤマトの隣まで行く。

 心なしか口を尖らせていた。


「ねえヤマト。なにか言ってくれても良いんじゃない?」


 ファミアはヤマトの耳元で囁くと、おどけるようにして手を軽く曲げて広げ、ヤマトの間近で微笑んだ。

 ヤマトはファミアを上から下まで見て口を開く。


「白いな」


 ヤマトはそれだけ言うと、数秒間の沈黙が流れる。


「……えっ、それだけ!?」


「ん?これだけだよ?」


 ヤマトは不思議そうに首をかしげ、首肯した。


 ファミアは撃沈してヤマトの隣の椅子に崩れ落ちた。




 オロネスは10分もしないうちに戻ってきた。


「どうでしょうか?」


 オロネスは上下黒いスーツを身に纏っていた。

 袖や首もとには黄色と淡緑の刺繍が施されている。

 よくよくみれば、サイズこそ違えどログネスと同じ服だった。


「うむ、よく似合っているな」


「私と同じものですが、着る者によってここまで印象が変わるのですね」


「確かに、若々しいと言う感じですね」


 伯爵、ログネス、ファミアの順で感想が述べられると、オロネスは再びヤマトの背後に立って控えた。


「じゃあ、最後ヤマト君ね」


「いや、俺はいいよ」


「はあーい、行きましょうねー」


「うー」


 ネルは嫌そうに顔をしかめるヤマトを有無を言わせず引きずっていった。




 ヤマトの着替えは三人のなかで一番長く、30分以上かかった。

 理由は明白だった。

 ヤマトが身に付けていたものは、黒の短めのスカートに白のエプロン、フリフリのカチューシャ――そう、メイド服だったのだ。


 伯爵とファミアが無言で立ち上がる。

 そしてそのままヤマトに詰め寄った。


「ちょっと礼してみて」


 ネルに言われた通りに、ヤマトがペコリと頭を下げる。


「そのまま~?」


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 そう言って顔を上げたヤマトの頭に伯爵の手が乗る。


「おほ~!なんだこのかわいい生き物は!」


「いいでしょ」


「うむ、さすがだ!」


 伯爵がヤマトの髪の毛が乱れるのも厭わずに、クシャクシャと頭を撫で回す。


「やめr……やめてください」


 ヤマトが伯爵をキッと睨み付ける。

 しかし、それはかえって悪手だった。


「わはははは!かわいいなあ!」


 伯爵の手がモチモチほっぺたに移る。

 伯爵はふにふにとほっぺたをいじり始めた。


「うっ、気持ち悪い……です」


「罵倒サービスありがとうねえ!その取って付けたような『です』もサービス?敬語が慣れないのかな?かわゆいねえ!」


「う~」


 ヤマトは助けを求めて周囲を見渡す。

 一番近くにいるファミアは顔を真っ赤にしてあうあうしていた。

 侍女も心臓を押さえて悶絶していた。

 ネルは言うまでもなかった。

 なんなら普段冷静沈着なログネスとオロネスも、ヤマトに目が釘付けになっていた。


「んっ!」


 ヤマト小さいながらに締まった腕力で抱きかけの伯爵を押し退け、左手を横に突き出す。


「この屋敷っ!塵にするぞ!」


 ヤマトがすかさず爆炎火球の詠唱を始める。


「ちょっとまってごめんわかったからやめてっておねがいおねがいわるかったってやめて」


 伯爵がヤマトの左手を掴んで制止した。


「はぁ……」


 ヤマトが肩をすくめる。


「離して」


「……わかった」


 伯爵は5秒ほど渋って掴んだ手を離した。


「お前たち、ランチにしてくれ」


 伯爵が控えていた侍女たちに指示を出す。

 侍女たちはハッと我に返り、なぜかヤマトに一礼してから奥へと消えた。




「すまん、取り乱したな」


「もうやめろよ?」


 伯爵が高笑いをしながらヤマトと同時に腰を下ろす。

 ファミアも名残惜しそうに空を揉みながら着席した。


「で、伯爵。俺を呼び出した理由は?」


 ヤマトが真剣な目付きで伯爵を真っ直ぐに見据える。


「なに、時の魔術師をこの目で拝んでおこうと思っただけだ。まさかこんなかわいいとは……すまんすまんそう睨むな」


 伯爵が苦笑いでヤマトを制する。


「っていうか、時の魔術師ってなんですか?」


 ファミアが伯爵に聞く。


「おう?なんだお主ら知らんのか?」


「ん?なにが?」


 侍女が銀色のカバー、クロッシュが被せられた皿を静かに運んでくる。


「お主ら、ギルドで一躍有名人になっておるぞ」


「えっなんで?」


「そりゃお主、フェルメを悩ませるクトゥルネを倒したそうじゃないか。それで天才魔術師とか怪鳥狩りとか言われて持て囃されておるぞ」


 侍女が次々と皿を運んでくる。


「俺たいしたことしてないぞ?めんどくさい」


「わはは!嬉しいよりめんどくさいが先に来るか!確かに的を得ているが、今は素直に喜んでおけ!」


「そういうものか?」


 侍女が配膳された皿から同時にクロッシュを取った。

 中からパンやスープ、サラダ、魔獣肉のソテーが顔を出す。

 その全てがおしゃれに飾り付けがなされていて、上品さを引き立てていた。


「おお、うまそうだな!お前たち、ありがとう」


 侍女が軽く微笑んでペコリと頭を下げる。


「さあ、遠慮なく食べてくれ!」


 しかし、突然遠慮なくと言われても、元スラム暮らしのファミアはガチガチに緊張してナイフさえ持てない。

 そんな中、ヤマトが真っ先にナイフを持ってソテーを無造作に切り分け、口に運ぶ。

 モチャモチャと食べて嚥下するのを見て、ファミアもようやくスープを口に持っていった。

 伯爵家の人間たち皆してその様子を微笑ましく見守っていた。


「そうだ、ヤマト君。ギルドでは君が大魔術師とも言われている」


「「「えっ」」」


 ネル、ファミア、ログネスが絶句する。

 ヤマトは顎に手を当てて考え込んだ。


「すみません、大魔術師とは……?」


 オロネスがヤマトに耳打ちする。

 ヤマトが口に含んでいたものを飲み込んで、周りに聞こえない小さな声で話し出した。


「上位魔術を()()()扱える魔術師を総じて大魔術師と呼ぶんだ」


「えっ、それって……」


「ああ、上位魔術は複数人の凄腕の魔術師が息を合わせて詠唱することによって初めて成り立つ。だから大魔術師の存在は不可で、幻の存在と言われている」


「なるほど」


 納得したオロネスが再び後ろに控えた。


「ねえヤマト、上位魔術なんて使えたの?」


「いや、俺一人では使えないぞ」


「わはは!流石だな。一人では、と言ってのけるとは!複数人で上位魔術の行使ができるだけでも有数の魔術師だと言うのに」


 伯爵の高らかな笑いが響いた。


「で、なぜそんな噂が立ったんだ?」


「なんでも、クトゥルネを屠ったのが上位火魔術の烈炎波火球だとか」


「あれか?ただの爆炎火球だぞ?」


「いやただのじゃないでしょ……」


 なんでもない、とでも言うようなヤマトに、すかさずファミアが突っ込んだ。


「なるほど、てっきりお前たち三人が上位魔術を詠唱したと思っていたが……ログネスの予想は外れたわけだ。残念だったな」


 伯爵がニヤニヤとログネスを見る。


「いや、上位魔術級の中位魔術って、どれほどの威力なんだそれは」


「お?負け惜しみか?約束通りあの服は渡さんぞ?」


「くっ、性格の悪い……」


「わはは!悪かったな、性悪で」


 伯爵が悪い笑みを浮かべながらソテーを口に運んだ。

 それを飲み込んで、再びヤマトに話し出す。


「あっ、そうだ。1つ頼みたいことがあるんだが、構わないか?」


「……報酬、あるか?」


「そうだなー。猫耳魔術というのがある。それで良いか?」


「ほおほお!なんだそれは!まさかネルの言う伝承の魔術とはそれのことか?」


「ええ、そうよ」


「猫耳、猫耳かあ。なかなか面白そうな術式が期待できそうだな」


 ヤマトの口角がみるみる上がっていく。


「よし、乗った!それで手を打とう!」


「わはは!さすが魔術師よな!」


「ルーネスの若い頃もそうだっただろう」


「確かにそうだったか。とにかく、引き受けてくれて感謝する!詳細についてだが……」


 ヤマトは口の周りをスープで汚しながら伯爵の説明を聞くのだった。

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